06

「嘘でしょ?」


もう見えなくなるほど遠くに行ってしまった車を見つめながら、私は一人呟いた。

待ってと呼び止めることもできない。

走ったって追いつけやしない。

彼女を山に置き去りとか、まったくもって信じられない。

どんな鬼畜だよ。


それでも私はまだ高志を信じていた。

きっとほとぼりが冷めたら迎えに来てくれるんでしょうって。

だって私は高志の彼女だもの。

いくら高志でも、こんなところに彼女を置き去りにするほど酷いやつじゃない。

一人になって頭を冷やせば帰ってきてくれる。

星を見せるために連れてきてくれた優しい心の持ち主のはずだから。


けれど、待てどくらせど車は来ない。

それどころか、まわりにいるカップルさえもどんどん帰り始め、さすがに私も焦りを隠せなくなってきた。


気付けば私は、知らない山で一人ぼっちになっていた。


いい加減、高志に電話しよう。

謝って迎えにきてもらおう。

そうしないと帰る術がないのだ。


カバンから携帯を取り出して、私は愕然とした。

まさかの圏外だった。


やばい。

まわりを見渡しても明かりひとつない。

高志に急に連れてこられた山だから、どこの山かもさっぱりわからない。


ただ言えることは、ここは少し開けた展望台だということ。だからここを動かなければ少なくとも遭難することはないだろう。この綺麗な星空なら何時間でも見ていられる気分だ。


だがそれは、すぐに甘い考えだということを思い知らされることになる。


少しずつ寒くなってきた。

まわりは真っ暗。

明かりは携帯のみ。


ただ星空が、吸い込まれそうなくらいに綺麗だった。

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