(閑話)商業ギルドの話し合い。悠斗対策会議
ここ数日、王都の商業ギルドでは、一時脱退した元Aランク商人、佐藤悠斗の対策会議が持たれていた。また同時に妨害工作にも動いている。
商業ギルドを脱退している悠斗の成功は、商業ギルドの威信に関わる問題だ。
万が一、悠斗の商いが成功してしまうと、商業ギルドの面子が丸潰れである。
商業ギルドは、商人連合国アキンドが築いた組織である。今でこそ8人の評議員が運営する組織であるが、元は小さな職業別組合のひとつだった。
当時は、街で売られる製品や商品の品質が
今でこそ、各国の商人が商業ギルドを組織し、商人連合国アキンドの元、一定のルールを敷くことで価格差をなくし、8人の評議員たちの方針により市場の価格をある程度流動的に決めることができるようになっている。
また商業ギルドに加盟している商人が、粗悪品を客に売りつけてしまった場合も、商業ギルドが粗悪品を売りつけた商人を罰し、不利益を被った客に補償をするなと、客に対する補償を厚くしたことで商業ギルドに加盟する商人の信頼性も増し、商業ギルドに加盟する商人からの買い物であれば補償も受けられ安心して買い物をすることができるという安心性を持たせることができた。
一応、互助組織としてギルドを組織しているが、これはあくまで建前で、本当のところは、商業ギルドという組織が国の流通を牛耳ることで、その国に対する発言権や、独占権を得ることに意味がある。
もちろん国も強かで、商業ギルドに対し税金を課されてしまったがこの位であれば許容範囲内だ。
もし万が一、国側が横暴を言うようであれば、商業ギルドに加盟している商人に対して、商業ギルドが補償を出す代わりに、国や客に対し商品を売らないよう通達するだけで、その国の流通を破綻寸前まで陥れることができる。もちろん、国側もある程度、独自の流通経路を確保しているのですぐに破綻とはいかないが、そうなってしまえば時間の問題だろう。
このように、商業ギルドに属する商人同士が協調性を持ってギルド運営を行っている中、商業ギルドに加盟していない商人が幅を利かせては商業ギルドの面子が台無しになってしまう。
悠斗が一時的とはいえ、商業ギルドを脱退するというのであれば、商業ギルド、ひいては商人連合国アキンドの総力を挙げてでも、かの少年を潰さなくてはならない。
そんな中、この件を仕切っている商人連合国アキンドの評議員、リマはとてもイライラしていた。
商人連合国アキンドでは、評議員が商業ギルドのトップに立ち運営を行っている。
商人連合国アキンドの実質トップで商業ギルドのまとめ役である【代表評議員】、ギルド運営を担う【執行担当評議員】、ギルドの財務担当【財務担当評議員】、ギルド内の商品開発、統制を行う【技術担当評議員】、ギルドの長期的な戦略を担う【戦略担当評議員】、ギルド内の情報や各国の内情について調べる【情報担当評議員】、商業ギルドの価値を最大限高める【知識担当評議員】、そしてそのすべてを監査する【監査担当評議員】に分かれ商人連合国アキンドの運営又は商業ギルドの方針を決定している。
ギルド運営を担う【執行担当評議員】のリマがイライラしているのは、元Aランク商人、佐藤悠斗への妨害工作が全く実を結んでいないからに他ならない。
今も、王都商業ギルドのギルドマスター、ミクロを呼びつけ、生産性のない叱責を繰り返している。フェロー王国における【アキンド紙】の流通が思うように行っていないこともイライラしている理由の一つだ。
フェロー王国では、佐藤悠斗が格安で流している【
「ハメッドやマスカットはなにを考えているんだっ!」
「わっ、わかりません。申し訳ございません。」
苛立ちのあまり、思っていたことが声に出てしまった。
ミクロもなぜそんなことを言われたのか分からずにいる。
「今回のことについて、商人連合国アキンドとしては、どのような対応をとる方針なのでしょうか?」
「ああ? 今のところ静観だとよっ。マスカットの奴が首を縦にふらねぇんだ。」
まったくもって忌々しい。
マスカットの奴、なんだって佐藤悠斗に肩入れしていやがるんだ?
てめぇが脱退した時とは、状況が違うんだぞ? なにが『悠斗に手を出すのは止めておけ、アキンドの不利益にしかならん。』だっ! 既に、アキンド紙で不利益を被っているじゃねぇかっ!!
ミクロは、機嫌が最高に悪いリマの顔色を伺いながら呟く。
「そうですか……。」
「ただ、
商業ギルドに楯突いたものは厳罰に処す。これは商人連合国アキンドの基本方針である。
そのため、商業ギルドでは、悠斗の動向を確かめるため、常に2人の監視を付けている。
先日、突然、邸宅に店ができたと報告が入り、急ぎ、商業ギルドの息のかかった妨害工作員を20名ほど送りこんだが、そのすべてが面接試験を受ける前に退場となってしまった。
工作員には、悠斗に感づかれるような目立った行動はしないよう言い聞かせているが、まさか、送り込んだ全員が、とぼとぼとギルドに帰ってくるとは思ってもみなかった。
採用試験の内容を聞いてみたものの、落とされる理由がよく分からない、というよりも、工作員たちの話を聞いて
門を潜れなかったら不合格となる採用試験など聞いたことがない。
しかも、なぜ門を潜ることができなかったのかは伏せられたままだ。
もう少し頑張って情報を掴んでこいと小言のひとつでも言ってやりたいが、訳も分からず不合格とされた彼らの哀愁漂う姿を見ては口を
ここで叱責したところで仕方がない。ただモチベーションが下がるだ。
他にも、商売人にとって大事なステータス値【LUK(幸運)】を下げるため、懇意にしている呪術者に、悠斗の【LUK(幸運)】を下げるため、ステータスダウンの呪いをかけてもらいに行くも断られてしまった。
それに、悠斗の販売先を阻もうにも、ポーションの流通先は、評議員のマスカット会頭だし、紙の流通先はマスカット氏と懇意にしているハメッド氏である。
せめて、流通経路を塞ごうと考えても、どこから商品や素材を仕入れているのかは全く分からない。精々、商業ギルドやギルド傘下の商人たちから香辛料を買うくらいだ。
敵対的な行動をとっているにも拘らず、図太い性格である。
また悠斗の悪評も広め辛い。悪評は一度流れてしまえば、商人にとって致命的な一打となり兼ねない。
ミクロとしては、悠斗に『悠斗様が商業ギルドに戻ってきたいと思って頂けた時点で、商業ギルドからの介入は止めと致します。それも、
もちろん、ギルドに帰ってくる予定の商人の悪評を商業ギルドが主導して広めたとなれば尚更だ。
評議員であるリマ様の承認を貰い、悠斗の店の近くに出店している商人や、同業の商人に対して支援金を支払うことにしたがこれも効果があるかは分からない。
支援金は、
こうすることにより、商人たちは悠斗の店で販売されている商品より格段に安く販売することができる。
果たして、この措置がどんな効果を生むのか、ミクロとしては、悠斗が早めに商業ギルドに頭をたれに来るのを願うばかりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます