13
「…こたつ?」
部屋に入って私はポカンとする。
部屋の中央には小さめの四角いこたつが置かれていた。机の上の丸い籠にはみかんがいくつか置いてある。よくある昔ながらのこたつとみかん。美人さんと似つかわしくないこの光景に、私の頭の中にさらに疑問符が飛んだ。
「ずいぶん濡れたのだな。着替えを用意しよう。」
そう言って持ってきてくれたのは、浴衣のようなものだった。
裾が長く、帯や紐も一緒に渡される。
美人さんが着ているものに似ているものだと思うが、浴衣さえ満足に着れない私は戸惑いどうしていいかわからない。
「あの、すみません、着方がわかりません。」
正直に言うと彼女は目を丸くし、そして袖で口元を上品に隠してクスクスと笑った。
浴衣くらい着れて当たり前なのだろうか。まあその辺の女子力がないことは自分でも自覚済みだが、やはり笑われると急に恥ずかしい気持ちになってしまい、私は唇を噛みしめた。
「ああ、すまない。人と話すのが久しぶりなので、自分の中の時代のズレが可笑しくてな。」
そしてまたクスクスと笑った。
一体何がそんなに可笑しいのか、時代のズレとか意味不明なことを言う。
さっぱりわからない私の手から、帯と紐が抜き取られた。
「着せてやろう。」
そう言って、優しい声色と手付きで手伝ってくれ、あっという間に着替えさせられる。初めて着る服だが肌触りのよい生地が心地良い。自分の姿がどうなっているのか、袖や後ろを確認してみると、まるで異国の地にでも来たかのような感覚に陥った。
「座ったらどうだ?温かいぞ。」
「えーっと、では、失礼します。」
促され遠慮気味にそろりとこたつへ入ると、その温かさにまたほうっとため息が出た。
体が温まるにつれて先程までの緊張と恐怖がしゅるしゅると解けていくようだ。
こたつの魔力はすごい。
一度入ったらもうここから出る気力をなくすのだから。
「あったか~い。」
私の呟きに、美人さんはまた口元を押さえてクスクスと笑った。
笑い方さえ綺麗だなんて罪だ。
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