異世界往復ゲーム――風域の謀略――
祟
俺が伝説になった理由
第1話 プロローグ
チクショウ、クソったれ! やってられっか!
俺は先日まで働いていた会社の玄関にツバを吐き捨てて背を向けた。
ちょっと前まで優雅に働く会社員だったのに、
嫌味な同僚にチクられたせいで懲戒解雇。
めでたく無職になっちまった。
俺が……俺が何をしたってんだ。
クソっ! 仕事中にソシャゲとブラゲと携帯ゲーと……ああ、あとついでに、
遠隔操作で自宅のパソコンぶん回してネトゲとかしてただけじゃねえか……
脳死して出来るゲームしながらマジメに仕事してたってのに酷い事しやがる。
上司にはバレないように注意してたが同僚相手のガードは甘かったな。
やっぱあれかね?
注意してきた同僚にファンメール送るノリで挨拶したのがマズかったのかね?
「学生より下手クソな化粧してて素敵ですー!」って褒めてやったのによ……
ふん、まぁいいさ。
これから俺はちょっと長い夏休みに入るってワケだ。
失業保険やらは貰えるんだ、しばらくは遊んで暮らせる。
俺は遊んでやるぞ!
仕事のせいでやりづらかったゲームの世界が俺を待っているのだ。
クリアを諦めて投げだしたゲームだろうが、数百時間かかるやり込み育成ゲームだろうが、何でもプレイできる時間というものを手に入れたと思えばいい。
そうだ。今なら深夜だろうが昼間だろうが、いつだって遊べるのだ。
ボイスチャットで好き放題に煽り合える環境ができたのも最高だ。
対戦ゲームの煽りの幅が広がるぞ。
屈伸煽りや簡単な英文だけで対戦相手を馬鹿にする日々とも、おサラバだ。
長い闘いの旅を始めてやろう。
そんな事を考えてブラブラ歩いていたら、足が自然と電気街の方に向いていた。
通販やダウンロードでゲームを買うつもりだったが、たまには現物もいいよな。
なんて思ってゲーム屋を探していると、ひときわ目立つ建物が目に入る。
チカチカ輝く液晶画面と、筐体から流れるゲーム音楽が俺の足を止めた。
そういやゲーセンにも全然足を運んでなかったなあ。
相手の顔が見れる対人戦ってのも悪くねえか。
最近はネットでの対人戦ばかりやってて感覚がおかしくなってたが、
やっぱ悔しがってる顔ってのは直接見たいモンだよなあ。
ククク顔面真っ赤にしてやんぜゲーム野郎ども……あの同僚みてぇによぉ……!
そうして俺はゲームセンターに入り、
自信満々に万札を崩して対戦しまくって、
ボロ負けしてしまった。
「おじさんヘタクソだねー。レバガチャしてないで、ちゃんと戦ってよ」
何か知らんが対戦相手に説教まで喰らってしまった。
椅子に座ってる俺の目線の高さぐらいの身長の女児に。
俺のプライドはズタボロだ。
「ドーモ。対戦ご指導あざーす。チッ、死体蹴りして楽しいかよ、嬢ちゃん」
「えー、だっておじさん、いきなり勝負を捨てて挑発したりしてくるから……」
「ふっ、それが俺の生きざまよ」
「何もカッコ良くないよ、おじさん……」
ニヒルに笑いかけてやったが、女児は呆れてショートにした髪を
やたら未来チックなVRゴーグルをつけて、バンバン撃ちまくって遊んでいる。
やだ、カッコいい……
キュンとした俺は腕を組んで見守ることにした。
サイバーでショートな女児のゲームに興味を惹かれて横から眺める。
何故か民間人のオッサンをガンガン撃ち殺しながらゲームを進めている……
おい女児よ……そいつら殺さなかったらハイスコアだったんじゃねえか……?
それでもネームエントリーの上位に名前を残す成績だったようだ。
華麗に三文字のアルファベットを撃ち抜いて名前を入力していた。
UNO……ウノちゃん、かな? ……本名だといいな。
ゲームを終えてVRゴーグルを脱いだ彼女は、至近距離で覗いていた俺を見てギョッとする。
「え……? な、なに? おじさん……」
「いやぁ、頑張ってたな。ウノちゃんが上手になってくれて俺も鼻が高いよ!」
彼氏ヅラをして仮名ウノちゃんを褒めてやった。
不審者を見る眼差しを向けられてしまった。
違う、そうじゃない。届け、俺のこの想い。
「ウノちゃんは、わしが育てた。大きく育ったな」
重々しく告げてやると正しく伝わってくれたようだ。
ウノちゃんがプルプル震えて拳を握りしめている。
届いたようだな、俺の安い挑発が。
ついでに頭を撫でて追い打ちしてやろうかと思っていたらブチ切れられた。
「こんの、クソジジイ! バカにすんな!」
「ふははは! まだまだ未熟ものじゃな!」
雑な師匠ムーブをしながらキレる若者から逃げる。
急にヒステリーを起こすからビックリしたぜ。
だが目的は果たせた、いい表情を見ることができて俺は満足だ。
さてと……対戦ゲームもいいが、VRゲームにも興味あったんだよな。
別ゲーと同時に出来なさそうだから今までやらなかったが、丁度いい機会だ。
やってみよう。
最新の筐体とか入ってそうな良いゲーセンだしな。
さっきのヤツには近づけねえけど、他に良い感じのヤツはないか……?
きょろきょろと見回していると、乗り込むタイプの大型筐体が目に入った。
没入感の極致を目指したような、丸くて大きな体感VRゲームの筐体。
開いている扉を閉じたら、外から中が見えなくなりそうなのが素敵だ。
ウノちゃんから逃げるついでにと、滑り込むようにして筐体の中に入り込んだ。
暗い内部には、椅子とVRゴーグルだけがポツンと置かれてあった。
外の音からも遮断される空間に、快適な気流が周囲から流れてきている。
エアコン付きのコクピットに搭乗してるような気分だな。
なるほど? この椅子がグラグラ揺れたりして臨場感高めてくれるんだろうな。
取説がベタベタ貼ってあったが、読まずにコインを突っ込みゲームを開始する。
ま、ゲームに詰まったら読めばいいだろ。
百戦錬磨の俺に説明なんぞいらねえ。
いい感じに寝る事もできそうな椅子に座り、VRゴーグルも被って準備万端だ。
……あれ? これコントローラどこだ? スタートボタンしかねえぞ?
疑問に思ったが、ゲームが始まってしまったようだ。
俺の視界には草原の景色が広がり、サワサワとした風の音が聴こえてくる。
おぉ……? オープニングか。壮大な物語とか始まりそうじゃねえか。
これから草原の中に綺麗な姉ちゃんとかが出て来て嘆いたりするんだぜ。
危機に陥ったり何か語ったりする、よくあるパターンだ。俺は詳しいんだ。
筐体からも草原の風っぽいものが吹いてきて、気分を盛り上げてくれる。
ああ壮大な自然だな……で? 俺は何すればいいんだ?
まだか? おい、何か来いよ!
文字は!? チュートリアルはまだか!
手探りでスタートボタンを連打してみたが反応は無かった。
なんだこのクソゲー。雰囲気重視にしてもやりすぎだろ。
もやもやした俺は、画面の中に何か適当な人物を想像して暇をつぶす。
あー、きっとアレだな。女神とかが出てくるんだよ。
それで俺に助けを求めるのな?
――きこえますか……きこえますか……この声が届きますか……
そう、安易だけど、そんな感じ。
聞こえるぜー、早く始めてくれー。
世界でも何でも救ってやるから早くしろー。
――ようやく届いた……異世界の勇者さま……いま繋げます……
おー、早くしてくださいねっと……ん?
脳内で妄想と会話していると、突然VRゴーグルの中が真っ白に輝いた。
五芒星の魔法陣が目の前に広がり、俺を包み込むように押し寄せてくる。
……いいね! ファンタジーか! 魔王でも何でもかかってこいやぁ!
そうして最高の没入感に襲われた俺の精神は、夢のような世界へ繋げられた。
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