古都想歌
歌峰由子
序
牧場を渡る風が風向きを変える頃、遠く草原の彼方から『泣歌』が聞こえるという。それは魔導を用いて繁栄を極め、一夜にして滅びた都の亡霊が歌う挽歌とも言われていた。
『泣歌が聞こえる夜は、外に出てはいけないよ。亡霊達に攫われてしまうから』
大人達はそう言って子供達を戒めた。そこは王都から遠く離れた寒村、冬は山脈を越えた空っ風ばかりが吹き荒ぶ乾いた土地だ。なけなしの畑で麦と野菜を作り、日々羊を追っては乳や肉、羊毛を商人に買い叩かれる。
貧しく苦しい暮らしの気晴らしに、村人達は様々な物語を編んだ。
例えば、平原の下には今も栄華を極めた都の財宝が、滅びた晩のまま眠っているとか。
例えば、自分達は都の主の子孫であるとか。
ひょおう、ひょおぉう。
その日も風が哭いていた。
滅びし都を惜しむ哀歌のような響きと共に、その夜、一人の少女が村から消えた。長く真っ直ぐな黒髪が自慢の、美しい少女だった。
『ザーラ! なあ、ザーラはドコだ!?』
『落ち着け。ザーラはあの丘の向こうへ行っちまったんだよ。遠い昔の都にな……。さあテッド。お前も今日で俺達とはお別れだ』
暴れる少年を村人が馬車へと押込む。
力の限り少女の名を呼ぶ、少年の高い声。泣歌がそれを遠く掻き消していった。
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