第15話 正直に
「ところで、カイトお前どうして森の中に行ってたんだ?」
……きましたわ。ええ、何も思いつきませんでしたよ。夢遊病作戦でもさすがに無理がありすぎる。それだけはわかっているんだ……
くそう! 万策尽きたかっ!!
「あ~~~、その~~~え~~~~~」
「その~~?」
「じ、実は……」
「実は……?」
……だめだ。やっぱり何も思い浮かばない。というかこの期に及んで嘘をついても仕方がない。これだけの騒ぎになってしまったんだから。
「実は、どうしてももっと強くなりたくて、森の中で修行をしていました」
「カイト……、お前……」
「マジかよ坊主……」
「これはまた……」
驚きを通り越してあきれて、いるのだろうか……?
「それは本当なの?カイト……?」
お父様たちの反応にどうしたら良いのか自分でもどんどん分からなくっていたところに、小屋の入り口の方から声聞こえた。これは、お母さまの声?
「お母さま……」
「リーシュ、来たのか」
ふり返った先には想像通りお母さまがいて、少し肩で息をしていた。急いできてくれたのだろうか。でもなんだか雰囲気が……
「えぇ、カイトが見つかったとダリルさんが教えに来てくれましたから、急いできたところです。それよりもカイト、答えなさい。それは本当なの?」
「っ!は、はい……。僕はもっと早く強くなりたくて、夜中に森の中に入っていました……」
「……そう、カイト、こちらを向きなさい」
「お母さま……?」
パアン―――
「え……」
乾いた音の後に気付けば僕の左頬に痛みを感じた―――
いた……い? え、今僕はぶたれたのか……
「リーシュっ」
「あなたは黙っていてください!」
「あ、あぁ……」
「お母さま……?」
「あなたは誰の息子なのか分かっているのですか?」
「え……。僕は、それは、その……」
あれ、なんで僕は簡単なことが言えないんだろうか……
「僕は、その、お二人の息子で……」
そう、僕はアラン・ブレイトバーグとリーシュ・ブレイトバーグの2人の息子だ。だから、ちらとお父様とお母さまの方をうかがいながらなんとかそう答えることができた。
「……そう、あなたは私たち2人の息子です」
でもそう答えた僕に向けるお母さまの表情はとても寂しげで、怒りを堪えているようでもあった。どうして、そんな顔をするのだろうか……
「あなたはね、フォルテン王国、ヴィーグルヴァバルト領、クラウゼノイマン辺境伯旗下、魔の森管理警備大隊隊長、アラン・ブレイトバーグ騎士爵とその妻リーシュ・ブレイトバーグの息子なのです。ここまで言ってこの意味が分からないあなたではありませんね?」
「っ!そ、それは……」
「あなたはこの魔の森周辺においては貴族にあたる家の息子なのです。そのあなたがこれだけのことをしたのです。わかりますか?見ましたね?どれほどの方たちがあなた一人を探すために動いてくださったのかを?」
「……はい」
よくわかっている。いや、ついさっき思い知ったんだ……
僕がどれだけのことをしでかしたのかってことを。そう、本来絶対に起こしてはならない間違いを犯してしまったのだということを……
「その頬の痛みでは足りないほどの駆ける必要のない迷惑をあなたはかけたのです。この魔の森の警備隊の隊長である息子のあなたがっ!」
そう言ってもう一度お母さんは右手を振り上げた―――
来るのもわかっている、本来なら先ほどの何も考えていない状況とは違って本来の僕なら簡単に避けることができる平手打ちだろう。それでも僕はよけることすら考えられず、ただ再び来るであろう衝撃に備えて目を瞑っていた……
……あれ、こない。衝撃が。
恐る恐る目を開いた先にはお父様がお母さまの右手を掴んで止めている光景が映っていた。
「離してください!これは私がやらないといけないことなんです!」
「やめるんだ、リーシュ」
「離してっ!私はこの子にちゃんとっ!」
「いいんだっ。リーシュっ!」
「っ!う、うぅ……」
……お母さまが泣いていた。僕は、ただ、修行がしたくて、それが楽しくて、ただ……
「カイト、リーシュの気持ちが少しでも分かったか?」
「……はい。申し訳ありません、でした。トラマーさんもセレキスさんもこの度は僕の、勝手な行動で多大なご迷惑おかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。」
「あ~、なんだ、俺もガキの頃はよくやんちゃしたもんだ。男は強くなりたいもんだ。わからなくはないぞ」
「無事だったんだ。私がとやかく言うことはないさ」
謝罪の言葉を口にして頭を下げる僕にトラマーさんとセレキスさんの2人が気にしていないという旨の言葉をくれる。ただ、お父様の方を見るとどうしてか悲しそうな顔をしていて―――
「カイト、表に出ろ」
「え……?」
「何、お父さんの気持ちもよくわかってもらおうと思ってな」
「は、はい……?」
そして何かを決めたような表情になったお父様が言った。
「お前の本気を見せてみろ。お父さんが直々に本気で稽古をつけてやる」
朝日はまだ上ったばかりであった―――
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