第7話 アニメ化しても再現できない
昼休み
いつもの様に、ドク男と他愛のない話をしながら学食へ行く。俺は和食のA定食でドク男は洋食のB定食を頼み、空いている席を探していたら、後ろから声をかけられた。
「あれ?ミウさんのお兄さんじゃないですか」
振り向くと一条ハジメとミウがいた。二人とも俺達と同じように、定食の乗ったトレイを持っている。
「ミウ...」
どうして?と言いかけたが止めた。今こんな所で聞くことでもないし、目の前にこいつもいることだしな。
「よければ一緒に食べませんか?色々聞きたいこともありますし。ね?ミウさん」「...はい」
軽々しくミウの名前呼びやがって許さん。
俺も聞きたいことが山ほどあるんだ。いいだろう話にのってやる。
「そうだな。俺も聞きたいことがあるし、一緒に食べよう。ドク男すまんが付き合ってくれ」
ドク男は状況が読み込めずキョロキョロしている。
だがすぐに、なんとなく状況を察し、「わかったでごさる」と言ってくれた。
互いに俺、一条。 ドク男、ミウが正面にくるような形で四人テーブルに着いた。
皆の自己紹介が終わり、定食を食べ始めようとした時、小声でドク男が話しかけてきた。
(アキラ殿アキラ殿、妹のミウ殿間近で見れてうれしいでござる)
(うるせっ!あんまジロジロ見るなよ)
(アニメでもこんなに綺麗なキャラいないでござるよ!アニメ化しても再現できないでござる!それに声も可愛いでござるな!)
ミウとの会話は初めてらしく、やたら興奮している。もう黙っててくれ。
そして皆沈黙し、気まずい空気になっている。
ここは威厳あるお兄ちゃんとして、話しかける良いチャンス。
早速ジャブを一発...ってくらいの気持ちで質問してみるか。
「そういえば二人はいつから付き合ってるんだ?」
するとすぐに一条ハジメが
「僕達は昨日から付き合い始めました。僕から放課後、体育館裏に来て欲しいと言って、そこでミウさんに告白してOKを貰い、付き合ってます。僕の片想いだと思って玉砕覚悟で告白したのですが、ミウさんも僕の事を好きと言ってくれたので本当に告白して良かったと思ってます。ね?ミウさん?」
「...はい」
「........」
(そうなのか.....好きなのか...俺じゃなくて、そいつが...)
向かい合って、こうして事実を突き付けらると俺の心がミキサーで粉々になってしまうくらいダメージを喰らい、精神がもたない。
ジャブを打ったと思ったら、いきなりボディブローとアッパー食らった気分だ...何も言い返せなくなった。
黙っていると一条ハジメが
「そういえば、お兄さんも幼馴染のヒカリさんと付き合いはじめたらしいじゃないですか!ものすごい噂ですよ?実際の所どうなんですか?気になりますよ~ね?ミウさん」
ミウも俺を黙って見ている
(か、可愛い...さすが俺の妹だ...ってちがうちがう!)
ミウにみとれてる場合じゃなかった。
「あ、あぁ~まぁそうだな!たぶん噂通りだと思うぞ?な?」
誰に同意を求めているのかわからないが、ミウの前だと緊張してうまく話せない。
ちらっとミウを見ると少し暗い顔をしてこちらを見ている。
「ど、どうしたんだミウ?」
「別に...本当にヒカリさんと付き合ったんだ。兄さん」
「......」
ミウに嘘をついている罪悪感で何も言えなくなつてしまった。
一条ハジメが、急にパンッ!と手を鳴らし
「まぁ同じタイミングで兄妹に、彼氏彼女ができた事は、とても喜ばしいことですよね!いやぁ~昨日僕もミウさんに告白して良かったですよ。ね?ミウさん?」
「...はい」
ミウはほとんどご飯に手を着けずに下を向いてい る。
好き同士付き合ったなら、一緒に昼飯食べるのは嬉しいことなのに...と思ったが...
(まさか!!!俺とドク男が邪魔でイチャイチャできないからそんな落ち込んでいるのか!?だとしたらなんて空気の読めない男なんだ俺は!!!)
あぁぁああ~と頭を抱える俺 。そしてミウにイチャイチャしてほしくない俺!!さらにあぁああああ~っと頭を抱える
するとドク男が突然
「本当に二人って付き合ってるでごさるか?」
なに言ってんだ?と言う目で俺は、ドク男を見る。そんな事今さら確認するまでもないだろう...
「な、なに言ってるんですかドク男さん。僕ら二人はちゃんと付き合ってますよ!ね?ミウさん!?」
一条ハジメはそう言うが、ミウはうつ向いていて何も言わなかった。
「いやぁ~拙者てっきり、ハジメ殿がミウ殿の弱味に漬け込んで、無理矢理話を合わせているように見えたのでござるが...今の言葉が本当なら失礼したでござる!拙者の勘違いでござるな!」
アハハハハと笑うドク男
少し怒った様子で一条ハジメは
「ドク男さん!僕は昨日ちゃんとミウさんに告白しましたよ!それでOK貰ったんです。そんな弱味に漬け込んだとかいう言いがかりやめて欲しいですよ~ハ、ハハ。ね?ミウさん」
「......」
またしてもミウはうつ向いていて何も言わない
「...」
「...」
「...」
「...」
皆黙ってしまい、黙々と昼食を食べる。
ドク男には悪いが、俺の妹であるミウが嘘つくはずないじゃないか...悲しいことに、こいつの言ってる事は事実なんだ...お前はアニメの観すぎだよ...
俺はそんな事を思いドク男を見た。その横顔は眼鏡であまり表情が読めないが、さっきまで笑っていたとは思えない形相で、一条ハジメを睨んでいる。
「それじゃ食べ終わったことだし、拙者達は教室に戻るとするでござるか!」
俺が食べ終わったと同時にドク男が言った。
「それじゃミウ殿、ハジメ殿、またでござる!」
俺もドク男につられて黙って席を立つ。
大好きなミウともっと話したかったという思いと、心が擦りきれて何も話せない俺が葛藤しているが、帰ったらミウと話そう、と思い黙って行こうとした。
そして、急に二人に向かって、ドク男が振りかえり
「あ、そうそう。ハジメ殿...ミウ殿を悲しませないようにするでござるよ?アキラ殿と拙者、ミウ殿をもし泣かせでもしたら絶対に許さないでござるよ?」
「...」
何も言えない一条ハジメ
「ではミウ殿!またでござる!」
「また後でな、ミウ」
俺がそういうと、ミウはこちらを見て少し微笑んだような気がする。
そうして手を降って去っていく俺とドク男。
「...」
その後ろ姿を黙って睨んでいる一条ハジメがそこにいた。
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