第4話 ダンジョン探索

◆ダンジョン地下一階


 曲がりくねった通路の先にマッティが魔物を感知した。

 盗賊のスキル、魔物感知が発動したのだ。自分よりもレベルが低い魔物を対象に、十ブロック内の魔物を感知できる。

 距離的には大したことがないようだが、曲がり角の先や入った部屋でいきなり奇襲されたりするのを防ぐことができる。それなりに有用なスキルだった。


「これは…… オーガ・レベル10。そこそこ危ないやつだよ!」

「任せなって!」


 ダンは長剣を抜き放つ。

 彼の装備は長剣一本に革製の胸甲、手甲に足甲。動きやすさ重視といえば聞こえはいいが、資金的にこれぐらいが限界だった。


 マッティはダンの後ろに控える。

 マッティの装備は薄手の布服に短剣が数本。盗賊として速度重視だ。


 ダンは長剣を上段に構えた。

 左の角からオーガが姿を現す。


 オーガは大型の鬼系魔物だ。

 頭部に一本角を持つ人間型で知性は低い。大きな体格で筋力に優れており、こん棒などの打撃系武器を得意とする。下半身を布で覆っているだけで、あとは赤茶色の身体をむき出しにしている。

 

 オーガはまだこちらには気付いていない。オーガの背丈はダンよりも二回り大きい。

「えいやああっ!」

 ダンは列縛の気合を込めて長剣をオーガの胸へと振り下ろした。

 剣士のスキル、重斬撃の発動である。

 一定時間の溜めによって攻撃力が五割増しとなる。


 攻撃に気付いたオーガが右腕を上げる。長剣は右腕を斬り飛ばした。右手に持っていたこん棒も落ちる。

「ウグオオオッ!」


 混乱したオーガの顔に向けてマッティは短剣を投擲、右目に刺さった。

 痛みでしゃがみこんだオーガの首に、ダンは長剣を斬り下ろす。オーガの首を半ば切断、絶命させた。


 オーガの死骸が床へと吸い込まれるように消えていく。魔法召喚された魔物である証拠だ。後には目玉ぐらいなサイズの魔石が残る。ドロップアイテムだ。


「さっきの、いい連携だったぜ!」

「うふふ、照れるねえ」


 マッティが盗賊のスキルで魔石を鑑定。

「MPが1の魔石だよ」

「安物だな」

 安物で悪かったなとどこかで誰かが叫んだことにダンとマッティは気付かない。


 また先に進み始めようとしたダンをマッティが止める。

「ちょい待ち。……オーガの群れが近づいてるよ!」

「まじかよ」


「オーガ、レベル10、前方に二匹、後ろ側から一匹!」

「多すぎるだろ!」


 ダンは振り返るや後ろに駆けだす。

 まずは少ない方から対処するつもりだ。


 角を曲がってすぐ正面にオーガ。

 ダンは出会いがしらに長剣をオーガの胸へと深く突き立てる。

 断末魔の叫びを上げながらオーガは肘をダンの肩に落とす。ダンの骨が砕ける感触。

「ぐうっ」

 だが苦しんでいる暇はない。


 ダンは長剣をオーガの胸から引き抜く。

 反対側ではオーガ二匹を相手にマッティが短剣を投擲していた。

 一本はオーガの腕に刺さるが、もう一本はこん棒で弾かれる。


 進んでくるオーガ二匹からマッティは逃げ出してダンの後ろへ。


 ダンは油汗を流しながらオーガ二匹と対峙する。

 肩の骨を骨折。

 敵は二体同時。

 レベル13の若手剣士にとって最高にハードな状況だ。


「なあ、マッティ。これで一山当てたら結婚して店を開こうぜ」

「こんな時に言うかなあ!」


 マッティは覚悟を決める。

 イチかバチか。

 盗賊スキル、武器奪取を発動。

 オーガに至近距離まで一瞬で詰めて、こん棒を奪い取る。

 もう一匹のオーガが気付いてマッティに蹴りを入れた。細身なマッティの身体は太い蹴りを叩き込まれて跳ね飛ばされ壁に激突。


 マッティは血へどを吐きながらも笑う。

「うふ、狙いは武器じゃないんだなあ」

 オーガの腕、オーガの足にそれぞれ短剣が刺さっている。短剣の刃は黒く染まっていた。

 オーガたちが唸る。

「即効性の毒をたっぷりとおあがり」


 オーガたちがよろけて膝をつく。

 隙を見逃さず、ダッシュしたダンの長剣がオーガの首を刺す。

 もう一匹がこん棒を振るってダンの背中に直撃。

 ダンはもんどりうって転がる。


 ダンとマッティは床をはいずってオーガから逃げる。

 オーガは苦し気に唸りながら追う。

 遂に追いついたオーガはこん棒を振り上げた。


「愛してるよダン」

「俺もだ」

 抱き合った二人は目をつぶり、しかし待っていても何事も起きないことに気付いて目を開いた。

 オーガは口から黒い泡を吹いて倒れていた。死んでいる。毒の効果だ。


 ダンとマッティはしばらく荒い息をしていた。

 マッティが荷袋から回復用のポーション瓶を取り出して、まずはダンに飲ませた。

 ダンの肩や背中から痛みが薄れていく。

 残りのポーションをマッティが飲み干す。


「戦ってるときにあんなこと言うもんじゃないよ!」

 マッティがダンの頭にげんこつした。

「痛て!」

「まあ、うれしかったけどね」

 マッティは鼻をこする。


「もう引き返すか?」

「ここまで来たんだよ、毒を食らわば皿までじゃないかい」

「……そうだな。一世一代の勝負に出たんだ、やってやるか」

 ダンはマッティの肩を借りて立ち上がった。



◆ダンジョン管制室


 魔王は顔を赤くしている。

「他人の色恋沙汰を覗くのは趣味ではないのじゃが」

「ええっ、楽しいじゃないですか!」

 エイダはうれしそうである。


「冒険者を危うく殺してしまうところであった、配置を考え直さねばならん。ここまでの魔力収支はどうじゃ?」

「まず使った分です。オーガ・レベル10を4体召喚で、-40MP。魔石レベル1を4個ドロップして-4MP。合計44MP使いました」

「ふむ」

「冒険者のダメージがそれぞれ25HPと18HP、それをダンジョンが魔力変換して+43MP増えました。差し引き1MPの赤字です」

「ふうむ……」


 魔王は考える。

「冒険者をいきなり殺してしまうのは下策じゃ。何度でも来てMPをたっぷり捧げてもらわねばならんのじゃからな。強敵で囲むのはよくない」

 魔王はダンジョン設計図を操作して、ポップサークルの設定を手早く変更する。

「まずはゴブリンに相手をさせようぞ」

「それだと、せっかくポップした魔物が簡単にやられてMPの無駄遣いになりませんか」

「くくく、弱敵を倒しているうちに奥まで誘い込まれて強敵に出会うという寸法よ」

「さすが魔王様です!」

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