第13話 発見
「はぁ~~」
「なに、まだ怖いの?」
「そりゃそうだよ~。こんなこと初めてなんだから」
遭遇したことのない事態ってのは往々にして怖いものなんだよ…
僕とリーファの2人は魔の森の中層から外周部まで戻ってきた。日はまだ上ったばかりで多分まだ姉さんたちは起きていないはずだけど、お父様とお母様に関してはそろそろ怪しいと思うんだよね。というか起きてるころだと思う…
「もう、さっきもたくさん元気分けてあげたでしょ?」
「うん、そうなんだけどね…」
今僕はリーファと手を繋ぎながら森を進んでいる。なんというか多分傍から見たら年の離れた姉弟が仲良く歩いてる感じだと思う。
……リーファが開いている方の手で魔物をぎったぎたにしていなければ。
「リーファって超強いじゃん…。なんであの時ピンチになってるような風を装ってたのさ」
「何言ってるのよ!?あの時は本当にまずかったんだからね?それに今はカイトの魔力のおかげで力が漲ってるのよ!むしろもっと来い!って感じね」
「僕はさすがに疲れたよ…」
「そりゃねぇ。カイトはまだ5歳なんだからむしろあれだけ動き回れる方がおかしいのよ?」
「そうだろうけどさぁ…。あ、右の方からはぐれのゴブリンが2体来るよ」
「はいはい。本当に2体来てるわね…【
世間話でもしているかのように魔法を唱えて、サクッと2体のゴブリンを屠るリーファ。
さっきからよく使っているんだけど、あれも魔法なのかなぁ。なんか茨のついた蔓みたいなのが地面から出てきて串刺しにしたり、絡めとって蔓のとげでぎったぎたに引っ掻き回して殺したりしてるんだよね。僕が言えたことじゃないけど、むごい…
「うーーん、なんて言えばいいのかなぁ。まぁ、生命力?みたいなのがみんなにはあるでしょ?」
「魔力とは違う別のものね?」
「そうそう、僕はそれを”氣”って呼んでるんだけど、そういうのが僕ははっきりと感じ取れるんだよ」
「”氣”ねぇ~。まぁ、言いたいことはなんとなくはわかるけれど。そんなに簡単でもないと思うのよね」
「僕ってほら、天才だからさ!」
「すーぐ調子に乗って…。これから謝りに行くんだからもう少しそういう雰囲気だしなさい?」
「う、せっかく忘れていたのに…。慰めてくれるんじゃなかったの?」
「もう十分でしょ?ほら、それにもうすぐで抜けるわよ」
「あぁ、うん、そうだね…」
なんか半日くらいの仲とは思えないくらい打ち解けてるよね。リーファって気安いっていうか、話しやすいというか。まぁ、今となっては僕の一部みたいなものだからね。あと僕の見た目のことは気にしないって言ってくれたのも嬉しかったしね!ふふ。僕の前世じゃドライアドって言ったらイケメン大好き植物ってイメージだったしね。意外性があってうれしいよね!!
「なんだか外が騒がしいわね?」
「うん、なんか人がたくさんいるみたいだよ。朝からどうしたんだろうね?」
あれ、でもこの氣は…お父様?それにセトラムのお父さんの氣もするんだけど…
「みんなすまない…。うちの息子が迷惑をかける…」
「言いっこなしだぜ?この森では行方不明なんて悲しいがよくあることだ。だがな、ここ数年は俺達が頑張ってきたおかげで神隠しだって減ってきたじゃねぇか!それに不明者の発見だって報告数が上がってる。絶対見つけるさ!」
「そうだぜ、旦那!」
「俺たちの仲だろう?任せとけ!」
「トラマー、それにみんな…」
「おいおい、感謝するのは見つかってからだぜ?なぁ!お前ら!」
「「「「「おぉよ!」」」」」
「アラン、ここにいたか。俺たちの村のものたちは西側から回るいつもの警邏ルートを拡大して進むから報告は少し遅いかもしれないが任せてくれ」
「あぁ、すまないなセレキス。お前らの村の警備隊まで出張ってもらってしまって」
「なぁに、お互い様さ。ほかの村からも捜索に協力してもらうんだろ?」
「あぁ、そうなんだ。ほんとありがたいよ」
…やばい。
めっちゃ大ごとになってる。
森から完全に出る前に木の陰から外の様子をうかがってみたわけなんだけど…
「あらぁ、なんかすっかり大ごとになってるわねぇ」
「ど、ど、ど、どしよ!」
あああああああああああ、やばい!マジでやばい!
「ああああああああああ!」
「あぁ~あ、両手で頭抱えちゃうわよねそりゃ。こんなことになっていたら」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「もう、どうしようもないわよ…。ほらいくわよ?」
「あ、ちょっとまってまだ心の準備が!あぁあ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「「いってらっしゃーい!」」」
「おーう!」
俺はアラン。アラン・ブレイトバーグ。今年で32になる。二人の娘と一人の息子がいる一家の頼れるお父様さ。一応辺境ではあるが小さな村を預かる身でもある。これでも騎士爵で、貴族ってやつだ。まぁ、王都で胸を張れるようなものじゃなくて、辺境伯から戴いた爵位だから一代限りのものだがな。とはいえ子供たちを王都の学校に行かせることが許されているからその点は貴族になれてよかったと本当に思う。
村の主な管理については辺境伯のところの文官の方たちがやってくれているからもっぱら俺の仕事は警備隊の隊長として魔の森の警備をやっている。こう見えて各村の警備隊をまとめる立場でもある。お父さんは結構偉いんだぞ!
「あなた、気を付けてね?」
「あぁ、もちろんさ。今夜はすぐ寝ないでくれよ?」
「もう、あなたったら、子どもたちがいるのよ?///」
「そのころにはぐっすりさ」
そしてこの美人の妻よ。いやぁ、ほんと俺は恵まれているよ。今夜も頑張っちゃうぜ。
「お、アラン!やっと来たか!」
「おいおい、遅くなったみたいに言うなよ。時間通りだろ?」
このデカくてゴツくて見た目通り豪快な大男はトラマー・ノープン。俺の昔の冒険者時代のパーティメンバーでもある。こいつだけは今もこうして1つのところに落ち着いた俺と一緒に戦ってくれているまさに親友であり、永遠のライバルでもある。ポジションはアタッカーとガードナーという点では全く違っていたがお互い常に切磋琢磨してきた仲だ。腐れ縁ともいうかもしれないが。こいつの倅はうちの元気息子と仲良くしてるみたいだ。俺達みたいな関係になったらそれはそれで面白いよな。
「はっはっは!そうだな!だが今日は大捕り物だからな!なにせ中層でアイアンボアが見つかったんだからな!それも二体だ!早く行かないといけないだろ?」
「あぁ、まったくだよ!どれ、うーん、よし、全員いるな!今日はトラマーも言っていた通りアイアンボア2体が中層に出てきたと斥候警備隊から知らせがあった。いつも以上の大捕り物だ!気を引き締めていけよ!!」
「「「「「おう!」」」」」
――――――――――――――――――――
「ふぅ~、今日のはさすがに骨が折れたな~、アラン隊長さんよ」
そう言いながら俺の肩に手をおいてくるトラマー。
「だなぁ、とはいえ日中に何とか2体仕留めることができたんだ、よくやってくれたよみんな」
「はっ、お前が一番の活躍だったじゃねぇか!まだまだ腕は鈍ってねぇな!」
「そりゃ俺はこの辺境では唯一の魔剣使いだからな。まだまだ鈍るわけにはいかねぇだろうよ」
魔剣持ちってのは伊達じゃないからな!冒険者時代もこいつでならしてたくらいさ。
「はっはっは、ちげぇねぇ!」
「アラン、ちょっといいか?」
「あぁ、セレキス。どうした?」
この長身の金髪で細身のいい男はセレキス・ビルダー。俺たちの隊の副隊長を務めてくれている。こいつは俺と同じで辺境伯から騎士爵を賜っている貴族でもある。まぁ、こいつも例にもれず一代限りだが。
「いやな、お前たちがアイアンボアを相手してくれている間その戦いから逃げるように外に出てくる魔物どもを相手にしていたわけなんだが…」
「あぁ、助かったぜ?お前たちがいてくれるからこっちも集中できたんだからな」
「いやいや、そんなことを誇りに来たわけではないぞ?」
「だろうな、何があった?」
こいつが改まってこうして話しかけてくるときはたいてい何かが起きたか起きるときってのが相場だ。ほんとセレキスはうちになくちゃならないやつだよ。
「やけに数が多かったんだ。ゴブリンにしろ、ブラックドッグ、ホーンラビット、中にはオークやエイミングモンキーまで出てきた」
「まぁ、アイアンボアだしな。普段なら深層にいてもいいぐらいのやつらだ。まぁ、あっちじゃ食われる側だろうが…。そんなのに出張られたらさすがに中層のやつらだってビビるだろうよ」
「お前の言うことももっともなんだがな。見た方が早いか…。こっちだ来てくれ」
「おう、わかったよ」
確かにやけに疲れている様子のセレキスの後を追って外周部で戦ってくれていたみんなの仕留めた獲物の回収場所に向かったわけだが…
「これは…多いな…」
「だろう?さすがに多すぎる。ここ最近やはり森の様子がおかしい。それにわずかにだが行方不明者の数も増えている…」
「あぁ…」
そこには普段の倍ではくだらないほどの魔物の死骸が山となっていた。
そう、ここ数か月の間この辺境ヴィーグルヴァバルト領では人攫いが増えている。この森周辺の村に限った話でいえば一昔前と比べれば少ない方なんだが、辺境全体でみるとなかなかバカにできない数になってきているらしい。女子供、特に女の子が多く攫われていると聞く。
「これは、本格的に深層に行く必要があるのかもな…」
「あぁ…その方がよさそうだ…」
この森に異変が何かが起きている気がしてならなかった。
――――――――――――――――――――
そんなある日の早朝、日も登り切らないような時間に、俺の耳に悲鳴が聞こえてきた。
「いやぁ!カイト!カイト!どこなの!!カイトーー!」
うちの倅の名前を叫ぶ妻の声に一瞬で目が覚めた俺は階下のリビングに降りてきて、リーシュに何があったか問うた。
「どうした?リーシュ!何があった!?」
「あ、あなた!いないの!カイトがいないのよ!!」
妻は今にも不安で破裂してしまいそうな顔をして、目にいっぱいの涙を浮かべていた。
「裏庭には?倉庫の中は?」
「いないの!井戸にも落ちてなかったわ!」
「なんだと…」
「あなた、もしかして最近のあれなんじゃ…」
「気持ちはわかるがめったなことを言うんじゃない。それにあれは女子を狙うことが多いと聞く。うちにはその女子が2人もいるんだ。カイトだけをっていうのは考えにくい」
「そ、そうよね…。どこか道端で寝転がっているのかもしれないものね…」
「あぁ、そうだ。あの子はちょっと面白いところがある。寝ぼけてそこら辺にいるかもしれない。お前は不安だろうがここでエミリア達と待っていてくれ。まだ朝が早い。俺が外を見てくる」
「っ!分かりました。お願いしますね」
「任せろ!」
すると俺たちのやり取りで目が覚めたのか久しぶりに王都の学校の寮から戻ってきていたエミリアと2年後に同じ学校へ行く予定のマリアが下りてきた。
「どうかしたのですか?お母様?」
「うぅん、お母さまぁ~?」
「何でもないぞ!ちょっとお父さんは早くに外に出るがお前たちはここでお母さんと一緒にいてくれ。今日はエミリアも教会に行くのはなしだ。お母さんのそばにいてやってくれ」
「あれ、カイトの魔力が…。っ!! わかりました。お父様。マリア、顔洗ってきましょ?ほら」
「あぁい…」
聡い子だ。さすがは聖女候補だ。どうやら寝ぼけていてもカイトの魔力が感じられないことが分かったらしい。
とは言えカイトは昔からちょくちょく夜中にふらふらする癖があった。気配が希薄で分かりにくかったこともあったが、あの子は自分で気づいていない様子だが相当な量の魔力を持っている。そんな強烈な存在が夜な夜なふらふらしていればさすがに気配が薄くとも気が付くというものだ。ただそれでもたまに外に出ていることもあったようだが、うちの敷地内でふらふらしているくらいだった。だから気が付いたときは両腕で抱えてベッドに運んでやっていた。そんなときは大体「くぅぅう」とかうめくことが多かったがあいつも騎士の息子だ、夢で何かと戦っていたのかもしれない。
っと、思考がそれたな。とにかく探さないといけない。こんなことは初めてだ。
――――――――――――――――――――
ダメだった…
どこにもいない。村の中央の井戸も見たし、端から端まで村中を見て回ったが見当たらない。
トラマーの家にもマリアと仲良くしているリリカちゃん家のハインサーさんのところにも行ってみたが空振りだった…
「これは、やはり…森なのか…?」
「おう、アラン。カイトがいないんだな?」
「あ、あぁ、トラマーか。そうなんだ、カイト、どこに行ったんだ…!」
カイトがいない。そのことが今になって更に俺の心を寒くさせていた。
「無理だろうが落ち着け!アラン!俺たちがいるだろう!」
「だが、今日は外周部の村々で合同演習の日だろう…!」
「こればっかりは仕方がないだろう!みんなだってわかってくれる。お前だって隣の村の双子の子が行方不明になったときに隊を挙げて捜索隊を組んでやったじゃないか。その時と何ら変わらないさ」
「っっ!すまない…。うちの息子を頼む…」
「よし、決まったな。俺は伝令役に伝えてくる。お前は一度家に戻ってかみさんに伝えてこい」
「あぁ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まだ心の準備が!あぁあ!!」
あぁ、リーファに無理やり外に連れていかれてしまった…
どうしよう、結局何も言い訳が思いついていないのに…
「カイトっ!カイトの声だ!」
「何っ!どこだ!」
「いたぞー!旦那!あんたのとこの倅だ!…って誰だ?あんた?」
「カイトー!無事か!カイトーーー!!」
まだ準備中だったみたいな警備隊の一人が僕とリーファを見つけて叫び声をあげた。あぁ、お父様が来る!
ほら、向こう側から走って…早いな!もう目の前にっ!!
「ぐぇっ!お、お父様…」
「カイト!カイトカイトカイト!心配させやがって!一体どこにいたんだ!?おい!」
「く、苦しいよ。お父様」
こっちに来たと思ったらいきなりものすごい勢いで抱きしめられた。ぐ、ぐるじい…これは…
「おいおい、落ち着けってアラン」
「っ!あぁ、すまないな、カイト。苦しかったか?」
「平気だよ?ゲホッ…」
「苦しかったんだな…」
「うん。実は…」
あぁ、セトラムのお父さんがお父様の方をゆすって正気に戻してくれたみたいだ。ありがとう、トラマーさん。
「で、あんたは誰なんだ?お嬢ちゃんよ」
「ん?なんだ!?この子は…いや、待てこの魔力、カイト?だが、これはドライアドの…」
「ドライアドだぁ!?おいおい、それってまさかこの森の大精霊じゃねぇかっ!」
なんか驚いている2人の後方から走ってくる影が複数見えるけど…あ、あれはセレキスさんとお父様の警備隊のみなさんだ。
「おーい、見つかったって本当かぁ!っと、いたいた。どうやら本当に見つかっ…って、おい?このお方はもしや…」
「あぁ、確かに私はドライアドですが、この森の正式な管理者であるドライアド、大精霊ユシルではありません。私はリーファ。ドライアドのリーファと申します」
「なんてこった。本物のドライアドをこの目で見る日が来るとは…」
「あ、あぁ…」
「なんと…この森の守り神じゃないか…」
あれ、なんか僕のことなんかそっちのけでリーファ大注目されてる?最初だけだったよ僕のことは?
どういうこと?ドライアドってもしかして凄いの!?
(言ったでしょ?私たちって有名なのよ、あなたは知らなかったみたいだけれどね?)
頭の中にリーファのそんな声が響く―――
あれれ~~?
でもこれって怒られなくて済む?
……なわけないか。というかこの声どうなってんの?
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