第78話 駆逐戦車マルズバーン

「東ゲートまで12キロ、弾道軌道で飛びます」

「了解」


 背の推進器バーニアを吹かしてマーズイーグルがジャンプする。遠く前方に東ゲートを視認した。第二ゲートと呼ばれている地上側のゲートなのだが、そこが派手に爆発した。地下の誘導路から飛び出て来たのはトレーラのキャビン部分である牽引車トラクタ。後部のトレーラーは既に切り離している。その後ろから来たのが駆逐戦車マルズバーンだ。


 長砲身の150ミリ滑腔砲を装備。砲の反動が強いため砲塔はなく、砲身は車体の前面中央部より突き出ている。通常は無限軌道キャタピラで走行するが、高機動時は車体を浮かせたホバー走行に移行する。最大で時速250キロ出せる化け物だ。


「クリス。コントロールを渡せ。トラクタの前に出る」

「了解、コントロールはパイロットへ移譲。ヘマしたらお仕置きしますよ」

「わかってる」


 クリス嬢のご機嫌は斜めだ。彼女のお仕置きがどんなものなのか興味深いのだが、ここは真面目にやらなければいけない。


 47ミリの射撃でトラクタの前方を射撃し牽制する。一旦着地した俺は推進器バーニアを吹かして再びジャンプした。そしてやや速度を落としたトラクタの前方に着地した。


 眼前にトラクタ。その向こうに駆逐戦車マルズバーンがいる。即、戦闘に突入するかと思ったが全く動こうとはしない。唐突にオープンチャンネルで通信が入った。


「俺は戦う気なんてねえよ。マルズバーンの後ろを見な」


 トラクタの運転席に男が座っている。顔面はガスマスクで見えないが、親指で後方を指していた。


 駆逐戦車マルズバーンのすぐ後ろにミニバンがいた。どうやらワイヤーで牽引していたようだ。


「よく聞け。あの車両には四人乗っている。自力じゃ動けねえしドアはロックしてある。マルズバーンの機銃はあの車両を狙っている。おっと、マルズバーンを破壊するなよ。中に子供を乗せているぞ」

「何がしたいんだ?」

「逃げたいだけだよ。しつこい奴らに追われててな。アケローンに入っても撒けなかった」

「だから何人も殺したのか?」

「待て待て。殺しは俺達じゃねえよ」


 ノエルの情報と合致する。こいつらはマリネリスを襲ったテロリストだが、アケローンでの殺人には関与していない。


「6時間おとなしくしてろ。誰も追って来るんじゃねえぞ。マルズバーンをリモートで爆破するからな」


 トラクタは俺を迂回しつつ走り始めた。


「6時間後にマルズバーンを投降させる。心配するな。お前らが追いかけてこなけりゃ誰も死なない」


 いきなりやらかしちまった。これじゃあクリスにお仕置きされてしまう……。

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