ファンタジーな世界だけど、俺はパワードスーツで行きます~ダンジョンの奈落で出会った異星のAIと共に、この世界を駆け巡る~

もんざえもん

第1章 転生者とAIとパワードスーツ

第1話 覚醒


「お前をここで倒す! 変身!」


 とある廃工場のなか、男は全身銀色のパワードスーツを装着した。


「やれるものなら、やってみろ!」


 対峙するのは、全身金色のパワードスーツを装着したヴィラン。


 これは映画「ザ・パワードマン」のクライマックスシーン。

 ヴィランとの最終決戦の場面だ。


 俺はこの映画を子供の頃からよく見ていた。

 全身銀色のパワードスーツを装着した男が、悪を倒すヒーロー映画を。


 昔からリアルヒーロー系や特撮番組が好きだった。

 パワードスーツを装着したりヒーロースーツに変身して悪を倒す。

 そんな姿に憧れていたし、いつかこんなヒーローになりたいと思っていた。


 いや、ちがう。


 本当はパワードスーツを装着したかった。

 あの映画の主役みたいに縦横無尽で戦いたかった。

 ヒーローに憧れたのは二の次だ。


 だが現実はアニメや映画のような、パワードスーツやヒーロースーツなんてものは存在しない。 

 少なくともには。


 だけど、そんなスーツが無かったとしても、ヒーローになることはできる。


 例えば、車に轢かれそうな子供を庇って死ぬとか。


 ああ……30年間生きてきたけど、最期ぐらい格好いいことができたかな。

 子供を庇って死ぬ……こんなに格好いい最期はないだろう。


 もちろんまだ死にたくない。

 だけどこれでいいんだ。


 ――もしまた人間に生まれ変われるなら。

 そうだな、パワードスーツを装着してみたいな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「痛っ……」


 全身が痛い。

 地面に叩きつけられたようだ。

 意識は回復したが、痛みをなんとかしないと、このまま死んでしまう。


「我を……回復……したまえ……ヒール」


 回復魔法が……間に合った。

 痛みが和らいでいく。

 なんとか一命を取りとめた。


 それにしても、ここはどこだ?

 たしか、いつものようにダンジョンを探索していたはずだ。

 こんな場所は見たことがない。


 ……だんだん思い出してきた。

 探索中に突然地面が崩れて、それに巻き込まれて落下した。

 どれぐらい落ちたか分からない。

 だけど、こうして生きているのは奇跡に近い。


 しかし、さっき見た夢はなんだ?

 まるで俺に……異世界で過ごした記憶があるような……。


「ぐっ」


 今度は頭痛がする。

 頭の中に誰かの記憶、いや俺の前世の記憶や知識が流れ込んでくる。


 体が震え、冷や汗が出てくる。

 頭痛の酷さに、意識がまた遠のいた。



 どれぐらい寝ていたか分からない。

 おかげで体の痛みは消えたが。


 そして、頭の中に流れ込んだ記憶や知識で分かったことがある。

 俺クロス・バードルは異世転生者だ。


 この世界「エスティバ」では異世界転生者や異世界転移者、通称「異世界人」の存在が知られている。

 まさか自分が異世界人だったとは。


 そういえば、異世界人だと自覚した時に、強力なスキルや魔法が手に入ると聞いたことがある。


 ステータスを唱え、スキルと魔法を確認しよう。


 名前:クロス・バードル

 種族:人間(異世界人)

 スキル:

  ・ボックス(EX)

  ・マナリジェネ(EX)

  ・鑑定(B)

 魔法:

  ・炎魔法(D)

  ・水魔法(D)

  ・土魔法(D)

  ・風魔法(D)

  ・治癒魔法(D)

  ・生活魔法(D)


 魔法は手に入れてないが、スキルは手に入れている。

 今までスキルを持ったことがなかったから、すごく嬉しい。


 とりあえず、上から順にスキルを見てみよう。


 ボックス(EX):あらゆるものを時間が停止した状態で異空間に収納できる。収納範囲は無限大。


 ヤバイ。

 なんだこのスキル?


 それとEXってなんだ?

 スキルと魔法はランクによって効果が強力になる。

 FからA、Sの順に強力になっていく。


 EX:規格外。Sランクより遥か上位のランク。


 規格外……だと。

 とんでもないランクだな。

 

 よし、このまま残りのスキルを見ていくぞ。


 マナリジェネ(EX):魔法を発動するために消費したマナを瞬時に回復する。

 鑑定(B):詠唱を唱えることで、モンスターや人間のステータスを見ることができる。


 前世の俺、ありがとう。

 お前のおかげで、強力なスキルがゲットできた。


 手に入れたスキルの中で一番強力なのは、間違いなくボックスだ。

 今まで食料や傷薬が入ったバッグを持ちながら、ダンジョンの探索やクエストをこなしていたので、このスキルがあればバッグを持つ手間が省ける。


 鑑定も素晴らしい。

 詠唱を行う必要があるが、相手のステータスが分かるのはハッキリ言ってチートだ。

 今はBランクだが、ランクが上がっていけばより強力な効果になるはずだ。


 そしてマナリジェネ。

 強力なスキルだが、果たして活かすことができるのだろうか。

 俺が使える魔法は全てDランクなので、あまりマナを消費しない。

 なので宝の持ち腐れになる可能性が高い。

 だけど、せっかく手に入れたスキルだし、うまく活用したい。

 使い道を考えておこう。


 さて。

 スキルや魔法の確認が済んだところで、目先の問題を解決しないと。

 今いる場所は……多分、ダンジョンの奈落だ。


 ここで救援を待つのがいいと思うが、俺のバックが見当たらない。

 救援を待っていたら餓死しそうだ。


 幸い俺の剣が手元にあるので、モンスターと遭遇してもなんとかなるだろう。


 上を見上げると、先が暗くてよく見えない。

 だが、12時の方向から風を感じる。

 その方向に進めば、きっとダンジョンの外へ出られるかもしれない。


 そうとなればやることは一つ。

 風を感じる方向に進もう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 奈落の中を歩いていると、モンスターと遭遇した。


「ギィ!」


 お互いに距離を取り、様子を伺っている。


 黒い肌をしたゴブリン。

 通常のゴブリンと違って、背丈が成人男性ぐらいある。

 なんとなくだが、俺より強い気がする。


「我にことわりを示せ。鑑定」


 鑑定を発動し、ゴブリンのステータスを確認する。


 グレートゴブリン:ゴブリンの上位種。凶暴な性格と残忍さを併せ持つ。弱点は炎魔法(Bランク以上)。


 マジかよ。

 俺の炎魔法はDランクだぞ。

 ファイヤボールでは、アイツを倒すことができない。


 焦っている俺を見て、勝てると判断したのだろうか。

 ゴブリンが突然襲いかかってきた。

 右手には棍棒を持っている。


「ギャアアア!」

「くそ!」

 

 棍棒による叩きつけを、剣でなんとか弾いた。


 ピキン。

 衝撃に耐えられなかった愛剣が、真っ二つに折れた。


「嘘だろ……」


 慌てて後ろに下がる。

 ゴブリンは舌を舐め回しながら、ニヤついた笑みで俺を見ている。

 タイミングを見計らって、次こそ俺を殺すようだ。


 どうする?

 あんなヤツ、倒せる気がしない。

 俺の魔法ではアイツを倒せない。

 Bランクの炎魔法があれば、一発で仕留めることができるのに。


 いや、まて。

 必要があるのか?

 俺にはマナリジュネがある。

 マナを消費しても瞬時に回復する。

 つまり魔法を何発でも、いや何十発でも、マシンガンのように打てるはずだ。


 だが魔法を発動するには、マナと、そして詠唱が必要だ。

 マナが無限のようにあっても、魔法を発動するたびに詠唱をしていたら、その間に襲われてしまう。


 ……いや、方法はある。

 魔法のイメージがあれば詠唱をする必要がないって、俺に魔法を教えてくれた先生が言っていた。

 今までの俺は、魔法のイメージができなくて詠唱をしていた。

 だけど今の俺には、前世の知識と記憶がある。

 その中には、ファンタジーゲームの知識や、遊んだ記憶がある。

 なら、イメージができるはずだ。


「ギシャアアア!!」


 ゴブリンが襲ってくる。

 今度こそ、俺を殺すために。


 呼吸を整え、魔法のイメージをする。

 ファイアボールを、マシンガンのように打つイメージを。

 

「ファイアボール・マシンガン!」


 ファイアボールを連射し、ゴブリンに当てる。


「ギャアアア!」


 ゴブリンは苦しみだし、そして――。


 バタン。

 大量のファイアボールを喰らったゴブリンは倒れ、死んだ。


「はぁ~。なんとかなった」


 俺は息を切らしながら、死んだゴブリンを見ている。


 マナリジェネがなければ、マシンガンのように何度も魔法を打つなんて、思いつかなかった。

 そして、前世の知識と記憶がなければ、詠唱している間に殺されていた。


 前世の俺、改めてありがとう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 グレートゴブリンを倒した後、引き続き風が感じる方向に進んでいる。

 進んでいる最中に、色んなモンスターと遭遇した。


 暗闇から必殺の攻撃を行う、ダークスパイダー。

 見たものを麻痺させ一瞬で食らいつく、サイレントスネーク。

 コカトリス種以外を虐殺する、ジェノサイドコカトリスなどなど。


 グレートゴブリンみたいな苦戦はしないものの、俺が使う魔法は低ランクなので、倒すのに時間がかかった。

 だけど、奈落の中を進んでいくにつれ、だんだん倒す時間がかからなくなった。


 不思議に思った俺は自分のステータスを確認すると、魔法のランクがそれぞれBランクになっていた。


 スキルや魔法は、使い続ければランクが上がる。 

 色んなモンスターを倒したおかげで、魔法がランクアップしたのだろう。


 適度に休憩を取りつつ進んでいるが、いったいどれだけ進んだか分からない。

 奈落の中は視界が悪いが、光源石という自ら光る石があちこちあるので、暗闇というほどではない。


 何度目かの休憩を取っていると、それは突然聞こえた。


 ドスン……ドスン。

 後ろから大きな足音が聞こえてくる。


 ドスン。ドスン。

 その音はだんだん俺に近づいてくる。


 そして――。


「グアアアア!!!」


 牛のような頭に、グレートゴブリンとは比較にならない強靭な肉体。

 そして手には、骨でできたハルバート。


 ダンジョンの厄災と言われる怪物。

 そう――ミノタウロスが現れた。

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