13.銃声

「銃声……?」

「はい、間違いなく銃声です。薬莢が落ちる音も聞こえました」

 本当に今のが銃声なら、そのあとに聞こえた悲鳴。誰かが撃たれた? 誰に? なんで?

 そこにあるはずのない答えを探して脳がぐるぐると思考を回す。まだふらつく体に無理やり力を入れてベッドから起き上がる。

「メティス、カメラ繋げ」

「既に」

 メティスは所内でも特殊な立ち位置。研究所に設置されている監視カメラ全てにアクセスする権利が与えられている。

「メインゲート付近です。映像と音声出します」

 少しのノイズとともに、机上のモニターに荒い画質の映像が映し出される。そこに写っていたのは、完全武装した兵士のような様相をした複数の人間。その手には小銃。

「なんだよ、こいつら……」

 明らかにまともな奴らではない。外部から入ってきた、俺達に敵意のある集団。

 中心にいる人物の目の前に倒れこんでいるのは……

「部長!」

『ぐうううう……あああ……』

 腹を抑えて横向きに丸まっている彼の腹部あたりの床に血だまりが広がっていっているのがはっきりと分かった。撃たれている。部長が。

「危険ですよ! この部屋の中にいてください!」

 慌てて立ち上がった俺をメティスがなだめた。


 どうする、どうする、あいつらは確実に敵対している。あの武装には適わない。あいつらの動機も目的も、情報が少なすぎる。

 考えろ、もうすぐ脱出という状況で俺たちの邪魔をする目的。

「情報だ」

 脚に力を込めて机に向く。

「この状況で、俺にできる事」

 これだ。

 俺は手を伸ばす。

「マスター、何を!」

 頭に被る。

「メティス、記憶複製だ」

「危険です! これはもっと段階を踏んで行うべき試作品だって、あなたが……! そのための用意だってろくに」

「メティス」

 起動したそれは青白い光を放ち始める。モーター音が頭蓋を通して耳に響く。

「読みが外れていても、あいつらの目的が何にしろ、これは役に立つ。どうせやれる事はこれくらいしかないなら」

 ぱん、ぱん

 もう2発、銃声が響く。

「メティス、やってくれ」

「……」

 黙ったメティスを尻目に、装置は音を大きくしながら記憶複製の用意を進める。


「用意はもうすぐ終わります。脳波を同調させる時間はないのでアドリブで。マスターは落ち着いてさえいれば私が全部やります」

 俺は少しずつ精神を落ち着け、目を閉じる。集中。一回で成功させる。集中。


「記憶抽出装置、起動完了。記憶接続媒体、接続。システムオールグリーン。マスター、いきますよ」

「ああ」

 静かな電子音とともに、頭に霧がかかったように何も考えられなくなる。意識が沈んでいく。眠い。

「3、2……


 静寂。

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