第15話 たらいまわし



 両親の死から3年後…アキラ10才・ミウ9才


「ミウ、大丈夫か?」


 そう言って、うまく岩を登れないでいた私に、兄さんは手を差し伸べた。


「よっこいしょっと!!」


 兄さんの手を掴むと、私の身体はグイッと引っ張られて、なんとか岩を登ることが出来た。


「ふぅ〜もう少しで頂上だからな!がんばって登るぞミウ」

「うん!」


 所々岩が剥き出しになっている道を私と兄さんは歩いて行く。


 そうして10分が過ぎた頃、生い茂る木々のせいで薄暗く、周りを見渡しても木以外何もない獣道を進んでいると、薄暗かった視界に、淡い光が見えた気がした。


 私達が歩いているこの道の先がどんどん明るくなって行く。


「はぁ…はぁ…もう着くぞミウ」

「…う、うん…はぁ…はぁ…」


小さい身体でかれこれ二時間以上歩いてきた私達は、もうすでに体力の限界が近かった。


(あと少し…もう少し…)


 と自分に言い聞かせて歩く。


 すると


「はぁああああああ!ついたぁああああ!」


 汗だくの兄さんが雄叫びを上げ、両手をバッ!とあげてガッツポーズをとる。


「ほら!見ろよミウ!これを見せたかったんだ!」


少し遅れて歩いていた私はがんばって兄さんの所へせっせと歩いていく。


そして兄さんの隣に立って、景色を見た私は


「うわーーーー!!たかーーい!!!」


 300m程の山で周りの1000m級の山々と比べたら小さいが、今の2人にとっては富士山に登ったくらいの達成感を感じていた。


 その山頂付近から見た景色は今まで居た地上とは違い、全てが小さく目に映る。



「あれは…?」


 大きい川が流れているのが見える。今、その川が太陽の光の反射でキラキラと宝石の様に光ってみえる。川の流れでユラユラと動いて光の形を変えていき、幻想的な光景だ。


「…きれい」


 綺麗としか表現ができないその光景にミウは思わず声がでた。


「へへっそうだろ?下から見てて、ここなら綺麗に見えるって思ったんだ!」

「兄さんすごい!連れてってくれてありがとー!」

「あぁ!いいんだよミウ。綺麗って思ってくれたんなら来たかいがあったよ!」


 2人共まだ6月に入ったばかりだというのに汗だくだ。


「少し座って水分補給しよっか」

「うん」


 いい感じに椅子になりそうな岩に座って、持っていた水筒をミウに渡す。


「一気に飲まないで、ゆっくり飲むんだぞ?」

「わかってるよ兄さん」


 そう言ってミウはゴクゴク麦茶を飲む。


「はぁっ!おいしー!」

「一気に飲むなって言ったのに悪い奴だなぁ〜ははっ」


 笑ってミウに突っ込むアキラ


「あはは!だってすんごくのど乾いてたんだもん!しょうがないしょうがない」

「しょうがなくないだろ!じゃあ俺も飲んじゃお!」


ゴクゴクゴクと一気に冷たい麦茶を飲んでぷはぁーっと息を吐く


 2人してしょうがないしょうがないと言って笑いあう。


 普段冷たい麦茶を飲んでもおいしいとは感じないけど、この時飲んだ麦茶は忘れられないくらいおいしかった…



「しばらく景色を見ていこうか…この時間帯しかこの景色が見れないから見れるだけ見ていこう」

「そうなんだ!わかった!」



 そう言って2人は静かにこの幻想的な景色を見ていた。



____________________



 約10年前に両親が死んでから3年の間、俺とミウは親戚中をたらい回しにされていて、すぐ厄介者としてどこか別の親戚に引き取られる、という事をもう何回も繰り返していた。


 そうして引き取られたら、まずは転校して、だれも友達のいない教室へ入りあいさつして、仲の良い友だちが出来る間もなく引っ越していく。そんな生活をずっと送っていた。


 だが、そんな時


 無精髭を生やしたガタイのいいおっさんが急に現れ「こいつらを引き取る」と言って、厄介者だった俺達はホイホイとそいつに引き取られた。


 どうせこの人も長続きしないだろうと思った。今までの人たちもそうだった。

 またお金がかかってしょうがない!と夫婦で揉めたり、一時はかわいそうだから…と引き取られたが、やっぱり急にうざくなって、よそよそしくなっていくんだろうな…

 だったら最初から引き取るなよ。とは思ったがそれでは俺とミウは生きていけない。

 それに引き取り手がいなかったら、どこか施設にぶち込まれて、もしかしたら兄妹バラバラになってしまう…それだけは避けたかった。だから引き取り手がいるっていうだけで俺は結構安心していた。


_____________________


 引っ越し…と言っても次に住む家に車で向かうだけなのだが、向かっている道中、髭面のガタイのいいおっさんが


「俺は菊池ヒロシ。気軽にヒロシって呼んでいいぞ。よろしくなアキラくん、ミウちゃん」

「はい。よろしくおねがいします。ヒロシさん」

「よろしくお願いします…」

「そんなかしこまらなくていいさ!俺の家にもアキラくんと同じ年の息子がいるんだ」

「それは嬉しいです。友達が少なくて…」

「そうか…そりゃぁそうだよな…とにかくアキラくんもミウちゃんも仲良くしてくれると嬉しい。息子の名前はミノルだ」

「はい」

「まだそんなかしこまるなっていう方が無理か…まぁ気軽にお互い慣れていこうじゃないか!はっはっは!」

「は、はい」

「はい」


(今回の人は気さくで良い人みたいだ。見た目は少し頭がでかくて怖いけど…今回は良い所だと良いなぁ…それに俺と同い年の子もいるのか!これから兄妹3人で仲良くなれると良いなぁ…)




 こうして俺が9才・ミウが8才の時、菊池家へ引き取られる事になった。





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