第8話 僕は考古学者じゃない!?
結論から言うと、宿はなんとかとれた。
大体の冒険者は、街に到着したらすぐに宿を確保する。街の治安の善し悪しにもよるけれど、野宿はリスクが高い。外は言わずもがな、街中だって泥棒や夜盗なんかが居るものだ。なので、冒険者たちは出来るだけ野宿を避けようと早めに宿を確保しておく。ということは、時刻が夜に近づくほど、部屋がうまってしまうのだ。
「私のとこの宿が一部屋空いてて良かったですね、ハルガード君」
いやほんとに良かった。助かりました。
無事に宿がとれ、僕らは安心して酒場で駄弁ることが出来ている。
「ホントに良かったよぉ〜。ところで、ラディアさんはどうして冒険者をやることにしたの?」
ラディアさんは【B級スキル】持ちだと言っていた。【B級スキル】は戦闘向きだったとしても中途半端で使いづらく、どちらかと言うと生産者や収集家向きといわれている。僕みたいに【S級スキル】持ちだと冒険者を目指そうと思うものだけれど……。その点で、ラディアさんがなぜ冒険者志望なのか気になるところだ。
「私、世界を冒険して色んな物を見てみたいんです。色んな街とか、遺跡とか。特にパワースポットが好きで、アカデミー時代にも周辺のパワースポットには足を運んでたんですよ」
「へー、パワースポットか。いいね。遺跡巡りも、色んな発見があるんだろうな」
古い遺跡には、今でも古い生物が棲んでいたりする。ドラゴンなんかが良い例で、非常に長命な生物だ。それに、遺跡にしか咲かないというフレングラスの花も気になっている。いいなぁ、遺跡。
「ハルガード君も興味あるんですか? 良かったー、話の合う人がいて!」
ラディアさんは両手をあわせて、はにかんだような笑みを浮かべた。僕も話の合いそうな人がいて嬉しいな。
「僕ら、気が合いそうだね。ラディアさんは【B級スキル】だったよね。どんな固有スキルだったの?」
「私の固有スキルは【加速する熱意】でした。戦闘中、どんどんステータスが上がる固有スキルです」
「へぇ、それは便利そうだね」
「いえ、これが思ったより不便で。ほら、今は戦闘開始直後に強スキル撃って終わりっていうのが主流じゃないですか。だから、そもそも戦闘が長引く事ってあんまり無いんですよ」
そう言われれば、そうかもしれない。アカデミー時代の戦闘訓練では、レグサやニルバがほとんど一撃で敵を倒していた。ナクトルはもうちょっとテクニカルに戦ってた気がするけど、それでもモンスターを倒すのが早かったな。高ランクスキル所持者ほど戦闘時間が短い傾向にあるのは間違いない。僕を除いてだけど。
「そうなると、ラディアさんはスロースターターだったってことか」
「そうなんです。だから模擬戦とか戦闘訓練でもあんまり良い結果を出せなくて、成績が伸びなかったんです。けっして苦手意識があった訳では無かったんですけど、どうしても皆みたいにすぐ敵をやっつけられなくて。チーム戦でもお荷物扱いでした。あはは……」
境遇が僕と似ていた。僕もひどく共感して頷いてしまう。僕もニルバの助けがあったから多少剣を扱えるようになったんだ。でも、僕の場合は終始お荷物だったし。ラディアさんと違って戦闘向きのスキルも無いから、冒険に出てもそうなんだろう。はぁー……。
僕はラガービールを一気に煽り、ため息をついた。
「だいたい、ナクトル達も勝手なもんだよ。僕がお荷物なのは、アカデミー時代から分かってた事じゃないか。それを今更になって見限るなんて、酷い話だよ」
酔いが回ってきたのかな。なんかだんだんとナクトル達に怒りが沸いてきた。僕はテーブルにドンッと勢いよくグラスを置く。
「僕だって頑張ってるんだよ。それに、ハズレスキルって言っても【S級スキル】持ちなんだ。モンスター図鑑に載ってないことだって発見したし。ラディアさんだって、持ち前の行動力でギルドに『金包蘭』の群生地報告をできたんだ。それなのにお荷物だなんて、みんなみんな勝手だよね!」
「あはは……気持ちは嬉しいですけど。ハルガード君、酔ってるんじゃないですか? ちょっと飲み過ぎですよ」
ラディアさんはああ言ってるけど、内心僕と同じ気持ちに違いない。そうだよ、僕はお荷物なんだよ。【S級スキル】なんて大層な固有スキルを持ちながら、お荷物だって捨てられるのなんて僕くらいなもんだろう。僕もそう思う。全然、戦闘で活躍できる気がしない。
「僕は……お荷物なんだなぁ。例えるなら、アイテム袋の中で何の役に立つか分からないけどなんかレアリティが高いからずっとスペースを圧迫してるアイテムと一緒なんだ。うわぁぁぁん!」
僕は感極まって泣いてしまった。
「ハルガード君、何言ってるか分からないんですけど、大丈夫ですか?」
僕の横でラディアさんが困惑してしまっている。本当にどうしようもない奴だな僕は。情けない。
「でも、僕はラディアさんと出会えて良かったよ。こんな僕みたいなお荷物冒険者にも優しくしてくれて。ありがとう」
「えっ!? いえ、そんな! こちらこそ、ご迷惑をお掛けしてしまって! ハルガード君のおかげで大きなクエストを達成させて頂きましたし! 全然お荷物じゃないですよ!?」
僕は机に突っ伏しながら、顔を横に向けてラディアさんに感謝した。ラディアさんもお酒が回ってるのかな、少し頬が赤い気がする。
「私も、ハルガード君にはすごく感謝しているんです! ハルガード君が一緒に居てくれたら、色んなところを巡って、色んなお話が聞けそうで。私、凄くワクワクします! ハルガード君なら、きっと立派な考古学者になれますよ!」
ラディアさんが期待の眼差しでボクを見つめている。でも、ごめんね。
僕がなりたいのは考古学者じゃなくて、冒険者なんだよなぁ……。
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