陰キャの俺は惚れられた女にしか告白できない
村人マット
第1話 入学式はひとりぼっちで
「お兄ちゃん。今日は入学式だね」
「ん?そうだな」
「ずるーい。私も入学式したーい」
今、俺が喋っているのは黒髪ツインテールの超かわいい、天使のような妹、時枝春歌である。
「春歌は去年やっただろう」
「またやりたいの!お友達いっぱい欲しいの!」
このように完全な陽キャだ。兄の俺とは真逆の存在である。俺は陽キャにはあまり良いイメージがないが、春歌だけはかわいすぎて嫌いになれない。いわゆるシスコンだ。
「今日はお兄ちゃん、友達いっぱい作れるね」
「そうだな。俺ぐらいであれば友達100人なんてあっという間に作れるな」
「嘘つき」
妹がボソッと呟くが聞かなかったことにする。
「ほら。馬鹿なこと言ってないで早く食べなさい。遅刻するよ」
「「はーい」」
母さんの言葉に2人とも急いで朝ごはんを食べる。入学式初日に遅刻は嫌すぎる。ヤンキーに絡まれるイメージしかない。
「いってきます」
俺は漫画でよく見るモテモテの高校生活に胸を躍らせる。そのために女の子に絶対モテると表紙に書いてあった本を買って、ネットでモテる方法と書いてあるサイトも網羅した。なので俺の高校生活はモテモテになるだろう!
そんな妄想を膨らませながら俺は家を出た。
「晴彦!おはよ!」
「おう。おはよう」
真向かいの家から黒髪ポニーテールの幼なじみ、真島凛が挨拶をくれる。凛とは家が近いため、幼稚園の時からずっと一緒で高校も家から近いと言う理由から一緒のところを受験した。なので、家を出る時間が被ってもしょうがないだろう。
「ねぇ。今日の入学式楽しみだねー」
「まっっったく楽しみじゃない!」
「えっ、なんで?」
陰キャの俺にとっては不安と緊張で吐きそうになる。不安とは何か。
「友達できるかわからないし、いじめられるかもしれないし、友達できるかわからないし」
「晴彦の目つきの悪さでいじめられることはないでしょ」
「2回言ったことは突っ込んでくれないのか……」
「つまらないから」
凛はいつも俺の心にグサっと突き刺さる言葉を投げかけてくる。陰キャはボケるのも命がけだ。陽キャのようにすべっても大丈夫な強靭なメンタルは持ち合わせていない。
「そういえば部活は決めたの?」
「まだ決めてない」
「え!決めてないの!?鳳高校って校則で部活に入らなきゃいけないんだよ?」
そうだ。これから通う鳳大附属高校は文武両道をモットーに部活は必ず入らなくてはいけないという校則がある。しかし文武両道と言っても文化部があるらしいので、それが唯一の救いだ。
「それは知ってるんだよ。どうしようかなー」
「文化部にすれば?運動音痴だし」
「運動音痴は余計だ。凛はテニス部に入るのか?」
「あったりまえじゃん!今更テニス部以外に入部する気はないよ。晴彦もテニス部入る?」
凛は小さい頃からテニスをやっていて、県大会でも優勝するほどの腕前だ。
「俺のテニスの下手さ知ってるだろ」
俺も小さい頃、凛に連れられてテニススクールの体験に行ったが、空振りばかりでつまらなかったので入会するのはやめた。
「早めに決めちゃいなよ。先生から目をつけられるよ」
「それはめんどくさいな。早めに決めるよ」
俺は凛と一緒に鳳高校までやってきた。入学式は体育館でやるということで、校舎には入らずそのまま体育館に行く。
体育館の入り口では座席表が配られていて俺は書いてある場所に座る。凛とは少し離れた所に座ることになったのでクラスは違うのだろう。
入学式が始まる時間まで暇だったので入り口で貰った座席表や部活などが書いてあるパンフレットに目を落とす。しばらくして凛の方を見ると既に隣の人と仲良く喋っていた。
(あいつ、もう隣の人と仲良くなってんじゃん)
俺の隣はというと……
「校長の話なんてどうでもいいだろ。なげーんだよ」
バリバリのヤンキーだった。
鳳高校ってそれなりに偏差値が高い高校だぞ。なんでこんなヤンキーがいるんだよ。怖すぎだろ。てか、この高校は金髪ありなのかよ!
入学式が始まると校長の長い長い話が始まった。周りはみんな真面目で話し声が全く聞こえない。1人を除いては。
隣のヤンキーは俺にめちゃくちゃ話しかけてきた。中学の時はタイマンに負けたことがないだとか、ボクシングをやっていることとか。俺は恨みを買うのは避けたかったので適当に相槌をうっていた。
入学式はまだまだ長い。
流石にヤンキーも痺れを切らす。
「なぁ。つまんねーから抜け出そうぜ」
ヤンキーがそう言った瞬間、端にいる先生達が一斉にこちらを見た。勘弁してくよ。
「そうっすね。いや、抜け出すのはちょっと……」
「なんだよ。つまんねーな」
つまんねーってなんだよ。入学式はじっと座ってるものなんだよ。つまんねーもクソもあるか!
実際にはそんなこと言えないので心の中で叫ぶ。
こうしてヤンキーにビビりながらも無事?入学式は終えたのであった。
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