第3話 謁見
目覚めの良い朝だった。
予定通り婿探しを始めるつもりではあるが、姫やおじいちゃんズの意向も取り入れねばなるまい。そもそも婿たる素質がある者を見つけるには……なんて考えているとコンコンコン、とノックの音。朝から何の用かはわからないが、とりあえず扉越しに対応する。ここが王城の敷地内とはいえ、身の危険がないとはいえない。
「救世主様、王があなたに謁見したいと申しております」
男の声。おそらくはおじいちゃんズのうちの一人か。名前を言っていないせいで救世主扱いされてる……それになんで僕が王より偉い立場になってるんだよ。それほどに天の力で呼ばれた存在は貴ばれるのか。なんと荷が重い。
「わかりました。では少し準備する時間をいただけますでしょうか?」
慌てて服を着る。僕裸族なんだよなぁ……。
「はい。私はここでお待ちしておりますので、あまり急がなくても構いませんよ」
親切なおじいちゃんだなぁ。昨日クローゼットに礼服があるのを確認していたので早目に着替えを済ませられたが、『服を探すところから始めなければならない』という予想は立てられるのか。王家に仕える者の気遣いが光る。
「ありがとうございます。もう準備できました」
「では参りましょうか」
素直に気遣いおじいちゃんの後ろについていく。『疑わしきはとりあえず信じる』、いい感じなのでこれを座右の銘にしよう。
そういえば昨日は僕を呼ぶのに忙しかったらしく、王様に謁見できなかったんだよな。どんな御方なのか見当もつかない。あのアリシアの親だから外向きは良くしてくれるだろうけど……そうこうしているうちに王様のいる部屋へ着いたようだ。
「失礼いたします。王様、この国をお救いくださる救世主様をお連れいたしました」
「ご苦労さまです、ヴォルコフさん。ほう、この御方が……」
この御方が女王様か。めちゃめちゃ綺麗な人……白髪に紅の眼、そして大きな大きなアレ。子がああいう風なら親もそうなるよな。お優しい声をされているのもあって、ここ一帯の空気が美味しい気がする。
なぜか王様にしては物腰が異様に低いし、あのおじいちゃんヴォルコフさんっていうんだ。裏もといギャップ萌えがありそうな気がしないでもないが、王様とそこまで関わることなんてないでしょ。へーきへーき。
「はい。私がこの世界に呼ばれました、
「感謝いたします。ふふっ、全然女王らしくないですね」
女王様は苦笑交じりに返答。必要以上に語気が優しいから冗談に聞こえないんだよなぁ……怒らせたらダメなやつ。逆に怖い。
「怖がることはないですよ。この国は決して小さなものではないですが、私達に技術を与えた天やあなたのような地がいなければ生活を営むことすらできないほどのものです。それにあなたはモーリ家を、海を救ってくださる御方です。少し自信を持って行動されてみてもよいのでは?」
まあ老人の戯言ですが、と女王様は付け加える。鼓舞してくださるのは光栄すぎるのだが、ハードルが大気圏に突入するレベルで上がってしまう。
それはそうと、アリシアの結婚について、女王様はどう思っているのかな。この先まともに会話できる機会なんてないだろうし、今のうちに聞けるだけ聞いとくか。
「女王様、姫様の婚姻についてはどうお考えですか」
「そうですね。あの子に無理をさせてしまっている、という自責の念が強いですね。私が男の子を産めたら良かったのですが、主人が少し前に天寿を全ういたしましたのでどうしようもないんですけどね……ここ、笑うところですよ?」
「あ、あはは……お気遣いありがとうございます。冗談がお好きなんですね。では具体的に。私が見繕うであろう結婚相手はあなたの養子として王家に迎え入れられるわけですが、相手に求めるものはありますか? 例えば『統治者としての素質』であったりといったものです」
「ああ、普通が普通ではない『相手に求める条件』というやつですね。アリシアの意見を取り入れた方がよろしいかとは思いますが……あえて言うのであれば『あの子がこの先を幸せに暮らせる』ことですかね。できれば孫の顔も見てみたいですね。まあ私はもう長くないですが」
ちょいちょい自虐めいたご冗談を仰るので当方はヒヤヒヤしております。娘とは正反対の性格だが、裏が見えないのが彼女の怖さを増幅させている。
ここで怯むわけにはいかない。意を決して僕はある『頼みごと』をする。
「なるほど、ありがとうございます。最後に、姫様の婚姻につきまして、一つ頼みごとをしてもよろしいでしょうか?」
「ええ。元は私達があなたを呼び寄せましたので、私達にできることであればなんなりと仰ってかまいませんよ」
「ありがとうございます。あっ、まだ姫様の許可を取ってない……申し訳ありません。今のは忘れてくださ」
「呼ばれた気がしたけど、何の用?」
え!? アリシアさんなんでここに!? 察するとかのレベルじゃないんですけど!?!?
「あら、姫様が来ましたよ。良かったですね」
「そ、そそそ、そうですね……なぜか姫様もいらっしゃいましたので、これから姫様と婚姻する方を選定するための作戦を発表したいと思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます