盃に酒が入ってただけ
あーとぶん
魚臭い商店街
「環山くん?聞いてる?」
「あっすいません。ちょっと頭が痛くてぼーっとしてました。」
正直、こんな体調なら出勤などしたくない。
「体調悪いなら、無理しないでね?で、話戻すけど、会議の資料のこの部分が不明瞭って言われちゃったから、もっと分かりやすく打ち直しておいて?」
「あ、はい。わかりました。」
資料を見なおしていると、高橋さんは別室に向かったようだった。
はずだった。
「あ環山くんさ、頭痛いなら、休憩しない?私が誘ったってことだし、怒られないと思うよ?」
「ほんと助かります、高橋さん。」
高橋さんは露骨にウィンクをして、ついてくるように伝えたようだった。
この会社の自販機は、すべて室外に置いてあり、休憩に配慮しているといえばそうだし、めんどくさいと言えばめんどくさい配置でもある。
彼女はブラウンのスーツから連想できるミルク多めのコーヒーを買い、僕に渡してきた。
「環山くんってコーヒーブラックで飲んでそうだよね。」
「え?まぁそうなんですけど、そんなに見た目にでてますか?」
コーヒーはブラックの方が後々集中できる気がするのでよく飲んでいる。ミルクも無論好きである。
「ん~そこそこ見た目に出てるかな?歯とか黄色いし。」
「そんなに歯が気になるんだったらホワイトニングしようかな・・・」
正直一日に3杯は飲んでいるので、飲み過ぎではないかと心配なのはそうである
「私はしてるよ?結構飲むからね~。」
確かに。彼女はよくコーヒーを飲んでいる印象があるが、歯は白くて清潔に保たれている。
「もしかして、僕って不清潔な印象付いてたりしますか?」
もしそうならホワイトニングはしよう。仕事においては、第一印象が大事だ。
その点で言えば、彼女はかなり仕事に優れたルックスをしている。
「いやいや、そんなことないよ。若干疲れてそうには見えるけど、ちょっとかわいくなっちゃう程度だから。」
僕はかわいく見られているのか。庇護欲をそそるという事なのだろうか、それとも・・・
「かわいいって・・・僕もう30直前ですよ。」
「年齢の割にかわいいよねって。」
「若い」という事なのだろうか。
彼女は意識してかそうでないか、人に好感を抱かせようとする節が多々ある。
人をそうやって見てしまう自分が醜くてしょうがない。
僕は少し俯いてから、コーヒーのプルタブを開けた。
「今日さ、一緒に飲まない?和山君が良ければだけど。」
飲みのお誘いは初めてだ。
「あっ是非!」
自分でもわからないが、動揺していたのか、舌をやけどしていた。
「ふふっ元気ね。」
「僕なんて飲みに巻き込んでもあんまりおもしろくないと思いますけど。」
コーヒーを一気飲みした。
「いいのいいの、私が目にかけてるお気に入りの後輩ちゃんなんだから」
プルタブを缶の底に落としてしまった。
手の上で踊らされたわけだが、なぜか悪くない気分だ。
「さ~て私は職場に戻るから、環山くんもさっさと戻りなよ?」
「はい。ありがとうございました。」
僕はもう一杯ミルク多めのコーヒーを買った。
職場に戻ると、彼女は同期の若林の世話をしているようだった。
「前髪長くなってきたかもな。」
癖である独り言とため息は、いつになっても治らないので、端っこの机を申請している。そのせいでもあるが、歩くのがそこそこめんどくさい。
机に座るとすぐに、後輩の猫田が話しかけてきた。
「環山さん、来週の土日月空いてます?」
「あ~今確認するね。」
書き込みできるカレンダーみたいな手帳を確認すると悲しみの3連続空白を見つけた。
「開いてますね。」
「勝手にみるな。」
「見られて困るものでも?」
「ないけど見るな。」
猫田はずる賢いが、冗談が通じるので嫌いじゃない。
「見られて困るものがある人が上司だったら、もうこの会社に僕はいませんよ。」
おまけに眼鏡をかけたイケメンである。
「猫田ってさ、いいやつだと思えばそうだし、悪いやつだと思えば悪いやつだな」
「ザ・人間って感じですね。」
彼は自分の首から下げた
「で、どこか俺を連れていくのか?」
独身なので一人で旅行するのには何も問題ない。
「奈良、行きません?」
奈良は、幼少期に1度行ったきりで、何も覚えていない。
「いいけど、なんで?」
「上司との親睦をってね。」
猫田は今年入ってきたばっかりで、初めての教育する相手だが、正直教育する必要がない気がする。俺より頭はいいんだろうし、俺より早い年齢で教育係を任されるのだろう(高橋さんも当時25歳(3個上)という若い年齢で教育を任されている為、自分が足手まといなのではと心配している。)
「男二人か?それもいいな」
「高橋さんはいいんですか?仲良さそうなのに」
「女性を誘うのか・・・?」
猫田はもしかしたら結構プレイボーイなのかもしれない。と、ひそかに思った。
「環山さん奥さんとかいないんですし、問題とかはないんじゃないですか?」
「・・・居たらお前とも行かねぇよ。」
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