ユートピア商会発足
ユートピア商会オープン前日、悠斗は、最後の研修を早めに切り上げると、従業員たちを夕食という名の前夜祭に誘うことにした。
前夜祭といっても、悠斗邸の広場に机と椅子、いつもより豪勢な料理に酒を並べているだけだ。もちろんケーキやアイスといったここでしか食べることのできない甘味やワインも忘れない。
悠斗がカップを片手に取ると、同じくカップを片手に持っている従業員たちの顔を見渡していく。
「え~、皆さん。今日まで研修ご苦労様でした。明日は、ユートピア商会のオープン日となります。皆さぞかし緊張されているかと思いますが、今だけは、そのことを忘れ、精一杯料理と酒を楽しんでください。あっ、明日寝坊しないで下さいよ? それでは皆さん! 乾杯!」
「「「かんぱ~いッ!!!」」」
皆、思い思いにお酒と料理を楽しんでくれている。
折角、ここまで一緒に研修を乗り越えてきた。明日は、従業員の皆に頑張って貰いたい。
そのための、前夜祭である。
「それにしても……皆参加してくれてよかった……。」
正直、俺が従業員たちを誘って、この前夜祭に来てくれるのか心配していた。。
ウッチーとトッチーは、『悠斗様ならきっと大丈夫です。』という、どこからその自信が来るのか分からない回答を返してくれたが、杞憂に終わったようだ。
ちなみに、この前夜祭には、ウッチーやトッチーだけでなく、ロキや、ロキによる変装を施したカマエル、
ケーキやわらび餅、バニラアイスなどに群がっている3人組がそれだ。
カマエルさんが片手にワインの瓶を掴みラッパ飲みしている。楽しそうで何よりである。
とはいえ、ハメッドさんに開業祝として貰ったワインだ。結構な量があるとはいえ、もう少し味わって呑んでほしい。
ちなみに、このワインや冷えたエールは従業員たちにも提供している。
この前夜祭というなの食事会終わりにでも、胃薬・酔い止め代わりに初級ポーションを渡そう。万が一、酒が原因で遅刻されては堪らない。
「悠斗様ッ!」
元気に声をかけてくれたのは、スラム出身の10歳カイロくんだ。
お父さんのラオスさんやトリアさんは、二人だけの空間を作り、ワインを傾けている。
「カイロくん、食事は美味しい?」
「うん! すごく美味しいよッ! 悠斗様にお願いがあるんだ。」
お願い? なんだろう??
悠斗がはてなマークを頭に浮かべていると、カイロくんが後ろから包みを手渡してくる。
「これを受け取って!」
色紙のようなものがひとつ。とても丁寧にラッピングされている。
「ありがとうカイロくん。今開けてもいいかな?」
「うんっ! これ皆からのプレゼントなんだっ!」
悠斗がプレゼントを開けると、それは従業員からの寄せ書きだった。
「うわ~っ! ありがとう! 俺、寄せ書きとか初めて貰ったよっ!!」
寄せ書きを貰ったのは初めてである。正直言って、素直にうれしい。内容を見てみると一部の従業員が、まるで俺を崇め称えるかのようなことを書いているが、それはもう気にしないことにした。
「みんなに書いてもらったんだっ! 悠斗様、明日は頑張ろうねッ!」
「うん。頑張ろう! これからもよろしくね。」
悠斗はカイロくんにお礼をいう。
他の従業員も、料理を食べながらこちらにチラチラと視線を向けてくる。
「みんなもありがとう! 明日は絶対に成功させよう!」
「「「お~!」」」
「明日から頑張ろうぜっ!」
「悠斗様~俺の働き見ててくれよなっ!」
「僕もねッ!」
「私も頑張るわっ!」
「おお、神よ……なんと神々しい……。」
悠斗の言葉に、自然と声が湧き上がる。
そして翌日、ユートピア商会はオープン日を迎えた。
ユートピア商会発足当日、朝8時から従業員たちが悠斗邸の広場に制服を着て集まっている。数日前から紙を使ってビラ配りもした。準備万端である。
「皆さん! 今日という日を迎えることができたのも皆さんのおかげです。打倒商業ギルドは難しいかもしれませんが、それを念頭にいい
悠斗がそう言うと、『オオォォォォーーッ!』という声と共に、従業員たちはそれぞれの場所へと向かう。
ユートピア商会では、主に、迷宮産の生鮮食品(青果、鮮魚、精肉)や、紙や武器防具などの雑貨、悠斗が創りだしたインテリア用品、足場などの建築資材の販売、中古品の買取などを行っている。
そして、ユートピア商会のインテリアフロアの中央には、オープンに合わせて創りだした『冷蔵庫』に『照明器具』これが目玉商品として並べられている。
また、生鮮食品を売り出すにあたり開発した冷蔵ショーケースには【時属性魔法】の【鮮度維持】が付与されており、扉を開け取り出すまでの間、時間が経過しないため腐ることもない。いつでも新鮮な状態でお客様に生鮮食品をお届けできる。
午前9時、満を持して店をオープンすると、王都に住むお客さんが雪崩れ込んできた。
一部の人間は、この店に入ってくることができなかったようだが、概ね順調にことは進んでいる。
なお、入れなかった一部の人間も、渋々、当商会を後にしているようだ。
ユートピア商会は、悠斗邸の敷地内にあるため、悠斗邸と同様にウッチーとトッチーの能力【
この商会内に入ってこれなかった人たちは、おそらく商業ギルドの工作員か、手癖の悪い人のどちらかだろう。
そんな中でも入ってくる奴はいる。
そう、オタワくんである。
「従業員よ! 店主を呼べ! この子爵家の嫡子、オタワがこの店の面倒を見てやろう!」
従業員がバックヤードにいた俺を呼びに来る。
「悠斗様、客様がっ!」
従業員のあまりの剣幕に、まさか仮設機材が倒れ、お客様が怪我でもしたのかと焦りながら向かうと、そこには鞭で背中を打たれもんどりをうつオタワくんがいた。
「リ、リア……貴様、何度私の背中を打てば気が済むのだッ!」
なんでオタワくんがここに? アゾレス王国留学研修中じゃなかったの?
悠斗に気付いたオタワくんが声をあげる。
「おお、店主は貴様であったか! 喜べ、この店は私がしっかりと面倒を見てやろう!」
オタワくんが、俺を見て何故か嬉々とした表情を浮かべるも、『ビシッ!』という音と共に、汗を垂らしながら渋面を浮かべ、もんどりをうつ。
「なっ、なぜ鞭を打つのだリア! 私は店主と交渉を……。」
「申し訳ございません。お客様、店内でのSMプレイはご遠慮いただきたいのですが……。それに魔法学園はアゾレス王国に留学研修中では……。」
するとリア従者は俺に向き合い頭を垂れる。
「お騒がせしてしまい申し訳ございません。アゾレス王国への留学研修は特別枠の生徒だけとなっております。本日は休日で、王国民が行列を作っている新しくできた商会に目を付けたオタワ様が急に突入してしまいまして……。オタワ様は私が責任をもって連れ帰りますので、何卒穏便に……。」
「そうですか……。わかりました。取りあえず、オタワくんは出禁ということでお願いします。」
そういうと、リア従者はオタワくんの首根っこを掴むと、ユートピア商会を後にしていく。
どうやら思い込みの激しい馬鹿には【
新たな発見である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます