第133話 大魔王エリカの振動

 大魔王エリカを止めようと奮戦していた龍身のズメイだが、聖剣を腹部に受けて遂に倒れた。

「ま、まだまだ!」


 立ち上がろうとするズメイを、龍姫ジュラと鬼王バオウが押し留める。

「ここからはあたいたちの出番だよ。ね、バオウお姉ちゃん」

「うん…… エイダさんと約束したしね……」


「まだやれるってのに」

 ズメイは巨体をバオウに抱えられ、治療のため後方に下げられる。


 大魔王エリカは苛立っているようだった。

「次から次へとうざいですね。私はヴァールと、えっと、ヴァールと何をーー? そうだ、ヴァールと戦わなきゃいけないのに! ヴァールは勇者、勇者は殺す」


「そうはさせないから」

 鬼王バオウがエリカに立ちはだかる。

 身の丈三メルもの巨体は筋骨隆々、文字どおり鋼の筋肉を持つ。

 胸と腰に革甲を付けている以外は身体を剥き出しだ。分厚い革で大きな胸を巻いて鋲で留めてある。胸は筋肉の塊かのようにがっしりとしている。


「あたいが相手だ」

 ジュラもまたエリカに対峙する。

 ジュラは大人の女性に成長している。水色の水着みたいな薄手の服を着ているが、子ども姿の時からの服なのでサイズが小さくて張り詰めていた。美しいスタイルが目立つ。

 ジュラの頭上に渦巻く亜空間が生じた。龍の召喚だ。


 ジュラとバオウは目配せをする。

「これ、エイダが言ってたAパターンでいいよね」

「うん…… 予想どおり」


 以前、二人がネクロウスに操術をかけられて支配下にあったとき、エイダが一時的に術を解いた。その時、二人はエイダから頼まれていたのだ。


「一番フォーメーションで」

「うん、始めるよ」


 ジュラは叫ぶ。

「究極多重召喚、百八龍!」

 ジュラの開いた亜空間を通って召喚龍たちが続々と現れる。青色に黄色、緑色に黒色、いろんな色の龍が出てきても出てきても止まらない。


「なんと、ここまでの召喚術を身に着けていたとは! いや、しかし」

 後方で治療を受けているズメイは驚きあきれる。


 カラフルな召喚龍たちはそれぞれ人間程度のサイズしかない子龍。かわいらしい姿だ。百八匹もそろっている。


「そんなちびたちに何かできるとでも言うんですか」

 エリカは鼻で笑う。


「見てろ~! みんなかかれ!」

 ジュラが号令をかける。

 小さな龍たちは群れとなって流れるようにエリカを取り巻きながら、衝撃波を次々に放った。

 衝撃波はエリカの胸に集中する。


「こんな弱い衝撃波、避ける必要もないですね」

 エリカは正面から衝撃波を受け止めてみせる。

 

 エリカは身体の要所を黒水晶で覆っており、胸も黒水晶に包まれている。

 豊かな胸が衝撃波を受けて揺れ続ける。


「次はあたしの番……」

 バオウが拳を振るう。エリカとの距離は遠い。だが拳の発生する風圧が届く。風圧はエリカの胸を大きく跳ね上げた。


 エリカはさすがに訝しんだ。

「まるで殺気が無い? なんなの、変態なの?」

 眉をひそめ、胸を腕で隠す。


 子龍たちは高度を下げて、地面すれすれから衝撃波を撃ち始める。

 巻き上がる風がエリカの胸を執拗に狙う。


「一体全体どういう作戦なのかや」

 ヴァールは困惑している。

「みんな胸が大きいわ、ジュラだけ先に大人の階段を駆け上るわ、余はいっこうに成長できぬわ」

 自分の胸を見下ろすとわずかな膨らみしかない。

「ぐぬぬ……」

 それにしてもジュラとバオウの攻撃でエリカの胸が揺れるのを見ているとなにかこう無性にいらっと来るヴァールである。


 そんなヴァールの気持ちに気付くことなく、バオウは踏み込んで攻撃を続ける。

 エリカの腕を越えて、強い拳圧がエリカの胸をまたしても揺らす。

 胸をかばいながらではエリカも剣を振いづらそうだ。


「なかなか…… 難しい…… もっと上手く狙わないと」

 バオウはエリカの胸をもっと大きく揺らそうとするが、段々とエリカも慣れてきたようでかわされ始める。


「ジュラちゃん、フォーメーションを変えよう……」

「うん、二番!」


 ジュラの号令で子龍たちは大広間の四方八方に衝撃波を撃ち始める。まるで太鼓を叩くようにタイミングを合わせてリズミカルだ。

 大広間全体が共鳴して激しく揺れ始める。

 エリカの、ジュラの胸が柔らかく揺れる。バオウの硬い胸すら揺れる。しかしヴァールの胸はぴくとも揺れない。ヴァールの口がへの字になる。


「相手にしてられません!」

 エリカは物理操作の力を使って浮遊した。物理結界も張る。


「三番!」

 ジュラの号令でまた子龍たちはフォーメーションを変える。

 二手に分かれた子龍の群れはエリカの結界を上下交互に衝撃波で撃つ。

 結界を衝撃波が貫通することは無いが、結界は上下に揺れて、中のエリカの胸も上下に揺れる。



 大広間の天井裏に潜んでいるサース五世は、ひたすら胸が揺れている下の様子を真っ赤な顔で凝視していた。

 別に見たいから見ているのではなく隙をうかがっているのだとサースは自分に言い訳をする。

 そう、確かにエリカはうろたえて隙だらけだ。今こそがエリカ暗殺の好機。


 サースは天井の隠し出入口を静かに開く。

 忍刀を抜く。

 エリカの首に狙いすませる。

 精神を統一し、心を無にして殺気を消す。

 サースはエリカへと一直線に跳ぶ。


 忍刀が一閃した。

 黒水晶が切り裂かれ、二つに割れて落ちる。

 大きくて整った双丘が美しい曲線を描く、エリカの胸が露わになる。


「あ?」

 胸で頭がいっぱいになってしまっていたサース五世は、ある意味過たず、エリカの胸を覆った黒水晶を両断していた。

 サース五世の眼前にエリカの胸が広がる。


「死ね!」

 激怒したエリカがサース五世を蹴り上げる。サース五世は勢いよく吹っ飛んで大広間の壁に激突、落ちて動かなくなった。その顔は妙に幸せそうだ。


「許せぬ! 余も触ったことないのに!」

 ヴァールも怒っている。


「今だよ!」

「うん!」

 バオウが高く跳んで、空中のエリカへと迫る。

 拳が狙うはエリカの胸。


「いい加減にしろおお!」

 胸が露わになるのも構わず、エリカが聖剣を振るった。

 鋼鉄の強度を誇るバオウの拳が肘から切断される。

 だが拳はそのまま飛んで、エリカの胸の谷間に突入する。

 胸の谷間、その奥に隠されていた小さな袋が弾かれて飛び出した。


 袋は下へと落ちていく。

 駆けつけたヴァールがそれを受け止める。


「成功だよ!」

「うふふふ」

 ジュラとバオウは視線を交わす。


 ヴァールは袋を開く。そこには眼鏡と指輪が入っていた。エイダの眼鏡、それとヴァールがエイダに贈った伴侶の指輪だ。

 ヴァールは指輪に衝撃を受ける。これがヴァールに戻ってきたということはエイダとの縁が切られてしまったということか。


 そのとき声がした。

「ああ、ヴァール様、ただいまです! ようやく戻ってこれました!」

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