6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その9
「にしてもプロで0勝って……恥ずかしくないのか?」
「ぬぐぉッ!?」
俺が言葉を発するやいなや、まな子は胸を押さえてうずくまった。
「……大丈夫か、心臓病か?」
「かっ、勘違いするでない。そなたの言の刃(は)に断ち切られただけだ!」
「えーっと、……すまなかったな?」
「反省の念がこもっておらぬ謝罪などいらぬわ!!」
「じゃあ、どんまい!」
「く……クックック、我を怒らせたな、怒らせおったな!?」
「あんまり騒ぐと、夢咲達が起きちゃうぞ?」
「お、おっと……。盟友の眠りを妨(さま)げるのは、冥王としてあるまじきことだな」
口を押えて、声のトーンを落とすまな子。なかなか善人な冥王もいたもんだ。
「で、迷王(・・)さんよ」
「今、カチーンと来るものを感じたが……?」
「気のせいだ。で、お前を怒らせたらどうなるってんだ?」
「決まっておる」
人差し指を真っ直ぐ上に伸ばし、下手なヤツがクロールするように腕をピンと伸ばしたまま指頭を俺に突きつけてきた。
「そなたに宣戦布告する! ――戦場は電脳の世界だ!!」
「つまりゲームな」
「端的に言えばそうである。しかし我の妙技を前にしては、いかなる者も迷える子羊と化し、最後にはその身を地獄の業火に焼かれ、消し炭と化すであろう」
「……やっぱり冥王は料理下手だったかあ」
「そういう意味ではないわっ!!」
むっきーとかいう擬音でも見えそうな怒り方だ。
……なんだろう。よくわからないけど、違和感があるんだよなあ。
上手く言えないけど、歯の間に苺の種が挟まったような……そんな感じだ。
場所を俺の寝室兼自室――といってもいいのだろうか――兼、収録部屋に移した。
ここなら防音だし、騒いでも問題ない。
「クックック。我の腕(かいな)から発される闇の力が人類をはるかに凌(しの)ぐ、超絶プレイングを可能とする。つまり生流伯爵、そなたの敗北はもう時流逆転によっても変えられぬ絶対不動のリザルトとしてアカシックレコードの第四図書室の――」
「あ、もういいから。とっととやろう、いい加減眠くなってきたし」
「我をこうまでコケにするとは。どうやらそなたはまるで命が惜しくないと見える」
「いやまあ、ただゲームをやるだけだし」
「訂正せよ。決闘であるぞ、決闘!!」
「あーはいはい、決闘ね決闘」
「あしらうなあ!!」
最終的には子供の駄々を眺めているような感じになった。
……やっぱりだ。
初めて会った時とは違って、まな子の怒り方は比較的大人しい。金網にキレていた様からはちょっと想像できない。
「……で、この『フォーク・ガイド』ってのは、どういうゲームなんだよ?」
「よかろう、我が直々に説明をしてやる」
えへんと胸を張る姿は園児か小学生が得意ぶっている様とよく似ていた。眺めていて微笑ましい。
「この遊戯はフォークを持ったキャラと共に、様々なミニゲームをクリアしていく。そして最後の一人になるまで勝ち上がれば優勝という、新感覚のバトロワゲームである」
「なんか昔のテレビ番組でやってそうな感じのルールだな」
「似たようなものだ。今回は一対一のタイマンモードで勝負するぞ」
「別にいいが……。俺一応、初心者なんだけど。練習とかはさせてくれないのか?」
「ククク。百獣の王は兎を狩るのに全力を出すように、羊の命を奪う冥王も何人たりとも容赦(ようしゃ)はせぬということだ!」
「……なあ、プロゲーマーよ。お前の辞書には今すぐ慈悲っていう言葉を書き加えるべきだと思うが?」
「何を甘いことを。勝負は戦う前から始まっているのだぞ」
何も間違っちゃいないが、せめて操作方法ぐらいは教えてほしかった。
「ルールはランダム三戦でいいな?」
「三本勝負か。いいぞ」
「ククク、早く負け犬の遠吠えを聞きたいものよ」
俺は羊なのか、それとも犬なのか……? まあ、どっちでもいいが。
ローディング画面を挟み、ミニゲームの紹介画面らしきものになる。
何やらちっこくて可愛いキャラたちが壁に刺さったフォークの持ち手の部分に乗っていた。跳ねているっぽいヤツもいる。
「このゲームはいかに早くゴールにたどり着けるかを競うという、シンプルながらも黒き魔力に満ちたレースである」
「……ジャンプが重要になるのか?」
「うむ。フォークからフォークへ移り、頂点を目指すのだ」
「へえ。にしてもなんだか、キャラが小人みたいだな?」
「うむ。彼奴(きゃつ)等は、小型化レーザーを食らったある被験者が、元の姿に戻るべく蹴落とし合いをさせられているのだ」
「え、この見た目の世界観で?」
お子様が見ても全然大丈夫そうな、健全ワールドだと思っていたのだが……。
「と、我の魔導書庫のデーモンズ・ディクショナリーには書かれていたぞ」
「つまり脳内設定な……」
真に受けて損した……。
「だがそういう脳内設定を考えるのも、ゲームの醍醐味の一つであろう?」
「そういえば俺も子供の頃は、そんなことを考えてたな。RPGのキャラが全然寝なくても食事しなくても平気なのは、実はロボットだから……とかな」
「ククク、大分|拗(こじ)らせた妄想だな」
「……お前にだけは言われたくない」
地味に心にクリティカルヒットしていた。
「特別に操作方法を見せてやろう。覚えるがいい」
「……まあ、ありがとう」
別に尊大な態度を取るほどのことではないが、わからん殺しをされる可能性が低くなって少しほっとした。
「アクションコマンドが少ないな。とっつきやすそうなゲームデザインだ」
「しかしゆえに奥が深い。油断していると足をすくわれるぞ」
ぺきぺきと指を鳴らしているまな子。初心者だから手を抜いてやろう――という気遣いをするつもりはまったくなさそうだ。
こっちも気を引き締めてかかったほうがよさそうだと、俺はコントローラーを握り直してパソコンのスクリーンをしかと見据えた。
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【次回予告】
生流「接待プレイってあるよな?」
夢咲「ああ、相手を気持ちよくさせるためにわざと手を抜くことデスネ」
生流「あれってどう思う?」
夢咲「まあ、場合によりけりだと思いマスケド。初心者の方と楽しく遊んだりするのにはいいんじゃないデスカ?」
生流「でも昔、愛衣にバレてすっごい怒られてさ……」
夢咲「生流サン、そういう嘘とか下手そうデスモンネ……。女装はともかく」
生流「よくセリカの正体がバレないなとは、俺も思う」
夢咲「次回、『6章 女装ゲーム実況者の俺、東北へ行く その10』デス」
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