【始まり始まり】09

 意味が分からん。どういうこと?ドッキリ?何それ絶対クソマズイもんだろ!

「やはや、実に面白かったですよ大城君。一週間前から仕掛けた甲斐がありましたよ!」

 一週間前?仕掛ける?ダメだ処理が追いつかない。

「包丁は、僕は刺された筈じゃ・・・・・・」

 腹部をさすりながら包丁が刺さっていないか確認するが血どころか服には傷一つない綺麗なままだった。

「あぁ包丁?特注だよ!凄いでしょ!研いだ後の綺麗な包丁に見えるだけでほら、何かに触れた状態で押し込むと刃だけが隠れるだけのマジックアイテムだよ」

 はへ?

「じゃあ死体は!」

「あぁ、木下さん!出てきていいですよー」

 霧縫さんの声で金髪の男性が電柱の裏から出てきた。

「ちーす!ご紹介に預かった木下です!俳優目指してる大学生です!よろしく!そんじゃ用も済んだみたいなんで帰りますね」

「ありがとうね、お金はちゃんと口座に入金しといたから」

 自己紹介をした後に彼はそそくさと去ってしまい、その後ろ姿に生々しい言葉を霧縫さんは口にしながら手を振って見送った。

 あの顔、体型、確かに昨日刺されていた男性だったな・・・・・・

「ならお爺さんは!」

「あの人もシニア俳優だよ」

「血は!」

「あれ血糊ね、それと飛び散った血糊に関してはブルーシートで覆ってそのまま車に乗せたり一通り君たちが到着する前に拭き取ったから、それにしてもなんだね、君って本当に馬鹿だね・・・・・・」

 クソ!返す言葉が見当たらない!

「じゃあ警察官は!!」

「昨日の為に事前に伝えて協力してもらった」

 ・・・・・・

「じゃあ父さんと母さんは・・・・・・」

「お母様の方は今頃躍起になって私を犯人に仕立て上げようとしてるだろうね、あの人、君のこととなると目の前見えなくなるのね・・・・・・・後で君から嘘だって説明してくれると助かるよ、お父様の方は私に依頼してきた張本人」

「ふざ」

「うん?」

「ふざけんな!何だよそれ!みんなで僕を騙していたのか!てか騙すにしても限度があるだろ!なんだよこれドラマの撮影かよ!」

 霧縫の放つ真相の数々に頭を痛め、自分が遊ばれていたと知って頂点に達した憤りが言葉となって吐き出されていった。

「そうかっかするなよ大城君。からかったのは悪いと思っているけど気づかない君も悪いんだよ」

「うぐっ!それは・・・・・・」

 やれやれといった顔でこちらを見ながら一連の行為の種明かしをはじめた。

「血糊でのもそうだけど君は警察と一緒に現場にいたのに臭いに気が付かなかったんですか?」

「臭い?」

「血なら特有の臭いがその周囲にこべりついている筈だろ?」

 確かにあの時血の臭いなんてしなかったし、臭いと言えばお爺さんの近くに寄った時の吐しゃ物の最悪な臭いをかいでしまったぐらいだった。

「次に言葉のおかしさ」

「言葉」

「そう言葉。せきちゃんが言ってたでしょ”設定”って。それとお父さんの事件(仮)」

 設定・・・・・・事件(仮)・・・・・・

「この物語は全てが最初から設定されていた事で台本はこれね、それと電話越しに聞いていたけど君の父親は台本に書かれていた事を素直に読んでいた。いや、読んであげたと言った方が良いかな。息子がこの事件(仮)を物語だと認識してくれたらいいなぁという親なりの優しさからでた言葉だったんでしょうけど貴方はそれに気づきもしないしその上全て信じてしまった。はっきり言って馬鹿ですよ」

「あのクソ親父め‼・・・・・・ってああ!」

 ”赤いファイルに挟まった”大城 白野ドッキリ作戦と中の表紙に書かれた台本を霧縫さんは僕に渡してきた。

「それを持って来いと言われたときも中身を見ずに持っていくなんて貴方はアホウドリですか、チラッと中身ぐらい見たくならないんですか、真面目君にも程がありますよ!あぁ、お父様の助け舟を泥船に変えてしまうその性格が憎らしい」

「言いたい放題言いやがって・・・・・・その通りだよ!馬鹿だよ悪いか!」

 ファイルを地面に叩きつけて霧縫さんの言葉に逆ギレしながら自分の真面目さと彼女の見下すようにして吐かれる僕の欠点の数々に一人で腹をたてて背を向けた。

「逆ギレかっちょ悪いですよ!貴方が数多のガバガバ伏線に気が付かないのが悪いんです。推理小説でも読んで猛省してください」

「うっせ!主犯者に言われたかねえわ!」

 聞く耳もたずといった様子を貫き通す僕に対して霧縫さんはくるりと僕の目の前に身体を動かしてから

「貴方は馬鹿です大馬鹿です。これじゃあお父様に顔向けできませんねやれやれ」

 といちいち癪に障る言葉を前に起きながらやれやれといった様子で気になっていた言葉を口にした。

「そういや父さんが張本人ってのはいったいどういう事なんだ?」

 霧縫さんに頼むなんていったいどういう風の吹き回しかと思いながらそう尋ねるとあっさりと霧縫は答えた。

「一週間前、私は学校で君のお父様と会いました。どうやらお父様は私の事を知っていたらしく声を掛けてきたので話を聞いてみると今回の一連の行為を貴方にしてくれとお願いされた訳です。そしてその事を聞いた私は「何それ面白そう!」的な感じで二つ返事で君のお父様の依頼を受けて今に至る訳です。これが今回の事件(仮)の真相であり君のお父様がこの事件(仮)を仕掛けた張本人である理由でした。はい拍手!」

「・・・・・・え、めっちゃ軽い・・・・・・何その軽さ、ちょっとコンビニ寄って来る感覚で僕を騙したって事?」

「そうですよ?なにか問題でも?」

「問題もなにも・・・・・・あぁ、もういいや、なんか言う気が失せた」

 こんな事を言ってもまた同じことになるだけだ。

 あきれ果てながら僕がそう言うと霧縫さんは身を翻してから

「まあこれで依頼も遂行できたわけですし私の仕事はこれまでです。楽しかったですよ大城君。それじゃあこれで!」

 霧縫さんはそう言って片手を上げて去ろうとする。

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