《恋愛、SF》わたしはキカイ

 私はマリ。


 私は機械。人間の男性に抱かれる為の機械。

 彼らはお金を払って私との時間を買いに来る。毎日、何人も。


「佐藤さん、また来てくれて嬉しいわ」

 お客さんに挨拶をする私。ここの『佐藤さん』は場合によって『鈴木さん』だったり『高橋さん』だったり『山田さん』だったり『武者小路さん』だったりする。

 その記号に意味は無い。


 彼らは私の体に慰安を求める。私は彼らを慰める。多少の違いはあれど、この流れはいつも変わらない。

 行為の前でも後でもお客さんとの会話がある。仕事の愚痴や家庭の愚痴がほとんどだ。


 機械の私には彼らの言っている意味が分からない。分からないが『どう返せば良いのか』は入力されている。私はそれに倣ってお客さんに答える。

 彼らは一様に「マリは良い子だな」とか「マリだけは分かってくれる」等と言うが、私は決められたルーティンに従って動いているだけだ。


 私は機械なのだから。


 ある日、『三木さん』というお客さんの相手をした。彼は私を気にいってくれたらしく、その後何度も私を指名してくれた。


「俺、本気でマリさんが好きになったんだ。全財産を使ってでもマリさんを此処から出してあげたい」


 三木さんにそう言われた時も、私には何を言っているのか理解できなかった。プログラムされた受け答え一覧にも適当な返答は無かった。

 返答できず、黙ったまま俯く私の手を取って三木さんは


「俺、マリさんがロボットでも娼婦でも関係無い。純粋にマリさんが好きなんだよ」


 そう言ってくれた。


 私は機械。機械なのに… その時に私の中で何かが生まれた。


 それから何度も三木さんはお店に来て私を抱いていった。私の中では数ある〇〇さんの1人ではなくて、『三木さん』という1人の男性として認識されていた。


 彼の求める私になりたい。彼の求める事をしてあげたい。何でもしてあげる。だから… だからいつでも私に会いに来て欲しい。


 三木さんのおかげで私は変われた。私は機械だ。しかし、機械でも『嬉しい』とか『幸せ』だとかを感じる事が出来るのだ。


 三木さんは私をこの店から出して『結婚』したいと言ってくれた。

 私も彼と『結婚』したいと思う。彼とずっと一緒に居たいと思う。


『三木さんだけの私』になりたい。もう他の男などどうでも良い。

 三木さんだけに愛されれば私は幸せなのだから……。





「おい、またマリの客から苦情が出たぞ」


「ああ、最近サービスの質が落ちてるって言ってたな」


「あの三木とかいう常連さんに特化してて、他の男の好みに対応できてねぇんだよ」


「たまーにあるんだよな、機械のくせに客に入れあげておかしくなっちまうお嬢がさ」


「仕方ない、マリは来週にでもメーカーに送ってフォーマットしてもらうか…」

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