夏祭り
エアコン eakon
第1話
階段を登り始め中段に差し掛かったころに子供達の笑い声が聞こえる。
「勝って嬉しいはないちもんめ」
「負けて悔しいはないちもんめ」
「最近の子達もそれで遊ぶんだ」
郷愁からか口が綻ぶ。
いつぶりだろうか、その歌を耳にするのは。子供達の合唱に耳を奪われながらも階段を上りきり久方ぶりの寺院を目にする。
この寺を訪れるのはいつぶりだろう、小学生の時に来た夏祭り以来だろうか。
この寺院では八月の中旬頃、夏休みの時期に祭りが催される。
小学生の頃は毎年楽しみにしていたものだがそれも昔の話。今となってはこの場所に訪れ腑と、記憶の片隅から思い出す程度になってしまったようだ。
石畳の上を歩き進み、頭を下げ一礼をしながら鳥居の右側をくぐる。
懐かしい想い出が蘇る。通りの両脇に出店が並んでいた。射的の当たりもしない景品目当てにここで散財したり、わたあめを口一杯に頬張り唇をベトベトにしたり.....
一緒に祭りに訪れていたかつての友人達で今尚、連絡先を知っている数は片手で足りる。
これが大人になるということだろうか。自分は前に進めているだろうか。どうも最近は物思いに耽ることが多い。将来に漠然とした不安があるからだろうか。最後にしなければならないはずの思索を心の奥底では楽しんでいるのかもしれない。そんな殊勝なやつでもないかと思わず破顔してしまう。
先程の子供達だろうか。左側には一人、右側には五人という振り分けになっているようだ。ぼんやり眺めていると右側の女の子一人がこちらの視線に気付いたのか一度こちらを見て微笑し、それにこちらも微笑みを返す。
左側の女の子がじゃんけんに負け、はないちもんめが終わる。
そろそろ太陽が雲に姿を落とす時間になる。
ここで六時頃まで遊んでいるとお坊さんに怒られたものだ。あの子達も家に帰る頃だろう。俺も帰ろうかなと体を階段のある方角に向け歩きだす。
階段を下りおえると同じ頃に下から声がする。
「どこほっつき歩いてたんだか、気をつけてよね」
実はもうすぐ妻となる彼女とはぐれてしまっていたのだ。正確には俺の迷子だが。
「じゃあ帰ろうか」
笑いながら手を繋ぎ俺たちは帰路を進み始める。
夏祭り エアコン eakon @eakon0302
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