第15話 共鳴
「ああ、もうチョイでイケそうだったのにぃ」
「ほら、集中」
不可組の兎さんが意味深なエロ声を出す。
「ごめんなさい」
高ぶる期待に反して俺は声のトーンを下げ、共鳴について詳しく聞く。俺にも出来るかと聞いたって事は、条件次第ではイケるってことだろ!?
ソフィアさんの話だと、やはり無線通信で合ってるようだ。意識下でチャンネルを合わせて精神で通信する感じっぽい。レベルが上がれば画像も共有できると……動画もイケるんじゃないか?
但し、共鳴がうまく出来ないと通話すら出来ないし、共鳴を長時間維持したり、遠くまで通信するためにはそれなりの集中力が要る。
共鳴は対個人、対グループ、対広範囲と3種類が普段から使われており、最低限個人共鳴出来ないと仕事には連れて行って貰えないそうだ。
「仕事ってなんですか?」
「ん?ダフィから聞いて無かったのかい?」
「……はい」
「あたしらは盗賊団だよ」
「き!来た!コレやね……あ、消えてしもうたわ」
「あーもう!繋がった時のまま感覚を……」
「煩いぞ!イメージがブレてしまったじゃないか!」
「「すんません」」
チョット出来たらしい兎さんと、そのとなりのお兄さんが、大きな声をだした事で良組に叱られる。
……盗賊団……かぁ。
準犯罪者登録を回避するために横流しされた俺は、盗賊団に納品されたのか……。
登録されてないだけで犯罪者だよね?いや何もしてないし捕まってもないから問題ないのか。どうなん?
「ルーやってみろ」
そう言ってソフィアは不可組の輪に俺を加えた。
「繋いだ手から幽体の振動を感じるんだ……肉体からの受感を段々へらして……意識を幽体へ」
ん?
そこで俺は目を開ける。
「幽体ってエーテル体のことですよね」
「ああ」
俺、それ無い疑惑。
気配が無いのはエーテルの流れがないからだと、親父さんもリズも言っていた。
でもキメラだとばれるのは、避けたほうが良いとも言ってたし。さてどうするか……。
「あぁ、さっきの感じどっかいってしもうたぁ」
兎さんが一旦手を離して休憩を求める。
「振動を感じてそれを合わせるんですか」
「そうだ出来るヤツはささっと出来るから、説明って言われると難しいんだよねぇ。こうスッと入ったらサワサワって繋がるだけだからさ」
……感覚派だ。こういう人は人に物を教えるのは向いていない。むしろスンナリ出来なかった人にアドバイスして貰った方が良いと思われる。
「順番って大切ですか?」
俺の質問は理解されなかった。
不可組3人だけでなくソフィアさんまで、ポカンとしている。
「コツを掴めるなら、先にグループで共鳴しても良いんですか?」
「いいけど、普通は……」
感覚派の普通程当てにならない物は無い。あの派閥は初めてプールに入ってクロールしちゃうし、初めてトス上げられてもスパイクしちゃう派閥だから。勿論俺は別の派閥である。
「えっと……そうですね……」
俺は誰も居なくなったテーブルから一枚のカードを持ってくる。数字の7を表す記号の書かれたカードだ。
「コレをみんなでイメージしてみましょう。共通のイメージから振動を揃えて、共鳴できたら振動をコントロールするコツに集中出来るかも」
半信半疑ながらも、皆で輪になって手を握る。
じっくり見た後で目を閉じる犬族、薄目を開けてカードを睨む変顔の兎さん、皆の顔を順に眺めるソフィアさん。
そのテーブルに再び沈黙が訪れた。
◇
『ちょっとロディ聞こえろ聞こえろうるさいわぁ、集中さてぇな』
『ん?うるさい?』
『せやから黙って集中……お?……コレ今、イケてんちゃうん?』
『切らすなよ、その感じを覚えるんだ……俺もの聞こえてる?』
『『お……おおぉ』』
目を開いて見つめ合う不可組とソフィア。
その顔には徐々に喜色が溢れ……。
「やったああああ!」
「イケたわぁぁ!」
「出来たじゃないアンタ達」
満面の笑みでハイタッチする一同。テーブルに達成感と笑い声が弾ける。
「あ、姉御……もう少し……静かに……」
「す、すまん。ほら、お前らも騒ぐのヤメロ」
「すまんです」
しょぼんとしたのもつかの間、声を出さずに体全体で喜びを表す一同。
『どうだ?きこ……る』
『忘れないウチにもっかいしよっ』
一同は成功体験の真っ只中にあり、今最も成長している瞬間だった。
すぐ側にいて、その様子を見て微笑む者がいる。
やり取りと喜ぶ様を見て成功を確信するも、歓喜の輪に一人入れない者が。
寂しそうに笑うその少年を、ソフィアは複雑な表情で眺めるのだった。
◇
「ルー、ちょっと来な」
共鳴訓練が終わった後、俺はソフィアさんに呼ばれて執務室っぽい所へおじゃました。
内装はやはり板張りで、所々に見える張り替えたであろう新しい床板が色調の違うレンガのようで妙に落ち着く。調度品は見るからにガラクタで程度の悪い偽物って感じだ。
天井四隅に法術の光源があるあるせいで、影の位置が不自然だ。なんか目が疲れる。
進められてソファーに腰を下ろす。
さっきまで居た談話室っぽい部屋でもそうだったが、ソファーは良いのを使っている。……いや、残しているのか、盗賊団だしな。
「熱いからな」
そう言ってテーブルに置かれたのはマグカップに入った白い液体。ミルクに見える。
注意に従って恐る恐るカップに触れるが、カップは室温だった。どこが熱いのだろう。この世界の飲み物標準温度は低めなのだろうか。
「頂きます」
そう言って俺は暖かくも冷たくもないカップを両手で持って、ミルクと思しき飲みのもに口を付ける。
「あっつ!!」
「熱いと言っただろうが、あわてんぼうだな。そういう所は子供らしいんだねぇ」
法術だな?法術なんだな?この不自然な温度差は?
舌を出してフーフーする俺を、ソフィアさんは優しい目で見ていた。
熱いミルクにがっついて笑われるとか、ペットじゃ無いか。犬と人が逆だけど。
「ところで……」
ソフィアが表情を改め、俺もそれに習う。
「さっきのアレはどういう事だい?」
ど……ドレデスカ。
気配が無い事を、気付くヤツはそうは居ないだろうと親父さんは言いていたが、動物の勘か盗賊のセンスか、気付かれてしまったのだろうか。
もしキメラだと気づかれたら……無理やり拘束されそうだったら……頼れるのは自分だけか。
俺はソファーに掛ける腰を少しだけ浅くした。
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