僕は冒険者になりたい!
猫民のんたん
第1話 僕は戦闘向きじゃない!?
壇上に四人の生徒が登る。今年のアカデミー卒業生のうち、最上に位置する人達だ。
アイテム学で上位を修めた僕。
魔法学で上位を修めたレグサ。
戦闘実技で上位を修めたニルバ。
そして、全てを最上位で修めたナクトル。
僕らが演台の前に立つと、ハーブレット学長が一人一人の顔をゆっくりと見つめた。白い髭をたくわえた掘りの深い顔が、優しい青い瞳で僕らを順番に撫でていく。ひとしきり皆の顔を確認すると、ハーブレット学長はおもむろに口を開いた。
「諸君らは、このアカデミーで非常に優秀な成績を修めた。そして、ここに立つ四人はそれぞれが【S級スキル】を持つ偉大な者達である」
僕らアカデミーの生徒たちは皆、入学時にスクリーニングテストを受けている。そこで才能を見極められ、各人の固有スキルにランク付けが行われているのだ。
「これより、本年度卒業生の固有スキル開示を執り行う!」
入学時のテストは、あくまで潜在能力の度合いを測るもの。入学後に固有スキルのランクが変わることはない。そして、それは直接評価には関わらない。しかし、個人の才能に大きく関わるのが固有スキルである。ランクの高い固有スキルを持つものは、やはり成績の伸びも違ってくる。
アカデミーでは、卒業まで固有スキルが開示されない事になっていた。なぜなら、才能を本人が知ってしまうと、その才能以外が育たなくなってしまうからだ。固有スキルは自覚した瞬間に覚醒する。そうなると、そこで本人の性質が決まってしまい、人材としての幅が広がらなくなってしまうのだ。
「まずは、本年度で最も優秀な成績を修めた者ナクトル。前に出よ」
「はい!」
金髪碧眼の剣士ナクトルが大きな声で返事をし、演台の前に立った。
ハーブレット学長の横に、黒のローブを纏った痩身の男性――アナグニエ副学長が立つ。手には虹色のオーブを持っており、ゆっくりと演台の上に置いた。副学長はすぐに一歩下がって恭しくお辞儀をする。
「それでは、ナクトルよ。このオーブに手をかざすのじゃ」
ハーブレット学長の言葉を受け、ナクトルはゆっくりとオーブに手をかざした。虹色のオーブの表面が次第に渦を巻いていく。
「おお! 今、ナクトルの固有スキルが開示された! そなたの固有スキルは……【英雄の心】じゃ!」
「英雄の、心……?」
ナクトルが自身のスキルを自覚したようだ。その瞬間、ナクトルの体が金色に発光する。
「【英雄の心】……凄い! これが、俺の力……!」
ナクトルには、固有スキル【英雄の心】の効果がハッキリと理解出来ている様子だ。確信を持った表情をしている。
「次に、レグサよ。前へ」
「はい!」
桃色の長髪の魔女レグサが演台の前に立ち、同様に手をかざした。
「ふむ。【聖なる源泉】とは、お主も素晴らしき才覚よ」
「お褒めに与り光栄です」
レグサは赤い瞳を伏せて優雅にお辞儀する。次に、灰色短髪の女性剣士、ニルバが前に出た。
「そなたは、【猛き鬣】じゃな。これまた稀有な力の持ち主じゃ」
「へへっ、まあ当然だネ」
ニルバは鼻を擦り、愉快に笑う。緑色の瞳をハーブレット学長に向けて、得意げにしていた。
「では、ハルガードよ。前に出るがよい」
「は、はい!」
ようやく、僕の番がきた。僕はドキドキしながら、虹色のオーブを見つめる。オーブの表面には、黒髪で茶色の瞳の少年が映し出されていた。酷く緊張して、ガチガチに顔を引き攣らせている。我ながら、なんて顔をしているんだ。
僕も、アイテム学だけはトップ争いの好成績を修めているんだ。そして、それは僕の持つ【S級スキル】の賜物だ。それが何かはこれから分かることだけど、きっと、冒険に役立つ凄いものな筈だ。
【S級スキル】のほとんどは、冒険向きの固有スキルだと授業で聞いた。ナクトルの【英雄の心】、レグサの【聖なる源泉】、ニルバの【猛き鬣】も、きっと戦闘向きなスキルなんだと思う。僕は戦闘訓練で彼らに勝てたことがなかったけれど、でも、同じ【S級スキル】持ちとして期待してしまう。
「さあ、ハルガードよ。オーブに手をかざすのじゃ」
学長の言葉を受け、僕は固唾を呑んで恐る恐るオーブに手を近づけた。緊張から、僕の手はプルプルと震えてる。そして、虹色の模様が揺らめいて、僕の固有スキルを眼に映し出した。
「お主の固有スキルは……【薬識】じゃ」
あれ、なんか戦闘向きっぽくない響きなんだけど?
辺りの空気が一気に冷えた気がした。
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