表明3

「もうすぐそこに魔獣の侵入を防ぐための壁がある。そこまで行けば連絡がつくけど、あんたたちはどうする?」


 神倉を送り届けたあとのことを考えていなかった。記憶がなければ、行くあてもない。記憶を探す旅に出る選択肢もあるが、今の俺はあまりに世界を知らなさすぎて、自殺行為になるだろう。八方塞がりで答えが見つからない俺を、七瀬は黙って待っている。


「俺は……」

「あんた、ウチに入社すれば?」

「!」


 その手があったか。確かにこれからの目的がない俺にとって魔獣駆除サービスへの入社という提案は鶴の一声。このまま野垂れ死ぬ可能性は大いにあり得る。それなら働いてある程度の生活基盤を整え、次の目的を探すのもいい。


「いやちょっと待って、考えさせて」


 即答する前に踏みとどまる。入社するということはこれからあの化物共と戦っていくということだ。さっきはたまたま俺の方が強かっただけで、こちらが殺されることだってある。現に人類は絶滅しかけているのだから。

 それに初めて魔獣を見たときの恐怖を忘れた訳ではない。


「なぁ、お前たちは……なんで魔獣を倒すんだ?」


 俺がいた家の元の住人は、魔獣から逃げるために家を捨てたほどだ。この街の人々もそう。それら人類の危機を、ビジネスチャンスとして捉えている。結果とし人々を救えていても、人の道に反する。


「金儲けに決まってるじゃない。わたしたちは営利企業よ」

「……」

「でもまぁ……助けを求めてる人たちを救いたいっていうのも1%くらいあるかしらね」


 神倉の顔には1%どころかそれが殆どを占めていることが書いてあったのだが、おんぶしている姿勢からは見ることができない。だがこの1時間弱のやり取りで彼女の心を理解した俺には、顔なんて見るまでもなかった。


 辺りの街を見渡す。どこもボロボロで平和には程遠い。恐らくこうしている間にも、魔獣に命を脅かされている人たちがいるだろう。これ以上、あんな恐怖に人類を晒すわけにはいかない。


「七瀬、お前はどうする? いや、どうしたい?」

「今度は逆になったね」


 その言葉から力を借りる直前のやり取りを思い出す。


「私には

「もう死んじゃってるのに、何の責任を取ろうって言うの?」

「……」

「なるほど、それが九十九の秘密なのね」


 わたしも学んだわ、と疑問を取り下げる凛。九十九七瀬の秘密の一端。なんだかとんでもない物を背負っている気がするが、それを推し量れるほどの知識も経験もなく、ただ七瀬の語りに耳を傾ける。


「恋と一緒に居れば、責任を果たせるかもしれない。それにね、恋が守りたいものを、私も守りたい。この世界を、人を。それが私のやりたいこと」

「それ、魔獣駆除サービスで出来るんじゃない? 有望新人スカウトできたらボーナスアップなのよね〜、こりゃ良いカモだわ」


 わざとらしく悪役ぶったセリフを吐く神倉だったが、同世代の仲間が増えるのは嬉しいようだ。可愛い。


「決まりだ、魔獣駆除サービスに入社してやる!」

「あ、ごめん。入社するのに試験あるわ」

「……え?」

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