第14話「信秀オヤジから、家督を継げ!①」

 アルカディア王国軍のエースで騎士団長。

 柴田勝家ことガレス・シードルフ伯爵。

 

 俺は信長スキルを発動。

 サトリで得た証拠で裏付けした超絶トークにより論破、

 オライリー麾下きかの騎士達は魔王の眼力で下がらせた。


 話がつき、俺はかたわらの平手政秀ことマッケンジー公爵を振り返る。

 可愛い『若』の大変貌にびっくりしながらも、公爵はとても嬉しいらしい。

 『アーサー命』な『爺や』は子供のように目をキラキラさせ、

 頼もしいと言わんばかりに、うんうんと頷いていた。


 俺はあごで床を指す。

 

 あごを向けた先には……

 哀れ林佐渡こと宰相オライリーは気絶し、倒れたままとなっていた。

 奴が油断していたせいもあるが、俺の腕力は常人の10倍。

 一応、手加減しておいたから、命に別状はない。

 

 さてオライリーの始末だが……

 すぐ粛正はせず、少しクールダウンさせた方が良いかもしれない。


 俺はそのままマッケンジー公爵へ指示を出す。


「爺!」


「はっ!」


「オライリーを即刻牢へぶち込め。取り調べを行ない、徹底的にゲロさせろ。但し殺すなよ、大けがをさせてもいかん」


「若、反逆罪で奴を処罰しないのですか?」


「うむ、こいつにはまだ使い道がある。奪還されないよう警戒は厳重にせい」


「は!」


「という事で、奴は解任。今日から爺が宰相だ」


「はっ! ありがたき幸せ!」


「オライリーを収監したら、急ぎ爺の兵を率い、奴の家を接収、王家の権限で家宅捜索をせい」


「は! 仰せの通りに」


「うむ! もしも逆らったら主オライリーの命はないと言って、ガレス同様、配下の騎士達は蟄居させておけ」


「は!」


「オライリーめ、叩けばホコリがたくさん出るはずだ、いろいろとな」


 信長は、超が付く凄い早口だったんじゃないかというのが俺の推測。

 加えて、極端に言葉が短くて、主語なんか、どんどんとっぱらう。

 

 つまり主君の意図をツーと言えばカーと、

 部下が即座に理解する事を望む。

 その上で、すぐ実行させる主義だとも思われる。

 

 俺はロキへ日本の戦国時代へ転生する事を希望したが……

 あっさりと却下された。

 でも、叶わなくて良かったかもしれない。


 もしも陰キャで不器用な俺が信長の部下になったとしら……

 絶対に上手くやれないと思う。

 

 でも、俺だけじゃないと思う。

 

 打てば響くと描写されている、

 信長お気にの、秀吉でさえ凄く苦労したらしいから……

 程度の差はあれ、部下全員が苦労したんじゃないかな。

 

 信長は自身が相手の言葉の裏を、瞬時に読み取れるからと言って、

 他人も同じように出来て当たり前……

 出来ないと、こいつは無能で使えないと判断し、

 バシッと無能のレッテルを貼ってしまったらしい。

  

 世の中は俺を始めとして凡才の方が圧倒的に多い。

 そんな凡才の気苦労や限界を信長は汲み取れなかった。

 

 信長は自分の思い通りにならないと大きなストレスを抱え、

 何かあるごとに「いらいら」したという。

 

 これが事実かどうか、不明。

 所詮後世の推測にすぎない。

 だけど、もしも事実だとしたら、信長の大きな欠点のひとつだったと思う。


 俺は確かに信長が大好きだ。

 しかし、自分がこの西洋風異世界で生き残る為には、

 信長の長所のみでなく、短所もしっかり学ぶべきだと思う。

 

 信長は人生の目標であり、教師でもある事は勿論、

 逆に反面教師としても、同じ轍を踏まないようにしたい。

 

 なので、信長譲りの早口の癖は変わらないが、

 極めて具体的な指示を出したのである。

 

 閑話休題。


 サトリの能力でオライリーの心を読み取り判明したが……

 奴はシードルフを始めとして多くの貴族を抱き込み、

 俺を追い落とし、挙句の果てに殺す為の密談をしていた。

 

 また宰相の地位を利用して、あくどく私腹を肥やしているという話も、

 旅立ったアーサーからは聞いている。

 

 奴は家探しなど、全く予想していないだろうから、油断しているに違いない。

 決定的な『証拠品』が回収出来るのは確実だと俺は見ていた。


 命じられたマッケンジー公爵も、当然心得ている。


 マッケンジーは清廉な性格から、オライリーを蛇蝎だかつの如く嫌っていたという。

 今迄は、貴族間の『パワーバランス』により、

 下手に手が出せなかっただけなのだろう。


「御意! すぐにオライリーの屋敷へ向かいます」


「よし! それと爺、俺は嫁へつらを見せる前に、父上……いや! オヤジに会う」


「は! 若が陛下にお会いになると」


「そうだ!」


 この王国でいろいろな政策を実行する場合、やらなくてはならぬ事がある。

 

 簡単な話だ。

 俺は王子である。

 まだ正式な『王様』ではない。

 それ故、かんじんの決済権が殆どない。

 

 それゆえに新たな王となって、父クライヴ・バンドラゴン、

 すなわち『織田信秀』を退位させるか、

 もしくは次期アルカディア王として、権限移譲のOKを貰わなくてはならない。


「良いか? オヤジと話をつけたら、爺とはいろいろと相談がある。証拠を確保したら、明日朝一番で俺の下へ持って来い。期待しているぞ」


「御意!」


 マッケンジー公爵は気合の入った声で答えると大きく頷いた。

 『こちら』も、俺の意図は伝わっているようだ。

 さすが『爺や』だ。


 改めて深く一礼すると、マッケンジー公爵は足早に大広間を出て行った。


 さあて!

 俺も「ちゃきちゃき」用事を済ませて行かないと!


 俺は『母』アドリアナへ向き直る。

 こちらは息子の大が付く変貌を見て、思考がついて行かないという表情だ。


「母上……いや、オフクロ!」


 俺がフレンドリーに、砕けた言い方をしたら、アドリアナは目を丸くしている。


「は? オ、オフクロ?」


「ああ、オフクロには一応、断っておく。これから俺は、オヤジに会う。奥へ通るぞ!」


「オヤジって!? アーサー! いけません、陛下は病に臥せってお休み中です。お身体に触ります」


「急用だ! 心配ない、すぐ済む」


「あ、こ、これ……ま、待ちなさい」


 俺は、制止する母アドリアナを華麗にスルー。

 エリックを従え、父クライヴ・バンドラゴンの寝室へ向かったのである。

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