第6話 僕はクレーマーじゃない!?
かれこれ、三時間くらいは経っただろうか。少し日が傾いてきて、空に陰りが見えてきた。今日はこのくらいで切り上げて、そろそろギルドに戻ろう。
僕は街へ戻る。その足でギルドへ向かい、扉を開けた。ギルドのピークは午前だったのかな。今は閑散としている。そんな中、クエスト受付のところで戸惑っている少女が目に止まった。その困ってる様子に、僕は声をかけずにはいられなかった。
「あの、どうされたんですか?」
「あ……」
僕の声で振り向いたのは、青髪ボブヘアーの女性剣士。あ、この子もしかして。アイテムショップにいた子じゃない?
「あなたは、あの時のクレーマーさん……」
ですよねーそう思われてますよねー。あー、分かってたけど、悪い形で覚えられちゃってるよもう……。
「えっと、僕はハルガードって言います。何かお困りのようでしたので、よければお力になれないかなと……」
僕は自分の指を弄りながら、女性剣士に尋ねた。なんかこう、上手く話せないのがもどかしい。女性剣士は口元に拳をあてて逡巡している。あ、やっぱり怪しまれてるかな……。
「あ、いや、別に、下心とかある訳じゃなくてですね。ぼく【薬識】持ってるし、採集系のクエストくらいならお手伝い出来るんじゃないかな〜って」
「【薬識】ですか……?」
あーもう、何言ってるんだ僕。まるで【S級スキル】持ちをアピールして女の子ナンパしてるみたいじゃん。下心ないとか、上っ面だけって印象だよ。自分のコミュ力の低さに凹むわー……。
「ご、ごめんなさい。迷惑ですよね……失礼しました……」
僕がその場の空気に耐えられなくなって、自ら回れ右した時だった。ふいに、裾を掴まれる。
「あの、迷惑じゃないので、大丈夫です。それに、【薬識】を持ってるって本当ですか?」
小鳥のような可愛らしい声に、僕は振りかえる。青い瞳を僕に向けて、女性剣士はおずおずと聞き返してくれた。
「あ、はい。まあ、一応、お恥ずかしながら……」
何も恥ずかしい事じゃないんだけど、ついそんな言葉が漏れてしまった。なんかもう、【薬識】に対してコンプレックスを持ってしまってる自分がいる。
「もしかして、あの時『スキルポーション』が不良品だって言ってたのも?」
「ええ、まあ。凄くよく出来た偽物だと思いますけど、あれは『スキルポーションS』っていう別物でして。普通の『スキルポーション』には無い副作用がある劣化版なんです」
「副作用って?」
「えと……副作用っていうのは、本来の効果とは別の望ましくない効果のことで。『スキルポーションS』には稀に目眩を起こすという副作用があるんです」
僕が饒舌に語り出したのを見て、女性剣士はキョトンとしている。あ、しまった。ついアカデミー時代の悪い癖が。
「す、すみません! どうでもいいですよね、そんなこと」
「あ、いえ! こちらこそ、ビックリしちゃって」
僕らは互いにぺこりと頭を下げあった。
「あの、私はラディアって言います。見ての通り、まだ駆け出しの冒険者です。その、ハルガード君、ですよね? ……よかった、他人の空似だったらどうしようかと思ってて」
「あれ? 僕のこと知ってるんですか?」
ラディアさんは、どうやら僕のことを知っている様子。アイテムショップ以外で、会ってたかな?
「やっぱり、【S級スキル】持ちの方は【B級スキル】の卒業生になんか興味無いですよね……」
ラディアさんがシュンとして、瞳を伏せる。アカデミーの卒業生ってことは、同期だよね。やば、酷い失言しちゃった!
「ごご、ごめんなさい! 言い訳だけど、僕、その、勉強と研究ばっかりであんまり友達とかいなくて……その、同期の顔もあんまり覚えてなくて……」
そっか、こうやって社会に出たら同業者としてやってく人も当然ながらいるわけで。そんなこと全然考えもせず趣味全開でアカデミー時代を過ごしてた自分が恥ずかしい……。もう、穴があったら入りたい気分だよ……。
「いえ、ちょっと傷つきましたけど、そんなひたむきなハルガード君がカッコイイなってずっと思ってて……」
「えっ?」
「あっ……」
僕が自己嫌悪で俯かせていた顔を上げる。すると、今度はラディアさんが顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「あの、今のは聞かなかった事にしてください! それで、その、話を戻しますけど、えと、何を話そうとしてたんでしたっけ……」
そんなこと僕に聞かれても……。目をグルグルにし、ラディアさんはキョドってしまっていた。
「ちょっと、落ち着いて。えっと、僕がどうしたのって声をかけたとこだよ。何か困ってたんでしょ?」
「あ、はい。そうでした!」
ラディアさんは落ち着きを取り戻し、とつとつと話し始める。
「あの、実は初心者用のクエストを受注したんですけど、私の知ってる情報だけじゃクリア出来そうになくて。それで、ギルドに相談に来たんですけれど、ギルドの方にも分からないって言われて困ってたんです」
「何のクエストを受けたの?」
「ド定番でアレなんですけど、薬草採集……」
「採集するアイテムは?」
「『青包蘭』を五つほど」
『青包蘭』は、『ライフポーション』の材料になる植物だ。確か、街からちょっと離れたところに群生地があるはず。少し歩くけど、採集は難しくなかったと思う。青い花で群生するから、結構わかりやすい。そんなに困るクエストでもないよなぁ。
「『青包蘭』の採集クエストなら、僕が群生地に案内しようか? アカデミー時代に行ったことあるし」
「いえ、近くの群生地は分かってたんですけど、そこに行っても『青包蘭』が咲いてなくて。代わりに、別な花が咲いてたんです。教科書で見たことがあったような気はするんですけど」
僕は首を傾げる。何だろう。教科書に載ってる花といえば、この近くだと『丹花』かな。
「そこで、ギルドの方に聞いてみたんです。けれど、草原のとこしか知らないって。他の群生地なんて私も知らなかったから、どうしたら良いかと悩んでたところなんです」
「うん、事情は分かった。それなら、ボクも協力するよ」
「本当ですか!? ありがとうございます、ハルガード君!」
ラディアさんが僕の手を握った。そのまま、手を引いてすぐに外へ出ようとする。意外と積極的な子だ。でも……、
「ちょ、ちょっと待って!」
「はい? あ、ごめんなさい! 痛かったですか?」
「いやそうじゃなくて……」
僕はギルドの職業適正相談コーナーを指さす。
「先に、僕の用事も済ませてきていいかな?」
「は、はい。すみません……」
ラディアさんは顔を赤くして縮こまってしまった。
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