第8話 恩恵
『スキルと魔法が使いたいんだね。うん、大丈夫だよ』
「そんなことができるのか?」
『ボクを誰だと思ってるんだい? この世界を造った創造主だよ?』
「そうだよな……創造主だよな」
エスティバは世界の創造主だ。
彼女が大丈夫といえば、本当に大丈夫なんだろう。
『まぁ任せて。え~とキミの名前は?』
『エルノアです』
『エルノア……だね。じゃあ早速エルノアにスキルをあげるけど、一つだけ注意点があるんだ』
『注意点ですか?』
『今からあげるスキルは、誰か一人を対象に選ばないといけない。選ばれた人のスキルと魔法が使えるけど、その人が死ねばエルノアはまたスキルと魔法が使えなくなる。それでもいいかな?』
『そのスキルの名前は?』
『ずばり、コピーさ』
誰か一人を選べば、その人が持っているスキルと魔法が使えるのはかなり強力だ。
いくつか例外はあるものの、スキルと魔法は生まれた時に持っているか、地道な努力でしか手に入らないのだから。
『で、どうする? このスキルが欲しいかい?』
『はい、そのスキルでお願いします。スキルの対象はクロスでお願いします』
『まぁそうなるよね。分かった、それじゃあ早速スキルをあげるね。えい!』
すると、ペンダントが光りだした。
『△□◯✕!!??』
光が収まるまで、エルノアから声にはならない声が聞こえた。
「お、おい、大丈夫かエルノア?」
『……失礼しました。謎の力を感じます。いや、これがマナ? マナを感じます』
「そ、そうか。それはよかったな」
初めてマナを感じると、認知できなかった未知のエネルギーが、まるで自分の体の一部のように感じる。
俺も初めてマナを感じた時は、こんな感じだったかな。
『スキルと魔法……今まで曖昧なものが、体で理解できました。体はありませんが』
「……それはよかったな」
エルノアのテンションがすごく高いが、あまり気にしないで話を続けよう。
『さぁクロス、残り4つだよ?』
残り4つか。
といっても、今すぐ欲しいものが思いつかない。
「じっくり考えたいから、少し待ってくれるか?」
『も~仕方ないな。待ってあげるから、悔いが残らないようにちゃんと決めてよ?』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『それじゃあ、この4つのスキルと魔法でいいんだね?』
「ああ、それで頼む」
あれからエルノアと相談しながらじっくり考え、欲しいスキルと魔法をエスティバに伝えた。
『分かった。それじゃあ……えい!』
スキルと魔法がゲットしたかを確かめるため、ステータスを唱え確認する。
「お、ちゃんと増えてる」
『えっへん! 凄いでしょ? 褒めていいんだよ?』
「……エスティバはさすがだな」
『でしょでしょ!』
エスティバに感謝しつつ、改めて増えたスキルと魔法を確認した。
転移(EX):行ったことのある場所をイメージすると、そこに転移する。
無詠唱(EX):詠唱なしでスキルや魔法が発動できる。
属性魔法(EX):火水土風属性の魔法が全て使用できる。また、それぞれの属性を併せ持つエレメンタルマジックが使用可能。
混沌魔法(EX):光闇属性の魔法が全て使用できる。また、それぞれの属性を併せ持つカオスマジックが使用可能。
『本当にこの4つでいいんだよね?』
「ああ、これでいい」
『ふ~ん……まぁどうしてその4つが欲しいのか、理由はだいたい分かるけどね』
「エスティバには分かるのか?」
『ボクを誰だと思っているんだい? まずは転移だけど、これがあればすぐにダンジョンから脱出できるよね?』
「ああ」
転移があれば、すぐにここから脱出できる。
といっても、エルノアのヒューマノイドを見つけるまで、発動するつもりはない。
『次に無詠唱だけど……もしかして、エルノアのせい?』
『どうして私のせいなのでしょうか? 私はただ詠唱が恥ずかしいと思っただけなのですが』
『ちょっと詠唱が恥ずかしいってどういうこと!?』
エルノアは大の詠唱嫌いなので――俺が詠唱をすると毎回ぼやく程度には――このスキルは転移と同じぐらい欲しかった。
『属性魔法と混沌魔法だけど、これは戦力強化が目的かな?』
「そのつもりだ」
俺の属性魔法はBランクだったので、この機会で一気にランクを上げようと思った。
予想通りランクは上がったし、思わぬ副産物も手も入れた。
また、混沌魔法を手に入れたのは治癒魔法を強化するためだった。
知らなかったが、治癒魔法は光属性に分類されるので、治癒魔法を強化するなら、闇属性も使える混沌魔法を手に入れたほうがいいと、エスティバが教えてくれた。
「そういえば、エレメンタルマジックとカオスマジックが使用可能ってあるけど、この魔法はいったい?」
『それぞれの属性を併せ持つ強力な魔法だよ。例えばカオスマジックの治癒魔法、カオスヒールを使うと、傷を癒やす光属性の力と傷の原因を消す闇属性の力が同時に発動して、傷つく前の状態に完全に戻ることができるんだ』
「す、すごいんだな」
『他にも使い勝手のいい魔法があるから、試しみてよ』
エスティバがそう言うと、指輪が光りだした。
『おっと、そろそろお別れの時間かな』
「もうお別れなのか?」
『ヴァリアブルソードの契約と恩恵をあげるために、クロスたちに会いに来ただけだからね。用が済んだから帰るだけさ』
エスティバの声のトーンは徐々に低くなり、別れを惜しむの感じる。
『色々と聞きたいことがありましたが、それなら仕方がありませんね』
『でしょ? も~創造主だからって色々と制約がめんどくさくってさ……』
だんだん、指輪の光が収まっていく。
『そうだ。最後にクロスたちに大事なことを伝えるね』
「大事なこと?」
『ここから先、クロスたちには大きな試練が待っている。でもキミたちなきっとなんとかやれるってボクは信じているよ。じゃあまたね!』
「お、おいエスティバ!」
そう言い残し、指輪の光が完全に収まった。
『嵐のような人でしたね』
「そうだな……最後は意味深なことを言って帰っていったけど」
俺もエスティバとの別れは惜しんでいるが、エスティバのおかげでワールドウェポンと強力なスキルと魔法がゲットできた。
ちゃんとお礼を言えばよかったと思うが、またきっとどこかで会えるだろう。
『それで、これかどうしますか?』
「決まってるだろ、別の電力制御室に行くぞ」
『了解です、クロス』
大きな試練というのが気になるが、きっと俺たならなんとかなるはずだ。
こうして、俺たちは別の電力制御室へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
現時点でのクロスたちのステータスです。
クロス・バードル
種族:人間(異世界人)
スキル:
・ボックス(EX)
・マナリジェネ(EX)
・鑑定(B)
・転移(EX)
・無詠唱(EX)
魔法:
・属性魔法(EX)
・混沌魔法(EX)
・生活魔法(B)
火水土風魔法は属性魔法に統合。
治癒魔法は混沌魔法を取得したため消去。
エルノア
種族:パワードスーツ管理用自律型AI(電子生命体)
スキル:
・コピー(EX):対象クロス。
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