雪を溶く熱

魔女っ子★ゆきちゃん

雪を溶く熱

いち ゆきってきた♡


美冬みふゆちゃん、ゆきってきたわよでぇ?」

「えっ? ホント♡」

 おかあさんのこえあわてて、まどへとった。

 高知市こうちし市営住宅しえいじゅうたく団地だんち三階さんかいまどからえるのはそらからってくるしろゆき

 南国なんごく高知こうち人間にんげんとして、ゆきというのはねん二、三回にさんかいしかられない貴重きちょうなものである。

「ねえねえ、おかあさん。ゆきもるかなあろ う か?」

そうねえそうやねえ今日きょう明日あすにかけてるみたいだからや きもるかもしれないわねしれんねえ

「キャー♡ よーし、明日あしたゆきだるまをつくるぞーっ⛄」

「うーん。残念ざんねんだけれど、そこまではもらないんじゃないかなんがやないろうか? おかあさんも、そんな光景そんなんたことないし」

「ぶーっ! 突如とつじょ地球ちきゅう氷河期ひょうがきはいないかなーんろうか?」

「そうなったら、こまわーちや。おかあさんしょうだしやき

そっかそうやねぇ……」

 わたしはおかあさんが台所だいどころへと移動いどうしたあとも、きもせず、まどそとながつづけた。


 あれは秋人しゅうと


 ばんごはんのあとも、まどへと移動いどうしてゆきながめる。

 ばんごはんのとき、おとうさんが、

「これは数年すうねん一度いちど大雪おおゆきだぞやねや!」

っていたから、もるのかもしれない。

 たしかに、たことないようないきおいでゆきっている……ようながする。

 これがあめだったら、気分きぶん滅入めいってしまうのに、どうしてゆきだとこんなにテンションががってしまうのかな〜? あめなんてらず、全部ぜんぶゆきとしてってきたらいのにな?

 なんてことをかんがえていると、団地だんちからてくるおとこ姿すがたえた。あれは秋人しゅうと


 わたし団地だんち四階建よんかいだてで24世帯にじゅうよんせたいはいっている。出入口でいりぐち3ヶ所さんかしょあって、団地だんちかってみぎ階段かいだんがって三階さんかいひだり部屋へやわたしのうち。なか階段かいだんがって二階にかいひだり部屋へや秋人しゅうと家庭かていだ。

 秋人しゅうとわたし幼少ようしょうころからこの団地だんち幼馴染おさななじみおなどし。もちろん、学年がくねんおな小学しょうがく6年生ろくねんせいである。

 小学校しょうがっこう低学年ていがくねんまでは、一緒いっしょあそんだりもしたけれど、ここ数年すうねんはほとんどはなしたこともない。クラスと性別せいべつちがえば、疎遠そえんになるのはむしろ当然とうぜんで、もし仲良なかよくなんてしてたら友達ともだちなにわれるか、わからないじゃん!


 そんな幼馴染おさななじみ秋人しゅうとが、なか出入口でいりぐちからてきたのだ。

 まあ、それ自体じたいはありないはなしじゃない。普段ふだんまどそとなんかながめないからかないだけで、そういうことは普通ふつうにあるのだろう。

 秋人しゅうとわたしの家んちほう出入口でいりぐちへとあるきながら、わたし部屋へやほうへとかおけてきた。

 わたしはその様子ようすていたわけだから、当然とうぜんのことながらった。

 ビックゥ! わたしてるとはおもわなかったのだろう。おおげさにおどろ秋人しゅうと

 一瞬いっしゅん自分の家じぶんちほうへとかえりかけ、おもとどまって、こちらを見上みあげ、なんと手招てまねきしてきた。

 なによ! 用事ようじがあるんだったら、そっちからなさいよ!

 ……とおもったけれど、うちの玄関げんかんまでられて、そこでおとこばなしするのは、それはそれでずかしい。小学しょうがく6年生ろくねんせいとは、すで思春期ししゅんきへとあしれたようなお年頃としごろなのである。

 なので、

「おかあさん、しゴムなくなったからのうなったきコンビニファミママートって買ってくるこうてくる

うちた。


さん なんで今更いまさらそんなことを……。そんなのこま


 秋人しゅうと合流ごうりゅうすると、うちからえない団地だんちかげに、どちらからともなく移動いどうした。

「で、なんかよう?」

 つっけんどんにはなつ。べつおこっているわけではない。疎遠そえんになった幼馴染おさななじみ相手あいてに、どういう態度たいどをとっていのかわからないだけだ。

 けれども、おこっていると勘違かんちがいされてしまったのだろう。秋人しゅうとは、

「ご、ごめん」

あやまってきた。

べつ良いからかまんき! それでなんのよう?」

 あらためていてみるも、秋人しゅうとはもじもじとえきらない態度たいど

寒いんだからさ む い が や き早くしてよはようしいや! キミさあおんしゃあようないのならないがやったら帰るよいぬるで!」

 わたしけると、秋人しゅうとこえけてきた。

「あ、あの、今度こんど日曜日にちようびすことになったからそれでほんで挨拶あいさつた」

「えっ? どこ行くのいくが?」

 途端とたん心臓しんぞう早鐘はやがねのようにはげしくなった。

土佐市とさしほうくことになったんだなったがよ

土佐市とさし? ここからこっから遠いのとおいが?」

十数じゅうすうキロ(メートル)くらい? 自転車じてんしゃでも移動いどうできるくらいば あ距離きょりだからやき

「そう、寂しくなるねさみしゅうなるねえ元気げんきでね」

 社交辞令的しゃこうじれいてきってけようとした。

 はげしく脈打みゃくう心臓しんぞうおとかれてしまうんじゃないかとになって、はやりたかったのだ。しかし。

美冬みふゆキミおまんのことがずっとずうっと好きだったすきやった

 ろうとしたあしまる。

 なにそれ? なにそれ?

「なんで今更いまさらそんなことを言うのよいうがよそんなの困るからそんなんこまるき

 それだけうと、わたしはしった。

 翌朝よくあさっすらとのこっていたゆきは、午後ごごにはけてなくなっていた。


4 なみだのわけ


 くだん日曜日にちようびわたしまどからちらちらと秋人しゅうと家族かぞくしの様子ようすながめていた。

 『なごりゆきときる』とったのは、イルカだったか🐬 クジラだったか🐳

 そのゆきっていた。


 どうして、2月にがつのこの時期じきしなんかするのか? せめて、秋人しゅうと小学校しょうがっこう卒業そつぎょうしてから、せばいのに。

 そんなことをおもって憤慨ふんがいした🌋

 そして、ほとんどおものない土佐市とさし小学校しょうがっこう卒業式そつぎょうしきむかえる秋人しゅうと心中しんちゅうおもんぱかって、すこいた。

 ようのトラックに荷物にもつはこまれ、まもなく出発しゅっぱつときむかえるのであろう。

 秋人しゅうとが、わたし部屋へやほう仕草しぐさせたのであわててかおめた。

 数分後すうふんごふたたまどからそとたときは、トラックも秋人しゅうと家族かぞくすでにいなくなっていた。


 わけもなくなみだあふれた。いや、わけはあった。

 疎遠そえんだったとはいえ、ずっときだった秋人ひとわかれたのだから、かないほうがおかしい。

 おまけに両親りょうしん出掛でかけていて、わたしひとりだから、むしろこれはあつらえたような状況じょうきょうだった。

 初恋はつこいで、ずっと片想かたおもいだった。まさか、秋人しゅうとほうわたしのことをきだったなんて。

 もしどちらかが告白こくはくなんてことをしていたら、恋人こいびと同士どうしになっていたのだろうか?

 せめて、『わたし秋人しゅうとのこときだった』とつたえていれば、遠距離えんきょり恋愛れんあいになったのだろうか?

 すべてはもう、あとのまつり。

 かおあらってそとた。様々さまざまおもいでふくらんでねつってパンクしそうな身体からだやそうとおもったのだ。

 ゆきれるとすみやかにけた。

 数日前すうじつまえ、あんなにわくわくしたゆきなのに、いまではこころっているようだ。

 まもなく、なごりゆきみ、わたしえた両肩りょうかたいてうちもどった。


 おしまい

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