俺の大阪弁が強力な武器になる異世界に転移してしまった件
杉本らあめん
プロローグ
「…ここ、どこやねん。えらい鬱蒼としたとこやなあ。どないなっとんねや。」
―遡ること数分。俺、梅田道徳(うめだみちのり)はいつものように地元の八百屋でアルバイトをしていた。
「らっしゃい、らっしゃい。今日はキャベツがお買い得やでー。みんな買うて行ってやー。」
俺の掛け声につられてオバチャンたちが殺到する。
「いや、奥さんこれ安いで。」
「ほんまやね、こら安いわ。ちょっと兄ちゃん、これもろていくわ。」
全身ヒョウ柄の服に身を包んだ小太りのオバチャンがそう言ってキャベツを指さす。
「まいどあり。150円やで。はいおおきに、また来てや。」
そう言ってオバチャンにキャベツを入れた袋を手渡そうとした時、俺は手を滑らせてそれを落っことしてしまった。運悪く店の前の道路はずっと傾斜になっているため、キャベツは時折段差で飛び跳ねながら転がっていく。
「あかんっ!キャベツ待てっ!」
あれは農家の人が精を込めて育てた大事なキャベツや。食べもせんとほったらかしになんかできるか。必死に坂を駆け下りるがなかなかキャベツに追いつかない。
「はっ、はっ、ふっ、きついっ。」
大きく息を切らし、弱音を吐きながらも諦めず追いかけていると、石にでもぶつかったのかキャベツが大きく上に跳ね上がりスピードが緩まった。
「今やっ。」
俺はこのチャンスを逃すまいとキャベツに飛び掛かる。
「おりゃあっ!」
大きく前に身を投げ出し最大まで手を伸ばす。よし、掴んだ。そう思った瞬間。俺は地面に体を激しく打ち付けた。あまりの痛みに思わず目を瞑る。
「痛ってえ。」
でもキャベツは確保した。ようやった、俺。徐々に痛みが引いていくのを待って目を開けると、俺は目を疑った。そこは太陽の光もわずかしか届かない深い森の中だった。木々が鬱蒼と生い茂り、足元には見たことのない形をした草…と呼んでいいのかどうかも疑わしい何かが絡みついていた。
「いや、ほんま、ここどこやねん。さっきまで俺キャベツ追いかけとったのに。」
そう言って俺は自分の腕の中を確認すると、そこにはキャベツがちゃんと収まっていた。それにさっき地面に打ち付けたせいか妙に体が重い。
「キャベツもまだ持っとるし、夢やないで。せや、周りに誰かおらんやろか。」
俺は助けを求めようと持ち前の大声で叫んでみた。
「おーい!誰かおらんかー!」
すると信じられないことに、俺の目の前にレーダーのようなものが現れた。
「なんやこれ。どっから出てきたんや。」
触れてみようと手を伸ばすが、俺の手はそれを通り過ぎてしまう。
「なんや、触られへんのか?よう見たら丸が何個かあるな。真ん中の大きい丸が俺か?ほんならこの俺の後ろにおる小さい丸はなんや。」
そう言って後ろを振り返ってみると、クマとライオンを足して2で割ったようないかにも狂暴そうな怪物がこちらを見据えていた。
「なんやお前!俺食ってもうまないぞ。ほらあっち行け。」
それでも俺の言葉などお構いもなくそいつは牙をむき出しにしてジワリジワリと俺に迫ってきた。
「やめろ!来んな!あっち行け!あっち行けええええええ!」
俺が大声を張り上げた瞬間、またしても不可思議な現象が起こった。怪物の目の前でパンッと破裂音が響き白い閃光が、暗かった辺り一面を明るく照らし始めた。怪物は音と光に怯んだのか、大きく声を上げて逃げ去った。
「ふう、よかった。でもなんやこれ。俺が大声出したら変なもんばっかり出てきよる。もういっぺんなんか叫んでみたろか。」
俺は大きく息を吸い込み、目いっぱいの大声で叫んだ。
「アホォォォォォォオ!」
するとなんと俺の目の前から放たれた強烈な光線が、幾重にも立ち塞がる木々や草を焼き払い、ずーっと遠くの方まで1本の太い道が出来上がってしまった。その道の上は草一本すらも残らないほど焼き尽くされていた。
「うわ、なんやこれ。どうなってるんや。これ俺がやったんか。」
思わず口に出して驚いていると、頭の中でなにやら声がした。
「あなたの発動した魔法、熱線砲によりその影響下にあった物全てが焼き払われました。」
「だっ、誰やお前!」
「私はあなたの発動した魔法、大賢者です。この世界のあらゆる知識や現象を検索し、説明できます。」
「さっきから何を言うてるんや。魔法とか大賢者とか。」
「魔法とは強い意志と詠唱によって、空気中の魔素に影響し発動される現象のことで、大賢者もその1つです。また、大賢者は超級魔法に分類されており、この世界で使用可能な人間は梅田道徳ただ1人です。」
「何言うてるんかさっぱりわからん。詠唱なんかなんもしとらんで。」
「はい。たしかにあなたは詠唱についての知識を持っていないようです。ただ、あなたの発する言葉に強い意志が宿っているのを感じます。その強い意志が魔素を動かしたのでしょう。」
「やっぱりようわからんわ。ほ、ほな聞くけどこの世界に日本ってあるんか?ここは地球か?」
「ニホンというものは存在しません。チキュウという場所も存在していません。」
「そ、そうなんか…」
えらいことになってもーた。まさかこれって異世界とかいうやつちゃうのん。よう分らんけど魔法とか使えるようになってしもたみたいやし、これからどうしたらええんや。元の世界に帰れるんやろか。
「なあ、大賢者とやら。俺はたぶん違う世界から来たんやろ、元の世界に戻れるか?どうしたらええんや?」
「はい、あなたの遺伝子情報はこの世界の人間のものと一致しません。ですからあなたは異世界人であると断定できます。元の世界へ戻る方法は1つ。とある条件で出現するといわれる次元の歪に入り込むほかありません。それでも無事元の世界へ戻れるかどうかは分かりませんが。」
「その条件ってなんや。俺にもできることなんか。」
「私のデータベースに条件についての情報がありません。おそらくこの世界で条件を満たした前例がないのでしょう。」
「ほんまか!ほんなら帰れる可能性はほとんどあらへんのか。」
「はい。あなたの目の前に次元の歪が現れる確率は現在約6490兆分の1だと推測できます。」
ということは俺はどうやらこのよう分からん世界で生きていかなあかんらしい。不安しかないけど大丈夫なんやろか。とりあえずはこの大賢者になんでも聞かなしゃあないか。
かくして俺は異世界で生きていくことになった。
俺の大阪弁が強力な武器になる異世界に転移してしまった件 杉本らあめん @sugimotoramen
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