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霊土

霊土れいど


 生物が宿す霊力。それを吸った霊土れいど(土)にせい(器を持たぬ魂)が宿り精霊と成る。


 精霊は自我を持ち、吸った霊力の宿主の僕である。


 人々は霊土を捏ねて、自身の霊力を吸わせ、精霊が生まれる時を待つ。


 生まれた精霊は人々の社会的な役割を決定づける。


 〇武の才を持つ精霊の主は武人に。

 〇癒の才を持つ精霊の主は医者に。

 〇農の才を持つ精霊の主は農家に。

 〇鍛の才を持つ精霊の主は鍛冶屋に。

 〇膳の才を持つ精霊の主は料理人に。





 精霊の身体は個体差が激しく、等しい個体は存在しない。

 破損した精霊の身体は霊土を付け再生する。


 精霊は「宿主の霊」と「精の魂」と「霊土から成った肉体」で構成されている。

 「精の魂」は「好む霊力を吸った霊土」に宿る。その霊土から肉体を作る。それが精霊。


 精霊の姿は持つ才により傾向が存在する。

 〇武の才なら武具。

 〇癒の才なら医療器具。

 〇農の才なら農具。

 〇鍛の才なら鍛冶道具。

 〇膳の才なら調理器具。

 など。


 精霊が助力する相手は己が主だけ。

 故に主以外は精霊を使いこなせない。「宝の持ち腐れ」だ。



 人が生んだ精霊の力は微弱。

 その力では、大地を揺らす事も、強風を起こす事も、難しい。

 それでも精霊たちは人々から頼られる。

 それは、

 〇鍬の様な精霊を何度も振り下ろし、耕された肥沃土から得られる恵みを知っているからだ。

 〇鍋の様な精霊で煮込まれた汁物の味を知っているからだ。

 〇槍の様な精霊で貫かれた金属の板を目撃したからだ。

 〇棒の様な精霊で擂られた粉薬を飲み元気を取り戻した経験があるからだ。

 〇熱しされた金属が槌の様な精霊で幾度も叩かれた末、切れ味の良い包丁が作られている事を知っているからだ。




 霊土を用いる動物。


 霊土に自身の霊力を吸い込ませ、精霊を利用する動物は人間以外にも存在する。


 霊土を用いる鼠は、転がり体表へ纏わり付かせた霊土が精霊になり、その力を借りて火を放つ「火鼠」や、放電する「雷鼠」などが確認されている。

 火鼠や雷鼠は、纏う精霊が異なる同種という説が一般的だ。

 その説では「精霊が違う理由は鼠の霊力が異なっているからだ」と語られている。

 人間に霊力の違いがある様に鼠にも霊力の個体差があり得るという説得力のある理屈だが、生物が生み出す霊力を判別する方法は精霊を観察する間接的な方法しか確立されていない。

 故になぜ「同種の生物でありながら霊力の質が異なるのか」を解明した者は未だに居ない。


 水質が綺麗な環境でしか生きられない魚が暮らす水域の水が清らかな理由は「魚の精霊が水を浄化しているからではないか?」と考察した学者がある実験を行った。

 それは「汚水の中にその魚を入れ、水質が改善するのか?」と言う内容だ。

 実験の結果、水質の向上が確認された。

 故に、その魚の精霊は浄化の力を持っている事が証明された。

 人々は、公害などが原因で生まれた汚染水域にその魚が放流された。



 



 「霊力の質、霊質れいしつには個体差がある」と言ったが、種族ごとに傾向は存在する事が確認されている。

 先ほど例に出した鼠は、火か雷が殆どで、癒や膳などの精霊は確認されていない。

 鼠は基本的に二種の霊力だが、人間は数え切れないほど膨大な種類があると考えられている。

 そして、霊力の質は遺伝的な要因があると考えられている。

 癒の精霊を持つ親の子は癒の精霊を持つ場合が多い。――と言っても、必ずではない。

 基本的に子は二人の親から生まれる。二人とも同じ霊質なら、殆ど、霊質の子供が生まれる可能性は高いが、異なる霊質なら、何方かに偏る場合が多い。

 例外的な存在として、祖父や曾祖母などの霊質が現れる事もあり、必ず親の霊質が継承されるとは限らない事から、子に対する過度な期待はすべきではないと警鐘を鳴らす学者は多い。


 そのような警鐘の裏には、後継者を求める親の過度な期待が子供たちを差別し、虐待に繋がる実例があるからだ。


 「精霊で社会的地位を得た人々が、その地位や権威を維持する為に、子供へ抱く過度な期待は、子供の自由を奪う」と語り子供の人権を訴える人々が居ても、優れた親の子へ向けられる人々の期待は大差ない。


 家柄を重く見る人々は、結婚相手を霊質で選ぶことが殆どであり、恋愛結婚をする人の多くは、社会的な価値が低い霊質の人々が殆どである。




 精とは器を持たぬ魂。器とは肉体に限らない魂の拠り所。

 「物と交わらぬ魂。それらを繋ぐ霊力こそ、精霊、否、生物の実態だ」そう語る学者は、その証拠を追い求め、研究に没頭する。

 精から魂と霊の関係を紐解く研究は生命の神秘を解き明かすのだろうか?





 精と物を結び付ける霊力。その質は差異があり、適合しなければ、それらを交わらす事が無い。

 故に、適した霊力なく、器を得られぬ精が居ても、不思議ではない。


 未知の霊力から生まれる精霊。それを恐れる人々は精霊の厄災を知っている。


 霊力を内包した水、霊水れいすいの結晶、霊結晶れいけっしょう

 純度の高い霊結晶は清らかな水の様に透き通っている。それは、霊力に色が無いからだ。

 霊力を吸いやすい水は霊水と呼ばれている。

 霊水を作る手段を人々はしらない。

 故に霊結晶も人為的に作れない。


 人々は霊結晶に多大な期待と恐怖を抱いている。


 炎竜の伝承。それが厄災を今に伝える物語。

 霊土に埋まる霊結晶。その結晶から霊力が吸った霊土は精霊を生んだ。

 その精霊の名は、炎竜えんりゅう

 その巨体を浮かせた巨大な翼は青空を覆い、空から降り注がれた火は地上に炎の海を生んだ。

 霊結晶。その霊力が尽き、その身体が崩壊するまで、人々は洞穴に籠り耐え凌いだ。


 この伝承は人外が生んだ精霊の恐怖を示す。


 人の霊力から生まれた精霊は、その身体を維持する為に、主人から好まれようと行動する。

 それは、主の命を聞くだけであり「人だから」ではない。

 故に、人が精霊を犯罪に用いる事が起っている。


 人を害する精霊は人外に限らないのだ。


 霊水や霊結晶はその見た目から、霊質を知る事は叶わない。

 故に、人々は霊結晶を霊土に近づける事を禁忌としている。

 厄災を起こさぬために。


 それでも、人が起こし得ぬ奇跡を求めて、霊結晶から精霊を生み出そうと試みる者は現れる。

 時にそれは益を、時にそれは災いを、もたらす。



 伝承「雨が生む精霊」

 霊力の宿る霊水が雨となり降り注ぐ。

 大地を成す霊土へ染み込み精霊の器成る。

 主なき精霊は霊力を求め、大地を、空を、海を、彷徨う。

 時にそれは、人々の営みを壊す厄と成る。



 全ての精霊が霊力を求め、暴れまわるとは限らない。

 精霊により、その有り様は様々であり、霊力の終わりを、寿命が来たと捉える場合もある。

 在り続けたい。それが何よりも強いなら、精霊は何をしてでも、生き続けようと足掻くのだろうか?




【精霊の例】



 精霊、1

 〇比較の才を持つ精霊。

 この精霊は眼鏡の様な姿をしている。

 精霊が一致するか、しないか、を色で教えてくれる。同じ色で示された部分は一致している。

 精霊が同じ物を色で示すだけだから、特定の存在が常に同じ色で表される訳では無い。

 この精霊の主な用途は、成分の分析。

 その一例「精霊を介して有無を判別したい成分濃度が高い物を見た後、標的を見る。同じ色なら成分を含み、異なる色なら成分を含まない、と判断できる」。



 精霊、2

 〇熟成の才を持つ精霊。

 この精霊は容器の様な姿をしている。

 精霊の中に入れた物は、通常よりも短期間で熟成され、腐りにくい。

 菌などの繁殖や殺菌を精霊が制御している事から、精霊の機嫌を損ねたり、精霊の力不足が理由で思うような結果を得られない場合がある。

 食材の加工や、肥料の製造に用いられる。

 「内容量の多さ」「熟成する速度」「品質」などでこの精霊の優劣は評価される。



 精霊、3

 〇煮込み調理の才を持つ精霊。

 この精霊は鍋の様な姿をしている。

 精霊を用いて作られた料理は、それ以外に対して美味しくなり、栄養価も高くなる。

 精の個体差や霊力の程度によっては、解毒作用もあり、食あたりの危険性が低下する場合がある。

 最上位の精霊は「あらゆるものを美味しく仕上げる」と語り継がれているが、実在を疑われる程、希少だ。



 精霊、4

 〇ろ過の才を持つ精霊。

 この精霊は布の様な姿をしている。

 精霊を通った水はろ過され、安全に飲むことが出来る。

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