第7話 決闘
謁見の間に三人が到着するとセバスチャンと王子その後ろに二人の使用人がいた。
「女王陛下お待ちしておりました。お客様がお見えになられました」
「せ、セバスチャン……ご、ご苦労」
いつもと言葉が違うなと思い、フレデリカを見るとセシルだけに聞こえる声で。
「緊張してるわ」
と教えてくれた。
さっきまで人を散々笑っておきながらとセシルは内心思いつつ、女王陛下の顔をさり気なく見ると、確かに緊張していた。
これには流石のセバスチャンも苦笑いのようだ。
「では私は隅の方で待機しておきます」
セバスチャンが謁見の間の壁の方に移動する。
すると、王子が一歩前に出て言う。
「お久しぶりです。そなたが望む我が国、最強のメイドをご用意した。約束通り私と結婚をしてもらうぞ」
「だから、嫌だって。それに御託はいいわ。とりあえず私はこう見えてとても忙しいの。だから早く使用人同士による代理決闘をしましょう」
かなり緊張しているのか、足早に話しを進める女王陛下。
これはこれで珍しいとセシルが思っていると、「アイツを見ると気持ち悪くなるらしいぞ」とフレデリカが横から言ってきた。
これが俗に言う「生理的に無理」と言う奴なのだろう。
「いいだろう。なら頼んだぞ、メアリー!」
「御意!」
そう言って前回見かけなかった、一見気が強そうな使用人が前へと出てくる。目はキリッとしており、黒い髪はポニーテールで結んでいる。背丈は見たところ女王陛下とあまり変わらない。
「まさかの女か……」
「まぁそう言うな。私の分身だと思ってボコボコにしてこい」
女性にはどうも本気になりにくいなと言うセシルの心の声を読んだかのようにフレデリカが親指を立てて、笑顔で言ってくる。
「セシル絶対に勝って、と言うか早く終わらせて。アイツの顔見てると気分がどんどん悪くなってくる」
「かしこまりました、善処します」
セシルがメアリーと呼ばれる使用人の前まで出ていく。
「貴方がここの代表?」
「はい」
「何か弱そう」
「あはは……まぁ否定はしませんが」
「なんで王子はこんな使用人共しかいない所に私を呼んだんだろう。これは正直時間の無駄としか思えないけど」
セシルがイラっとして何て言って言い返そうかと考えていると、フレデリカが二人の間に割って入ってくる。
「審判は私がする。二人共異論はないな?」
セシルとメアリーがコクりと頷く。
一度大きく深呼吸をして、集中する。
私情は捨て、使用人としての務めを果たす事だけを考える。
「では勝負開始!」
その言葉を聞いて、セシルが構えメアリーの観察を始める。
小柄な体系を活かして、身軽なフットワークからの攻撃。
そして一発もしくは二発攻撃を入れたら距離を取りと、セシルに動きを読まれないように動き回る。
「ほら、どうしたの? レナード国の使用人」
挑発をするようにメアリーがセシルに言う。
しかしセシルは黙ったまま、返事をしようとはせず目でメアリーを追う。
ここで挑発に乗り、焦ってはダメだと自分に言い聞かせて。
静かに時が来るのを待つ。
「「…………」」
セバスチャンとフレデリカは二人の戦いを見て、表情一つ変えず黙って見守っている。
「セシル……頑張って」
女王陛下は二人と違い、防戦一方のセシルを見て手を合わせ祈るようにして見守っている。
「良し! いいぞ」
「これは勝ちましたね」
「当然だ。メアリーの攻撃は一撃が軽い。だがずっとその攻撃を受け続ければやがてダメージは蓄積し相手は倒れる。対人それも一対一の戦闘においてはメアリーは我が国でも五本の指に入る。当然だろ!」
王子と付き人をしている使用人は勝ちを確信したかのように余裕の笑みを浮かべている。
王子の言う通りメアリーの一撃一撃には重みがない。攻撃に重心を乗せず攻撃後の次の動きに全てをかけている、そんな感じの攻撃だった。
そして徐々にではあるがメアリーに殴られ、蹴られた場所に身体が痛みを感じ始める。
このままではマズいと判断し、セシルも動き始める。
そしてメアリーの攻撃が空を切り始めた。
相手の重心から次の行動が読めない事にセシルは苦労していたが、何となく攻撃を受け続けながらも観察を続けたおかげかメアリーの癖に気付く事ができた。
それは必ず攻撃の直前に次に動く場所に一瞬視線が逸れることだ。
メアリーは攻撃と同時に動く場所に何もないかを必ず確認する。すなわちメアリーの視線の先には未来のメアリーがそこにいるわけで、後はそこから来る攻撃に意識を集中させれば容易に躱す事が出来る。
幾ら攻撃が速くてもそれが来る場所がわかっていれば後は何とかなるのだ。
「「……フッ、お見事」」
セバスチャンとフレデリカかニヤリと口角を上げ呟いた。
「ど、どうした、メアリー! 早くそいつを倒せ!」
王子が叫ぶ。
そしてメアリーが更に攻撃の速度を上げるが、今のセシルには一発も当たらない。
セシルの目は常にメアリーの目線の先だけを捉えている。
「お前……何をした?」
攻撃を躱しながら、セシルが言う。
「何もしていませんよ」
その言葉にメアリーが怒ったのか舌打ちをする。
怒りに身を任せた攻撃はセシルには当たらない。
その時、セシルの耳に声が聞こえてくる。
「お願い、セシル! 私を助けて!!!」
その言葉にセシルは微笑みながら答える。
「かしこまりました、女王陛下」
「私を舐めるな!」
メアリーのかかと落としは後少しの所でセシルに躱され空振りに終わる。
そのまま空中にいるメアリーの背後を取る為、僅かな重心移動で回り込むセシル。
あまり手荒な真似は女性相手にはしたくないと抵抗があったセシルは、メアリーの頭を右手で掴み、左手でメアリーの左腕を掴む。
そして空中にいるメアリーの重心を崩して、地面に抑え付け背中に片膝を乗せて動きを封じる。
暴れてセシルを振り落とそうとするが、メアリーの小柄な身体と力では、セシルの力には敵わなかった。そのままセシルはメアリーに対して関節を決める。
「……ッ!!」
「降参してください。でなければ腕を折ります」
「…………!?」
セシルは心を殺して、メアリーの左腕に負荷をかけていく。
あまりの痛さにメアリーが目から涙を流す。
すぐに降参しなかったのは彼女もまた主の為に頑張っていたからなのかもしれない。
「……降参します」
「勝者、セシル!」
フレデリカが勝負がついたと判断し、声を上げる。
遠目で二人の決闘を見守っていた騎士達から謁見の間に歓声が聞こえてくる。
「「「「おおおおおお!!!!!!」」」」
パチパチパチパチ
セシルはすぐにメアリーを開放して、女王陛下の元に行く。
すると涙を流して、喜んでくれた。
「流石セシルね。本当にありがとう」
「はい」
「それより、怪我はない?」
「はい。少しかすり傷がありますが、大したことはありません」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですのでご安心を」
「なら良かった」
女王陛下は安心したのか優しい微笑みを向けてくれた。
その時、後ろから声が聞こえた。
それもかなり大きい声だった。
セシルが後ろをみると、メアリーが王子に怒られていた。
付き人の使用人がメアリーを護ろうとするが、王子は聞く耳を持とうとしない。
頑張ったメアリーに対して、あの態度は流石に可哀想だと思っていると。
「いい加減にしなさい! なんで貴方の為に頑張った使用人に対してそこまで言うのよ! 彼女最後泣いてたのよ! 見てなかったの!?」
「うるさい! 使用人はあくまで使用人だ! そなたには関係ない!」
「最低! 二度と私の前に姿を見せるな! セバスチャン、フレデリカ! 命令よ。コイツを国外まで連れていって!」
「「かしこまりました」」
暴れる王子をセバスチャンとフレデリカが外へと連れて行く。
この時、セシルは思った。
普段来客の前では優しい女王陛下でも怒る事もあるんだなと。
何はともあれこれで女王陛下は護られ、しばらくは平和な日常に戻れるそう思った。
「さて……私は見るからに怒っている女王陛下のご機嫌取りからですね」
そう呟くと、どうやら聞こえていたらしく。
「文句あるの?」
と言われてしまった。
「いえ」
「なら私の部屋で仕事を手伝いなさい」
「かしこまりました」
とりあえず、これで今回の一件は全て良しとする。
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