第39話「やんちゃな慶次をゲットだぜ!③」

 王都ブリタニアの視察中……

 出会ったのは、御付きの騎士エリック・マイルズの実弟ゴヴァン。

 

 行きがかり的に、俺は奴と腕相撲勝負をする事となった。

 俺を完全な『草食系』と見下し、勝つ気満々のゴヴァンではあったが……

 勝負は呆気なくついた。


 ダン!


「ぐあうっ!」


 部屋に置かれた大型テーブルの板面が、重く鈍い音できしみ、

 同時にゴヴァンのくぐもった悲鳴も噛み締めた口から漏れ聞こえた。


 ゴヴァンは腕相撲に負けたポーズ……

 拳と腕を、テーブルの上板に「べたり」とつけたまま……

 痛みは勿論、受けた大きなショックで固まったまま動かない。


 俺とゴヴァンがテーブルで腕を組んだかたわらでは、やはりエリックが驚きで目を大きく見開き、ポカンと口を開けていた。


 「信じられない!」という驚愕の波動が、兄と弟の両方から強く強く放たれている。


「ば、馬鹿な! ゴヴァンがこうもあっさり負けるとは……」


 そう!

 俺とゴヴァンの勝負は一瞬でついてしまった。

 

 奴を気絶させた時点で、絶対に勝つとは思っていたが、想像以上の圧勝である。

 邪神ロキがくれたチート能力。

 全てにおいて通常の人間の10倍の能力。

 奴があれほど自慢するだけあって、確かに素晴らしい。


 死んだアーサーから引き継いだ知識によると……

 ゴヴァンはこの王国では『若き豪傑』と呼ばれているらしい。

 

 何故ならば、奴が参加した若手騎士の試合は敵なしの連戦連勝。

 それも圧倒的なパフォーマンスで勝っていたからだ。


 加えて、一般騎士部門の大会ではアルカディア王国ナンバーワン騎士と称される、柴田勝家ことシードルフにも何度か勝利している。

 つまりゴヴァンは武技や膂力でいえば、このアルカディア王国ではナンバーワン騎士のシードルフに全くひけをとらないという事。


 そんなゴヴァンを、チート魔人な俺はてんで問題にしなかったのだ。


「ははは、ゴヴァン、ワンモアチャンス。もう一回やるか?」


 勝負は一回だけの筈なんだが……

 俺がついサービス精神を発揮したら、ゴヴァンが凄まじい勢いで喰い付いて来た。


「ああ! も、もう一回だ! くそ! ま、まぐれは絶対に続かんっ!」


 だが……俺の勝利は、けしてまぐれなどではない。


 ダン!


「ぐあうっ!」


「もう一回!」


 ダン!


「ぐあうっ!」


 こうして……俺とゴヴァン・マイルズの腕相撲は、30回以上も繰り返された。

 そろそろ頃合いだろう。


「ゴヴァン、そろそろ良いか? 勝負はもう完全についたぞ」


「も、もう一回だけぇ!!!」


 ゴヴァンの奴、相当な負けず嫌いだ。

 悪く言えば粘着、良く言えばしぶとい……


 ムキになるゴヴァンと遊ぶのは嫌ではないが、俺は基本忙しい。

 ずっと腕相撲をしているわけにはいかない。


 なので、俺はゴヴァンを見据え、最後の宣告をする。


「よし! じゃあ次で本当に本当の最後だぞ」


「おう!」


 しかし最後でも、結果は全く変わらない。


 ダン!


 またも同じ音が響いた。


 固く握られた手を、俺が強引に外しても、ゴヴァンは暫し呆然としていた。

 そんなゴヴァンへ、俺は問う。


「おい、ゴヴァン、さすがに納得いったか?」


「アーサー王子、納得した! もう悔いはない! 怖れ入った! これで……通算33戦0勝33敗だな!」


「ははははは、ちゃんと数えていたのか?」


「あ、当たり前だ! だがいつかは貴方に勝ちたい!」


 さすがにゴヴァンは騎士のはしくれだ。

 ここまで徹底して戦ったら、遂に納得してくれたらしい。

 俺が「やめ!」と言ったら、潔く受け入れた。

 

 うん……

 気持ちが通いさえすれば、結構、気持ちの良い奴じゃないか。

 俺がそう思ったら、いつの間にか、奴の言葉遣いまでが変わっていた。


 自分があっさり負けた事から……

 『力を信奉する者』として、俺への見方をガラリと変え、且つ認めたのだろう。

 リスペクトするって。


 改めて理解した。

 ゴヴァンは真っすぐな性格で、闘争心の塊みたいな男だと。


 若さが有り余り、はけ口のないストレスが溜まり、たまりにたまった負のエネルギーを上手く発散出来ず、いらいらしていたのだろう。

 

 そんな奴の欲求不満は、腕相撲如きだけでは、解消出来ない筈……

 なので、俺は追加の勝負を快く誘ってやった。


「ははははは! じゃあ次回は馬上槍試合ジョストと剣技で、お前と勝負してやろう」


「ほ、本当ですか! それ、いつですかぁ!」


 俺が『遊び相手』になると言ったら、ゴヴァンは嬉しそうだ。

 ちなみに馬上槍試合ジョストとは、騎士が一対一で行う騎馬試合の事。

 

 目の前の『武辺者』ゴヴァンを、配下としてどう使うか、俺は既にイメージを立てていた。


「ははははは、俺は忙しい! 暫し待て! それより、ゴヴァン。俺と遊ぶ前に、お前には仕事を申し付けるっ!」


「仕事? 王子が俺に?」


「ああ、頼むぞ! とても大事で重要な仕事だ」


「とても大事で重要な仕事!? お、王子っ! 俺がやるのは、な、何の仕事ですかっ! どんどん言って下さいよっ! すんごくやる気が出てきましたっ!」


 うん!

 こいつは良い気合を見せている。


 これでまたひとり、武将コレクションが増えた。

 コンプリートまで一直線だ。


 甥ではなく弟という間柄など、やや設定は異なるが……

 それはロキのご愛敬というもの。

 前田利家ことエリックとの繋がりを考えれば、ゴヴァンはあの豪傑、前田慶次に違いない。


「おし! いずれ呼び出して説明するから、ゴヴァンよ、万全な支度をして待っておれ」


「はいっ!」


 ゴヴァンは兄エリックとは全く違うタイプだ。

 ひと言で性格をいえば、食わず嫌い。

 弱い奴、なよなよした奴は嫌い。

 人を見かけや性格だけで判断するが、分かり合えれば仲良くなるのは凄く早い。


 俺とゴヴァンの会話を聞くエリックも、本当に嬉しそうだ。

 同じ主君に兄弟で仕える。

 弟の就職が無事決まったのと、励みになる良きライバルが出来た喜びがあふれている。


 ここは俺の大きなこころざしを告げ、この兄弟には更にやる気を出させるのが賢明だろう。


「エリック、ゴヴァン、これから話す俺のこころざしをしかと聞け。良いか? 俺達でな、このアルカディアを変えて行くんだ」


「え? アルカディアを変える?」

「どういう事です?」


「お前達も、今アルカディアが置かれた状況を知っているだろう? 俺とイシュタルの政略結婚の理由もな」


「は、はい! アヴァロンとの軍事同盟は、ガルドルド帝国への対抗策ですね」

「いつこちらへ来るか……周囲の国々はどんどん奴らに征服されていますよね」


「ああ、このままでは我がアルカディアはじき滅びる! 帝国に侵略されて蹂躙され、取り込まれ完全に消滅する」


 ここで俺達が帝国と呼んだのは……亡きアーサーから教えて貰った知識……

 この世界で最大規模を誇る専制君主制の国、ガルドルド帝国の事である。

 

 何でも『神の子』と称する皇帝が国を治め、精強な騎士団を使い、版図拡大を目的に……

 破竹の勢いで各地へ進撃を続けているという。

 俺の中のイメージでいえば、地球の『ローマ帝国』に近いだろう。

 日本の戦国時代で言えば、最強の騎馬軍団を擁した武田信玄かもしれない。

 

「……確かに!」

「もし奴らが攻めて来やがったら、俺は……徹底的に戦いますよ、王子」


「うむ、俺もお前達と一緒に戦う! 座したまま滅びてたまるかよ!」


「「御意!」」


 声を合わせて答えたマイルズ兄弟。

 更に俺はきっぱりと言い放つ。


「うむ! 俺はな、アルカディアを徹底的に改革し、富国強兵の方針を貫く! ガルドルド帝国の脅威を退け、国民全員と共に、絶対生き残ると決めている」


「うおおおっ! くそ帝国の脅威なんかにびびるかぁっ! 負けてたまるかぁ!」

「う~、奴らを想像したら血が熱くたぎるぜ! あっちが殺す気で来るなら全員返り討ち、逆に思い切りぶっ殺してやるっ!」


「ああ、そうだ。エリックとゴヴァン、お前達の熱い想いが、強い力が絶対に必要なんだ」


「私はやりますよ! 年下の弟には負けられない!」

「何の、俺だって! 武技だったら兄貴には絶対に負けないっ!」


 マイルズ兄弟両者の燃えるような気合を受け、

 俺は満足し、大きく頷いたのであった。

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