裏組織の末路

 土地神とは、民間信仰における村落の守護神として、その土地に住む住民を天災や戦乱から守ったり、土地によっては死後をも司るとされる民間信仰の神である。


 土地と建物に迷宮核を埋め込まれたことにより、悠斗邸のボスモンスターとして顕現した土地神トッチーは悠斗邸広場に住まうすべての住民を、自らの子供であるかのように接し見守ってきた。(当然、迷宮主である悠斗様は別枠である。)


 その土地神トッチーが見守っている愛しき住民たちが危機に陥っている。それは土地神トッチーとって、とても看過できる様な物ではなかった。

 何より許せないのが、エリア悠斗邸外とはいえ、悠斗様の施した【影精霊スピリット】が発動するまで、まったく気付くことができなかった私自身だ。

 守護するエリア外でも動くことのできる土地神トッチーも悠斗邸外のことには疎い。


 ひとつでも我が子を傷つけられる可能性があったことに、自分の身を引き裂くほどの痛みを感じる。


 そんな悠斗邸広場のボスモンスター、土地神トッチーは、我が子悠斗邸に住まうものを傷付けられそうになったことによる静かな怒りの感情を目に宿し、ガラの悪い集団に対峙している。


「はぁ? 誰が何を掃除するって?――ぐぶっ!!」

「まさか俺たちのことを言っているんじゃ――あがっ!!」


「黙りなさい……。」


 二人の男が土地神トッチーの間合いに入るや否や、持っていた箒で男二人を掃き飛ばしていく。

 掃き飛ばされた二人の男は、悠斗邸の塀を越えたところで魔法陣の様な光に呑まれ消えてしまった。


「なっ!?」

「さっきの奴も化け物だが、こいつも化け物だっ!!」

「こ、こいつはヤベーな……。」

「に、逃げるぞッ!!」


 土地神トッチーは、逃げ出した男たちに向かって手をかざすと、心の中で【土壁ウォール】を唱える。


 これは悠斗様に貰った【土属性魔法】が込められた腕輪の効果だ。


 トッチーが手を翳すと、逃げ出した男たちの真正面に壁が出来上がる。

 突然出現した壁に対応しきれなかった男たちは次々と壁に顔を強打し仰向けに倒れていく。


「私の子たちを傷付けようとしたあなた方を逃がすとお思いですか?」


 土地神トッチーは、冷徹な笑みを浮かべると、【土壁ウォール】にぶつかり倒れ込んだ男どもを次々と、悠斗邸の塀の上に掃き飛ばしていく。


「ぐふっ!」

「げへっ!!」

「がっ!!」


 ユートピア商会に現れた男たちがいなくなったことを確認すると、大通りの商会に視線を移し土地神トッチーはため息をつく。


「ふう、まだあんなに害虫が……。私の子たちトリアたちを怖がらせてくれた方々には報いを受けさせねばいけませんね。それに……。」


 悠斗邸広場ボスモンスター土地神トッチーは、私の子たちトリアたちが商会内に入ったことを確認すると、ユートピア商会を後にし、支援金支給対象の商会の元へと向かう。自分が何をしたのか分からせるために…。誰を敵に回したのかを分からせるために……。


「あなた方のせいで、あの子たちに怖がられたらどうするつもりですか……絶対に許しませんッ。」


 男たちにとって、それはあまりに理不尽な怒りであった。



 一方、悠斗邸にも、20名の賊が門の前に集結していた。


「はっ、こんな門、さっさと壊して中に入ろうぜッ!」

「いや待て、万が一、この門を壊したことで兵士が集まってきたらどうする。」

「いいんだよ! そんな事を考えなくてもッ!」


 賊の一人がそう言うと、大剣を振りかぶり門へと斬りつけるが、『斬ッ!』という音が鳴り響くも、まったく切れ目のない門を目に驚愕の表情を浮かべる。


「な、なにッ!」


 木製の扉のはずなのにまったく切れる様子がない。

 驚いているとその扉が急に開かれる。


 そこには、一人の執事が立っていた。


 男たちは、一瞬虚を突かれるも突然開かれた門に突入し、執事に斬りかかる。


「ようこそ、悠斗様邸へ。そして、ここがあなた方にとっての人生という永い旅の終着点でございます。」


 屋敷神ウッチーがそう呟くと、賊たちの足元に魔法陣が顕れた。


「「「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」」」


 賊どもが目覚めた時、そこは、決められた通りにしか身体を動かすこともできず、ただ商品を作り出すためだけに動きが最適化された機械のような人形に生まれ変わっていた。


 ある人形は食肉を加工し、ある人形は資材を運んでいる。


 この状況を信じられず、限られた動きで左右を見渡すと、俺たちと対峙した執事と目が合う。

 血走った目で睨みつけるもまるで動じる様子はない。


(お、俺たちはっ! 何をさせられているんだぁぁぁぁ!)


 男たちの心情を勘ばかり、ウッチーは告げる。


「悠斗様の商会が軌道に乗り私も大変なので丁度欲しかったのです。文句を言わず24時間働いてくれる人形が……。皆様のおかげで、60体もの人材……いえ、人形を手に入れることができました。」


「ウッチ~。ちゃんと彼らを魔石で動く人形に変えたんだから、悠斗様やカマエルたちには内緒で、ショートケーキを作ってよね♪ 60人も人形にしたんだから、ホールケーキ60個は貰わないと割に合わないよ~?」


 ウッチーが人形から視線を外し、ロキへと視線を向ける。


「もちろんでございます。後ほど、ロキ様の階層にお届けに上がります。ああ、悠斗様からは新作ケーキのレシピを貰っておりますので、ぜひロキ様に味見をして頂きたいのですが……。」


「おっ! いいね、いいね♪ ウッチー分かってる~☆ またいつでも声をかけてよ! 最優先で対応しちゃうよ~♪」


「ありがとうございます。」


 そういうと、ロキは自分に充てられた階層に戻っていった。


「さて早速、ケーキ作りに励みましょうか。」


 ウッチーは人形たちを一瞥すると、どこからともなくフリルの付いたエプロンを取り出し、ダイニングに向かうのであった。

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