お夜食からの呼び声

三文士

第1話 真夜中に読んで欲しい

 美味いものが好きだ。


 いつも食べ物のことばかり考えている。


 朝起きて、どんな食事から一日を始めるかベッドに横になったまま考える。末期だ。食いしん坊の末期なのだ。


 最近はめっきり小説を読まなくなってしまったが、食に関するエッセイだけは率先して読んでいる。何しろ食べ物が好きだから、文章だろうが漫画だろうが見つけるとすぐに食指が動いてしまう。


 気が付けば本棚は食にまつわる本ばかり。


 脳味噌まで肥満になってしまいそうで怖い。頭の中についた中性脂肪は落とせるのだろうか。


 


 そんなわけで思うところあって、食に関するエッセイを自分でも書いてみようと思う。


 ただいたずらに体重を増やし、満腹中枢を満たしてばかりでは生産性がない。


 祖母の金言は「働かざるもの食うべからず」


 日々のたるんだ食生活も、ここでいくばかくかの広告収入になれば罪悪感も薄れるだろうという思わくである。


 我ながら実に浅ましく、そして小賢しい。


 

 私と同じように食いしん坊でここに行き着いた読者の皆さん。安心して欲しい。私はとても甘い。自分にも貴方にも。ここでは痩せろとか食べすぎだとか、味が濃すぎとか、甘いものは控えろとか、そんな野暮な文章を書くつもりはない。


 是非このエッセイを夜中に見て欲しい。できれば寝る前に。そして私のつたない文章力にも関わらず、貴方のお腹の虫が鳴きはじめたらそれが一番の褒め言葉だ。勝利の鐘の音だ。喜んで真夜中のご相伴にあずかろうではないか。


 もちろん、気持ちだけだが。


 「お夜食」という響きは実に官能的で美しい。


 「晩ご飯」が田舎から出てきたばかりの生娘だとしたら、「お夜食」はその娘がヤクザな男に騙されて渋々働くスナックで出会った純粋な学生に「ダメよ、あたしなんかに惚れちゃ」と悲しそうに笑う横顔みたいな雰囲気がある。お夜食とはなんだか艶めかしいのだ。



 カップラーメンか。うどんか。お茶漬けか。トーストか。ドーナツか。ソフトクッキーか。ポテトチップスか。アメリカンドッグか。


 さあ、お夜食の準備をしよう。


 罪深い?いやいや。その邪神がどこの誰だか知らないけど、きっと許してくれる。食べることは尊いことなのだ。なにが罪なものか。


 さあ、喉の奥に沸きはじめた唾液を飲み込んで、どうかこのエッセイを楽しんで欲しい。


 無論、私はこれを夕食後に書いて、わざとタイマーで夜中に予約投稿しておくけれど。


 この「お夜食からの呼び声」を、ぜひ抗うことなく受け入れて欲しい。


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