千年も万年も

降り続けてきたんだと

雪はいう

おまえの親父おやじ爺様じいさま

そのまた親父も爺様も

おれはみんなみてきたと

おれのひと粒ひと粒が

ひとりのこらず憶えていると

闇を粗目あらめりながら

えんえんと語り続ける


すべていのちのいとなみに

冷たい重みをかけてきた

無数むすう無量むりょう生滅しょうめつ

いく層となくつみかさね

刹那せつな刹那せつなのただなかに

時のいせきをつくるのだ

永劫えいごう無限むげんにうちつづく

ひと代ひと世の明滅めいめつ

おれのよどみがやわらげて

ほのかな影にかえすのだ


この世あの世のさかいさえ

おぼろにするほど降るのだと

雪はいう

娑婆しゃばも地獄も極楽ごくらく

ひとつところとまがうほど

かわらぬ様子さまべるのだ

音も匂いも色も無い

冬の景色にするのだと

何里にもわたる低い声を

木樹の芯まで忍ばせる


この里もこのむら

みえぬ果てまでうめ尽くし

光のしめすものすべて

音のしらせるものすべて

夢もうつつも凍らせて

想いの底に降ろすのだ

いのちすべてのうちがわに

うつろな冷気をしこめて

ありとあらゆることわり

かすかな迷いにもどすのだ


昔もいまもすえ

無間むげんめぐるまぼろしと

雪はいう

此岸彼岸しがんひがんへだたりも

対面あわせた鏡の狭間だと

雪はいう

生死しょうじ有無うむきょじつ

ひとしく同じ次元くらいだと

夜の砕屑さいせつことごとく

冬のかたちに変えてゆく


いつかはおまえも、と

雪は言葉の模様を変える

おまえの親父と同様に

おれの里に帰るのだ

おまえが何処に居ようとも

おれの温度はお前にしみて

消えることがないのだから

おれはお前の奥底で

消えることがないのだから


雪はうねりをもとにもどし

千年も万年も、と

くりかえす

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