そしてあの子に恋をした

かんた

第1話 入学式

「早く起きろって言ってるだろ、このバカ修哉!」


 中学時代が終わり、高校前の春休みが終わった日の朝、つまり高校の入学式の朝に、うるさい声と頭への衝撃で俺、永井修哉ながいしゅうやは起こされた。


「っ痛ぅ……。フライパンで叩くなよ、頭ヘコむだろ…てかなんでフライパンなんか持ってんだよ……。」


 目を覚ました俺のそばに立っていたのは、何故かフライパンを振り上げている、双子の姉の永井美華ながいみかだった。


「これ? アンタを起こすのにわざわざ持ってきたのよ」


「なるほど……てか、なんでまた殴ろうとしてんの?」


「……さあ? 気の所為じゃない? いいから、早く起きてきてよ、入学式から遅刻とかやめてよね」


 そういって、美華は部屋から出ていった。俺は、それを見届けてから、起きて、準備を始めた。


 中学の頃とは違い、ブレザーの制服に着替えて、一階に降りていくと、両親と美華が既に朝ご飯を食べ始めていた。


「おはよう、修。あんたも早くご飯食べちゃいなさい。」


 母さんに促され、椅子に座り、朝ご飯を食べ始めた。


「美華も修哉も、今日から高校生かぁ……大きくなったなぁ……」


「ちょっと、父さんやめてよ、卒業式でも似たようなこと言ってたじゃん、恥ずかしい。」


 父さんが感激したように言うと、美華がすぐに反応している。実は中学の卒業式でも父さんは、大きくなったなぁと言いながら、泣き始めたのだ。その時の周りの視線……思い出すだけで美華も修哉も恥ずかしくて死にたくなる…。

 その時のことが思い出されて、美華も修哉もいたたまれなくなり、急いで朝ご飯を食べて、家を出ようとしたが、母さんに声をかけられ、2人は足を止める。


「今日は入学式だけよね? 帰りは早いのかしら?」


「あー、確かそうだね、昼前には帰ってくると思う。」


 そう答えて、靴を履き、玄関を開けて家を出た。


「それじゃあ、2人とも行ってらっしゃい。」


「「行ってきます。」」


 そう言い、2人は学校へと向かった。



「ねぇ、修哉」


「うん?」


「なんか、凄い見られてない?」


「まあ、美華がいるんだから、当然なんじゃね?」


 通学途中、学校に近づいて来たあたりで、美華にそう言われた。忘れていたが、美華はモテる。父譲りの整った顔と、母譲りの、高校生とは思えない整ったスタイルで、見た目だけなら絶世の美少女と言えるからだ。性格もハッキリしていて、困っている人間を無視できない姉御肌なところもあり、よく男子から、特に下級生から熱視線を送られている。

 そんな美華といたら、注目されて当然だろう。しかし、今日はいつもとは違い、俺にも熱視線が集まっていた。

 なぜかは分からないが、特に害もないので、そのまま学校まで向かった。


 学校に着き、玄関の方を見ると、新入生らしき学生たちが沢山いた。皆が見ている方向には、大きな紙が掲示されていた。


「あっ! 修哉、クラス分けじゃない?」


 言われてみると、確かにそのようで、掲示を見てから、学生たちがそれぞれ向かっているのを見て、修哉たちもクラス分けを見に行った。


「ん〜、お、俺は2組だ、美華は?」


「えっと、私は6組だね」


「んじゃあ、帰る時連絡してくれ、そっちの教室に行くわ」


「了解、待ってるね」


 そう会話をして、修哉達はそれぞれの教室へと向かった。


「ん〜と、俺の席は……ああ、あそこか」


 教室に入り、名簿順に席が決まっていたので、自分の席についた。

 隣の席の人間はまだ来てないのか空席だった。

 席について、荷物の整理をしていると、横から、


「よお、俺の席、ここなんだよ、隣同士仲良くしようぜ」


 と、声をかけられた。


「おお、よろしく。俺、永井修哉。お前は?」


「ああ、名前言ってなかった、俺は東堂博人とうどうひろと。よろしく!」


「ところで永井、初日からめっちゃ可愛い子と登校してきてたけど、何? 彼女?」


と、いきなり睨まれた。


「いや、違うけど……ああ、そういう事か……」


 博人にそう聞かれ、やっと登校中の熱視線の意味に気付いた。


「ん? どういうことよ?」


「いや、登校中にも睨まれてたけど、アイツといたからか、と……」


「まあ、あんな可愛い子と初日から登校してたら睨まれるだろ……で? どういう関係なんだよ、キリキリ吐きやがれ」


「別に、ただの姉だよ、双子の、だけど」


 博人に聞かれたことに答えながらも、これからもあの視線を浴びるのかと、つい、遠い目になってしまう。


「なんだ、そういう事か、安心した。まあ、これから仲良くしようぜ!」


「ああ、こちらこそ、よろしく博人」


 と、話していたらちょうど時間になったのか、教師が入ってきて、全員いることを確認して、体育館へ行くように伝えてすぐに出ていってしまった。


 周りもみな席を離れて体育館へ向かっていたので、


「じゃあ、俺らも行くか」


「おう」


 と、2人も体育館へと向かった。



「お、おい、修哉!」


 と、入学式中にも関わらず、横に座っていた博人が船を漕いでいた修哉に話しかけてきた。

 何かと目を覚ますと、ちょうど新入生代表挨拶で、台の上にはよく見知った姉の姿があった。


「おい! お前の姉ちゃん新入生代表って、そんな頭いいのかよ!?」


「いや、まあ、頭はいいけど……」


(いやいや、、代表だなんて聞いてねえぞ!? マジかよ!)


 そんなことを考えていたので、修哉は新入生挨拶を聞いていなかったのだが、後で話を聞くことを決意して、入学式は終わった。


「いやぁ、それにしてもお前の姉ちゃん可愛いよなぁ、スタイルもいいし、頭もいいのかよ、完璧だなぁ」


「それだけじゃないぞ? 確か陸上で全国まで行ってるし、剣道も段位持ってるからな」


「まじかよ!?」


「まじまじ」


 そう笑いながら、入学式が終わり、教室で話していると、スマートフォンに通知が来ていることに気づいた。


「んぁ、向こうも終わったみたいだし帰るわ」


「ん? 向こうって?」


 と、博人が聞いてくるので、美華と帰る時に迎えに行くということを伝えると、


「いいなぁ! 俺もついてっていい? その姉ちゃんと仲良くなりたい!」


 ということで、美華の教室まで二人で行くことになった。


 美華の教室に着くと、既にクラスメイトに囲まれている美華の姿が。


「うわ……めちゃくちゃ人気じゃん、流石だな」


「……ほんとにな……あの中に声掛けるの無理じゃね?」


 と、二人で話していると、美華がこちらに気づいたのか、


「あ、修哉! 遅い!」


「いや、まあ、うん……すまん」


「許す! さて、帰ろっか!」


 と話をしていると、


「あー、わり! 俺やっぱ行くわ!」


 博人がそういって帰ろうとしていたので、


「ん? ああ、また明日な!」


「おう! また明日!」


 と、帰りの挨拶をして見送った。


「じゃあ、俺らも帰るか」


「うん、そうだね! 早くお昼ご飯食べたいし!」


 そういって、修哉と美華も教室から出て、下駄箱に向かって話しながら帰っていった。


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