35
咲耶姫様はポカンとした顔で私と火の神様が手にするキキョウを交互に見る。そして最後にゆっくりと火の神様を見た。
「そんな…。」
火の神様は咲耶姫様に近付くと髪に挿しているキキョウにそっと触れた。そして自分の持っているキキョウも一緒に挿すと目を細めた。
「よく似合っている。とても綺麗だ。」
「だが…。」
咲耶姫様は目をそらすと慌てて袖で顔を隠した。そんな咲耶姫様の腕に火の神様が優しく触れる。
「顔を見せてくれ。」
火の神様は顔を背ける咲耶姫様の頬を両手で包んで自分の方に向けた。顔に広がる痣をそっと指でなぞる。その動きに、咲耶姫様はビクリと体を震わせた。
「痛くはないか?」
問いかけに、咲耶姫様は小さく頷く。
「これは咲耶姫が山を守った勲章だ。」
「…醜いだろう?」
「いや、とても綺麗だよ。昔と変わらない、痣があってもなくても、咲耶姫は咲耶姫だろう。何もかわることはない。」
咲耶姫様の頬がしだいにピンクに染まっていく。だがそんな言葉に流されまいと、咲耶姫様は拳に力を込めた。
「だがお前はあの時逃げたではないか。私を不甲斐ないと言って。」
「逃げたのではい。お前を助けることができなかった俺自身が不甲斐なく、そのことに絶望したのだ。だが結果、お前に誤解を与えてしまったようだ。許しておくれ。」
「そんなっ。」
「咲耶姫。」
「んっ!」
火の神様は右手を咲耶姫様の腰に回し自分の方に引き寄せると、左手で頬を包んだままキスをした。長く激しい濃厚なキスに、火の神様がますます燃えた。
思わぬ状況に私は一気に体温が上がり、慌てて顔を背けた。
突然何を見せられてるのだ。
おもいっきり見ちゃったよ。
こっちが恥ずかしい!!!
だけど、素直に羨ましいと思った。
何千年もすれ違っていたはずなのにその間も二人はお互いを想いやっていて、それは今も変わらない愛に溢れている。
私はそっとその場を離れた。
外は夜が白々と明ける頃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます