第10話「襲撃①」
目覚めた俺を心配そうな眼差しで見守っていたのは……
『爺や』マッケンジー公爵、エリック、そして第一王子付き護衛の騎士2名、
都合4名である。
アーサーの記憶によれば……
全員が彼に仕える忠実且つ信頼出来る部下達だという。
警護の騎士4名……一国の、それも第一王子の護衛としては、
絶対的に少ないと思うが……
王位継承者としての力の無さ、または騎士として、人望の無さの結果だと、
本人は自嘲気味に嘆いていた。
そのマッケンジー公爵達は、本物のアーサー王子が『不慮の事故』で亡くなり、
『別人の俺』と入れ替わったのを知る
ちなみに俺、雷同太郎と、お亡くなりになったアーサー・バンドラゴン王子が、
入れ替わったのは、王都ブリタニアから少し離れた郊外の森である。
アーサー王子が普段から、王宮を抜け出し、『息抜き』をしていた場所らしい。
さてさて!
「今日は、嫁イシュタルが輿入れした日」だとアーサーは言っていた。
そんな日に、彼が城を抜け出したのは、
『とても微妙な事件』であり、俺にはコメントしようがない。
まあ、イシュタルとの結婚が完全に政略結婚ということもあり……
いろいろ複雑な事情と、王子としてアーサーが自分の至らなさ、コンプレックスについて、思い悩むところがあったようだ。
ちなみに……
木から落ちて死んだというのは、「魔がさした」としか、
言いようがない。
という事で、俺ことアーサーを始め全員が、
大至急、輿入れして来たイシュタルの待つ王宮へ戻らなければならない。
そんなこんなで、俺を含め計5名の騎馬武者は、森から出て、
石ころだらけの街道を走り、王都ブリタニアへ向かっていた。
念の為、俺は生まれてから一度も馬を走らせた事がない。
いや、走らせるどころか、またがった事さえもないのである。
それが今、さすがに
信長スキルの『乗馬』が早くもばっちり発動しているのだと確信する。
と、その時。
俺の心へ突如、人間が数多居る気配が伝わって来た。
それも、ただの気配ではなかった。
はっきりと殺意を抱いた、『殺気』という波動なのである。
「もしや!」と思った。
「ピン!」と来た。
これはロキから与えられたチート能力、サトリを応用した能力なのだと。
奴らが潜む場所……
街道脇の小さな森……ここからの距離……約300m。
このまま行けば、全員が奇襲を受けてしまう。
先頭を切って走っていた俺は、馬の速度を落とし、停止させる。
更に手を打ち振って、後方へ制止の合図を出した。
「おい! ストップだ!」
後続の4騎も、俺に
すかさずマッケンジー公爵が駆け寄って来る。
「若! どうされました?」
「この先に伏せ勢が居る。……待ち伏せだ」
「ま、待ち伏せ? まさかっ!」
マッケンジー公爵は大層驚いていた。
これは待ち伏せが居たのは勿論、『アーサー王子』が事前に察知したからだろう。
ちなみにアーサーは魔法は使えず、特別なスキルも持ち合わせていない。
しかしそんな事は、神から力を授かった《実際、その通りだし》とか、
いくらでも辻褄を合わせられる。
別に叱るわけではないが、気合を入れる為、俺はマッケンジー公爵を一喝する。
おお、これぞ信長スキルの真骨頂。
生前の俺なら、考えられない物言いだ。
「たわけっ! 殺気がこの先に満ちておるわ!」
「さ、殺気が!?」
「うむ! こちらは5名、あちらは多分、その5倍以上はおるぞ!」
そう、俺が告げると、マッケンジー公爵は正論を戻して来る。
「わ、若! 早く逃げましょう! 多勢に無勢でございます! それほど人数に差があれば、こちらに勝ち目はありませぬ」
しかし!
俺は首を横に振る。
冷静沈着。
合理的に考え、瞬時に判断するのが信長なのである。
そう!
今まさに、信長スキルが発動している!
自信に満ちた言葉が、的確な考えが、そして何事にも動じない度胸が。
そして冷静さが……俺の心と身体にたっぷりと満ちて行くのだ。
「いや! 逃げても追撃されるぞ、爺。背後から弓でも射かけられ、追いつかれ、取り囲まれたらヤバイ。それに一刻も早く王宮に戻らねばならぬ」
「で、ではどうしたら?」
「使い古された言い方だが、攻撃は最大の防御という、ここは反撃、奇襲あるのみだ」
「き、奇襲!?」
と、驚くマッケンジー公爵へ、俺はきっぱりと言い放つ。
「この辺りは幼い頃から爺と遊んだ『俺の庭』じゃ。地形はしっかり熟知しておるわ」
「た、確かに……その通りでございますな」
「ふん、奴らが潜む場所の見当はついておる。俺に作戦がある」
「作戦?」
「囮を使う! 爺、お前と騎士1名で囮となってくれ」
「え? わ、私がですか?」
「おう、襲撃ポイントまで気付かぬふりをして、並足で行き、手前で回れ右して全速力で撤退せい! 大袈裟なポーズで襲撃に驚いた風を装い、敵をおびき寄せ、油断させるのだ……死ぬなよ」
「して、そ、その後は?」」
「おう! 奴らの狙いは絶対にこの俺さ。だから標的が居ないのを見て、不審に思い、必ずやお前達の後を追うはずだ。その間に俺とエリック、騎士の3名で大きく回り込み、奴らの背後から奇襲をかける」
「な、何と! 大胆な!」
「ふん、奴らは俺達が襲撃に気付いているとは知らぬだろう。その上、少人数ゆえ、反撃するとは思っていまい」
「た、確かに! 手ぐすねを引いてこちらが通るのを待ってるはずだと」
「だな! そして俺が目指すは敵の首領、ただひとり! 背後から襲うのを卑怯だと抜かすなよ、爺」
呆気に取っられているマッケンジー公爵を尻目に、俺は不敵に笑ったのである。
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