第5話 20151030

 うちにはねこがいる。近頃はいつも寝てばかりいる。

 元来ねこは暑さに強い生き物とはいえ、厳しい残暑のせいか食欲もなさそうだ。ごはんを全部平らげずに残してしまう。

 

 ねこさんとは付き合って十五年を越えている。さすがにもう歳なんだろうか。その小さな鼻先に人差し指を持っていってやると、え? 何? 遊んでくれるの? と無我の境地で必死に私の指先を追いかけてきた、幼い頃のお前はいったいどこへ行ってしまったというのか。

 

 とりあえず食欲がなさそうなのが気になるので、いつものカリカリタイプのごはんではなく、試しにとっておきのごはんを用意してみた。いつぞやのレトルトタイプの猫用シーチキンみたいなやつだ。


 うって変わって、これならもりもりむしゃむしゃ召し上がる。その小さな猫背にこの世のすべての不幸を背負っていますと言わんばかりの表情と、今までの食欲のなさげな様子はどこへ行ったのか。

 現金なものだ、と呆れてしまう。一方、勢いよくごはんを食べるその姿に、美味しいものを食べられるだけで吾輩幸せ! みたいな顔してるなぁ、と微笑ましくも思う。

 

 人間にしても、美味しいものを食べている時はやっぱり幸せな気持ちになれる。それが気の合う友達や好きな人と一緒なら、もっと幸せな気持ちになれる。そう考えると、人間の方がいろんなものに幸せを感じられる分、お得なのかなって気もしてくる。

 

 ねこさんとは長い付き合いなので、そろそろ私も愛想を尽かされたか、飽きられたのかもしれない。そんな不安もあったけれど、どうやらそういうわけでもなかったようだ。

 ただできることなら、また私の指先をいつまでも無邪気に追いかけてきて欲しいとは思うが、それは私の我儘というものなのだろう。

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