【第二章 事件と猫】01

「それで生姫。青春ぽい事もやり終えてお開きムードになりかけたところで申し訳ないんだがこれからどうやってそいつを捕まえるんだ?」

 早速動き出そうと僕は生姫に尋ねるが

「いや、どうやってって・・・・・・どうやるんだ?」

 ・・・・・・

 おい。

「ちょっと待て、生姫はそいつについての見当がついているんじゃないのか?」

「そんなわけないだろ、僕だってちょっと力を持ってるだけの平凡な人間だ。そう言った事はわからないよ」

 ・・・・・・

 はあ?

「じゃあなんだ?僕らは一から手探りでそいつを見つけなきゃいけないってのか?」

 こくりと堂々と頷いてから生姫は堂々と話し始めた。

「僕が持っている欲望を引きだす者についての情報は三つだけだ!どうだ凄いだろ!」

「たったの三つ?!どこぞのメガネかけた小学生でももっと情報持ってるぞ!」

「うっさいうっさい!あんなチート小学生(仮)と比較するな~~!」

「大丈夫だよせきちゃん。アレだよ、よく推理小説にいる情報もった役みたいでカッコいいから、ね!」

「そいつ大体中盤で死ぬやん!二人していじめに掛かるな~~!」

 いじけそうになる生姫を霧縫さんがあやし、励ましばがらどうにかその三つの情報を聞かせてくれる事になった。

「ぐすん、一つ目の情報は大城が住むこの都市、霧結市に居るという事」

「さっきも聞いたな、てかこれでいっ――」

「これ以上せきちゃんを虐めないで!」

 僕はただ思ったことを言おうとしただけなのに。

「二つ目の情報はそいつは月に一度だけ人の欲望を引き出す事」

「――」

 言いたい、けど堪えて――

「三つ目の情報は僕はそいつの性別や名前といった情報を一切持ち合わせていないという事」

「――」

 おい、もう我慢できねえ!

「ちょ、大城君!」

「ざっと言ってお前、何も情報持ち合わせてねえじゃねえか!」

「あちゃ~」

 ぐすん、ぐすん。

「そうだよ!正直言って何も情報なんか無いよ!そもそも君の居場所が僕には分らなかったから新聞やネットでの情報でしか得られないんだよ!もっと早く引っ越して来いよこののろま!」

「言いやがった!逆ギレか?お?なら正々堂々と情報なんてさっき全部さらけ出したって言えばよかったじゃねえか、聞いて損した。というか本当にお前神の使いかよ!どう考えたってただの人の使いじゃねえか」

「それじゃあ僕はただのパシリじゃないか!しっかりと神の使いだよ!ちゃんと神様から少しだけ力分けてもらったんだからね!」

「あぁ?そんなのあるなら言ってみろよほら!」

 あまりの生姫の態度と情報の少なさに苛立ちを隠しきれないでいた僕が挑発的にそう言うと

「聞いて驚け!僕は欲望を生み出す者に洗脳された者から一つだけ何でも無理やり聞くことが出来るし欲望を生みだす者からその能力を奪い取る事だって出来るんだぞ!」

 ・・・・・・

「なんだよ黙り込んで」

「いや、驚きはしたがそれって今ここで立証できなくね?」

「右に同じくです」

「あ・・・・・・」

 僕も一応は生姫の言う事を真に受けて聞くようにはしているがこれに関しては立証できない限り何とも言えないぞ。

 生姫もそれを自覚したのかしょんぼりとしながら

「あ、じゃあ、今は一般人でいいですよ~だ」

 といじけてしまった。  

「ま、まあ私たちが一から頑張って欲望さんを探せばいいだけだし大丈夫だよ!」

「「欲望さん?」」

 なんとも拍子抜けする言葉とネーミングセンスに僕と生姫は霧縫さんの方を振り向く。

「夜靄、欲望さんて?」

 生姫が尋ねると

「その人の名前が分からないなら分かりやすくこれで良いかなって――」

「ま、まあ夜靄が良いならそれでいいか」

「あ、あぁ」

 なんともテレビのマスコットキャラでいそうな名前に戸惑いながらも全会一致で欲望を引き出す者の名前が一時的に欲望さんに変わる事になった。

 少々本題からずれ始めてきたのでここいらで修正しようと話を切り出す。

「えっと、本題に戻すが生姫の示した三つの情報で僕らは欲望さんを見つけると・・・・・・無理じゃね?」

 人口五十万人弱居るこの霧結市に居るたった一人の名前も分からない欲望さんを手探りで見つけるなんて不可能だろ。

「情報だけで言えば無理だ。だけどさっき僕が言った洗脳状態にある奴から欲望さんの情報を引き出せばいいんだよ」

「マジで言ってんのか、どんだけ長い道のりになると思ってるんだよ・・・・・・」

 池の中からビー玉一つを見つける様な気の遠くなる事をやれと平然と生姫は口にした。

 それじゃあ時間がかかってしょうがない、今までと何も変わらない日常を過ごすのと同義だ。

「長い道のりだ。でもそうしないと前には進めないのも確かだ。どれだけ長くてもゴールがあれば案外どうにかなるもんだぜ、前みたいに見過ごすだけは嫌なんだろ?事件に遭遇するのは懲り懲りなんだろ?なら足を動かせ、生涯死体を見続けるか生涯の半生を死体を見続けるて過ごすかの違いだ。それに案外長くもないかも知れない、僕の問い方一つで十歩でも二十歩でも欲望さんに近づけるんだからな」

「それはそうだけど・・・・・・」

「せきの言う通りです。足踏みしかしてこなかったんだったらなおの事前へ進む努力をしないと、足踏みが出来たら段階を上げないと後悔しますよ」

 二人してどうしてそこまで積極的なんだ。

 そりゃあ決意したのは僕自身だ。なら行動するのも僕なんだろう、飽き飽きする程に足踏みをしていたのなら飽き飽きするまで前へ進むべきなんだろう。

「分かったよ。けど生姫、洗脳されたやつを捕まえるって事は僕の両親よりも先に犯人を突き止めるって事になるよな、そんなの可能だと思うのか?それとも何か?警察に捕まっても面会で聞けばどうにかなるのか?」

 了承したはいいがあまりにも不安定な土台をどうにかして固めておきたい僕は生姫にそう尋ねると

「面会は無理だ。一度洗脳されたやつは全員が欲望の枷を外された状態だから欲望が満たされないのなら自殺でもなんでもするだろうから僕らに限られたチャンスは今現在の犯人が野放しにされてるこの状況しかない」

「それはなかなか物騒だね。せきちゃんでは治せないの?」

 一度でも洗脳されれば自殺するか他者を傷つけるしかない状況に無理矢理陥ってしまう彼らを助ける事はできないかと霧縫さんが問うも無慈悲にも生姫は首を横に振る。

「洗脳されたらほぼ終わりだ。僕には治せない」

「ほぼってなんだよ?少しは治せる可能性があるのか?」

 曖昧な言葉を言及すると

「あると思う。欲望を変化させるか欲望さんを捕まえて力を奪えばあるいわ治せるかもね」

「せきちゃん。詳しく説明してもらえる?」

「いいよ、欲望を変化させるってのは言わば人を殺したいって思ってる相手に対して他の、例えば食べ物を食べたいっていう食欲に変えることが出来ればそいつはそれ以降人を殺す事は無くなる。けどこれはあくまで一時的なものに過ぎない、本格的に治したいなら二つ目の欲望さんから能力を奪い取る事が確実だろう。一度欲望さんの手から能力が離れれば洗脳してきた人達も元に戻ると思う」

「結論は全て欲望さんを見つけ出せに集まるって事ね」

 無駄足は許されない、治したければゴールしろ、それは至極単純でありながら至極厄介な結論だった。

「まあ、それしかないとして、次の問題だが洗脳されたやつが引き起こした事件についてのあてはあるのか?」

「あるよ」

 確信を持ってそう言い切り生姫はその事件を答えた。

「今月君が遭遇した事件だ」

「・・・・・・鼠のマスクのやつか」

 薄々というか、何となくは気付いてはいたけどやっぱり殺人だったのか。

「それじゃあ私たちは鼠マスクの犯人を警察よりも早く見つければ良いんだね!」

 ワクワクといった感じで霧縫さんは言った。

「ほんと、霧縫さんは元気が良いね、僕は自身が無いよ」

 実質両親と対峙していると思うと胃がキリキリしてくる。

 本当に警察よりも早く捕まえる事が出来るのだろうか?

「僕らに課せられた制限時間は大体一週間だろうね、それ以上を超えると確実に警察が犯人を捕まえるだろうしな」

「えっ!そんなに早いの?!」

「無理難題がすぎるぞ・・・・・・」

 さっきまでの盛り上がりは絶望を前に一気に冷めてしまっていた。

 一週間。つまり中間試験前には事を片付けなければならないと言う事。

 ただの学生三人で潜伏している見知らぬ欲望に駆られた人殺しを見つけることが出来るのだろうか。

「こちらが切れるカードはあるぞ」

 そんな中でも生姫はいつも通りヘラヘラと笑っいながら言った。

「なんだよそのカードって?」

「簡単な事だ。大城はまた事件に遭遇するからそのタイミングが僕らの勝機って事だよ」

 え?

「僕が事件に遭遇するのは一度だけなんじゃ――」

 今まで通りならその筈なのだが?

「それは奇跡に近いことだったんだ。今までは一回の事件で君の両親達が解決してきた。だから一回でおさまっていただけなんだ。欲望さんに欲望を引き出された者はその後欲望を抑制する事ができない、一回の事件で捕まらなかった場合は欲望のままに動き続けて連続して殺人が起こるだけだ。もしも今回の犯人がお前の両親の手から逃れて逃げているのなら必ず次がある」

「それってこの事件での犠牲者をもう一人出せって事だろ、それに今まで一人で終わらせてきたんだ。なら今回も終わらせる可能性が高いに決まってる」

 生姫は軽々と口にした。被害者を増やせと言うことを、それがどんなに重い罪なのか分かっていてだ。

「大城、僕は出せって言っているんじゃない、出るって言っているんだ。今回の事件、概要だけ聞いて判断してみると確実に犠牲者が増えるんだよ。今までの欲望のままの殺人とは違って今回は理性を兼ね合わせている殺人だ。警察や両親も一筋縄ではいかないだろうし一人だけ可笑しな動きをしてるのが目につくんだよ。欲望を解放された者は言わば薬物中毒者と同じで一定の期間を超えると衝動に駆られて再度動き出す。それにより起こるこれからの事件が僕らが唯一、犯人に近づけるタイミングなんだ。四の五の言える立場じゃない、使えるものは使わないとこっちが欲望さんに喰われるぞ」

 圧倒される。

 生姫が吐く言葉の連鎖に自身の身がすくむ。

「僕は死者を目にしたくないから生姫に協力する事にしたんだぞ――」

 逃げようか、前と同じに戻るだけだ。

 見たくないものから目を逸らしていけばいい、ただそれだけでも充分に生きていける。

 だけど生姫は離してはくれなかった。それどころか逃がさないといった目つきと声音で僕を言葉で突き刺してくる。

「協力した瞬間から死者が目の前から消えるなんて事を僕は大城に言った覚えはない」

「それは・・・・・・」

 言葉が出ない、生姫の言う通りだ。協力したからって一瞬にして死者が目の前から消えるなんて夢物語はないんだ。どれだけ足掻いたところで僕の目の前に死者は死体は現れる。

「少しでも死者を死体を見たくないなら今後君の前に現れる死者を活用しろ、でなきゃ君は未来永劫、数多もの死者を見続ける事になるぞ」

 その言葉は悪魔に等しいものがあった。

 人間としての価値観を捨て、自分の価値観で動き続けろという。

「現状に足掻きたいなら使えるモノを使え、現状維持が最も愚かだって事はお前だって身に染みているんだろ、なあ大城?」

「大城君――」

 霧縫さんと生姫がこちらを見て答えを待っていた。

 本当になんなんだよこいつら人の気も知らないで、たった二日だぞ?そんなんで分かった気でいるんじゃねえよ。

 なんで女二人に諭されなきゃいけないんだよ。

「あぁあもう!分かったよ、遭遇したらどうすればいい?!」

 二人の勢いに押されるまま僕は言ってしまった。

 言葉にした以上もう戻れない、後はどう転んでも前へ進むしかないんだ。

 なら、思う存分、どんな無茶でも無謀でも聞いてやる。

「よし!そんじゃあ~~これを遭遇した時に開いてその通りに行動してくれ」

 ガッツポーズをしてから生姫は筆箱からシャーペンを取り出し、机に置かれたA4の白紙を手にして何かを箇条書きしたのちにその紙を四つ折りにして僕に渡してきた。

「今じゃダメなのか?」

「今開いたらお前絶対その通りに動かないもん、現場で頭が回らないときに見るからいいんだよ」

 どんな事を書いてんだよ。

「今見たら駄目だよ~~」

 念押しにもう一度生姫は僕に言ってくる。

「とんでもない内容だったら殴ってやるからな――」

「え・・・・・・マジ?ちょ――」

 そう言ってから僕はズボンのポケットに渡された紙を大人しくしまった。

「そ、それじゃあ、時間も良い具合だし帰るとしようか」

 冷汗をダラダラと流しながら生姫はそう言って席を立つ。

「本当に何を書いたんだよこいつ」

 僕と霧縫さんも席を立ち、部屋の電気を消してから生姫の後に続いて部室を出た。

「うわ!暗いね」

 スマホで時刻を見てみると七時に差し掛かっていた。

 随分と長く話し込んだもんだ。

 二人よりも先を行き、ママチャリを持って二人の待つ正門前に向かう。

「大城は自転車登校だっけか?――ってママチャリだぷぷぷ!」

 自転車を見た生姫は隠すことなくゲラゲラと笑ってきた。

 確かに所々錆びついていて今にも壊れそうな自転車であるから笑われてもしょうがないかもしれないが嫌味も込めて口にする。

「まあ、どっかの誰かさんが自転車のタイヤパンクさせやがったからな~~」

「だ、誰だろうね~悪い奴も居たもんだ」

「お前だよ霧縫さん」

「ひっ!ごめんなさい――」

 すっとぼけるというなら今すぐ修理費を請求してやろうと思ったが一応罪悪感があるようだから見逃しておくことにした。

「それじゃあ二人ともまた明日」

 ギリギリと錆たチェーンがけたたましい音を鳴らしながら自転車を走らせた。

 学校へ行くときは気が付かなかったが錆びついてペダルが重く、漕ぐためにチェーンが悲鳴を上げていて相当近所迷惑な自転車だと走らせながら思っていた。

「そう言えば二人とも今日は帰ってこないんだった」

 母さんと父さんに言及したい事は沢山あるけど仕事の邪魔はできないし、休みの日にでも聞いてみるかとするか。

 ん?

 自転車を走らせること十分。

 自宅に行くには二つほど大きな橋を渡らなきゃいけなく、現在一つ目の橋を渡り終えて二つ目の車や人通りがほとんどない橋に差し掛かったところだった。

「・・・・・・何だ?」

 暗がりの中でも分かるほどに太い縄が橋の中央にきつく縛ってあった。

 自転車を縄の縛ってある手すり側に停めて近づいてみる。

「下に繋がってるな」

 何かぶら下げているのだろうか?

 手すりから少し顔を出すも街灯が無く、下は暗くて何も見えない。

 スマホを取り出して照明機能をオンにしてからもう一度縄を辿って何が吊るされているのかを確かめてみる。

 黒と白の塗料で塗りたくられたこれは・・・・・・マスクだろうか?

 そんな頭部より下、時折靡くスカート。

「ふざけやがって!くそ‼」 

 すぐさま縄を自身へ手繰り寄せ始める。

 最悪な事に生姫の見立ては当たっていた。

 一週間以内に事件発生が発生すると生姫は言っていたがその言葉から一日にも満たないうちに被害者が出た。

 最悪なことに、この太い縄で吊るされていたのはマスクを被った人だった。

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