第37話 それぞれの思惑

「イッキ…またアホなことを…。騎士のお前らも、アイツに付き合うな」

ロベルトがピラミッド騎士団を嗜めた

イッキの方は半ば諦めているロベルト


「ロベルト様、これも訓練ですっ」

隊長が代表して答えた

「「そんな訓練あるかっ!」」

ロベルトとザジがハモる


「や、兄さんにザジさん。2人もどうかな?」

額を赤くした馬鹿が、話しかけながらやって来る

「阿呆! 堂々と覗きに誘うなっ」

真っ当なことを言うロベルト。しかし、内心は見たいはず…。その証拠に体がウズウズしていた

「この薄い板に耳を当ててみて」

イッキは2人に言った

仕方なしに2人は耳を当てる

ロベルトの方は違うが。それに周囲のお客さんも便乗した


〜〜〜


「あら。ヌレハさんの左胸のマーク、可愛いですね」

ヌレハの左胸にはイッキの配下となった証…大小のハートが斜めに半分ほど重なったモノと、その両側には羽が同じように赤い線で描かれていた

「だよなっ! アタシもすげー気に入ってるんだぜ」

ヌレハは誇らしげに胸を張った。凶悪な2つの乳房がバインと弾む


「でしたら…エリザさんにも?」

パンジーが何気なく言った言葉を聞いたエリザが、スーっと距離をとった

「逃げなくてもいいじゃねーか。見せてやれよ?なあっ」

ヌレハに捕まったエリザ。後ろ側から、ざばっとエリザを水揚げした


「ちょっと?!何をするんですかっ!」

エリザは急に立たされてしまって、慌ててタオルでアソコを隠した

「マルーンっ! …エリザいいじゃんか。別に減るもんじゃないだろ?」

姉妹の連携プレーで、エリザのタオルが盗られる。すると…


「エリザさんは下腹部…それも結構下側にあるんですね」

パンジーがエリザの証を見て言った

「だろっ?結構ギリな所だよなっ」

エリザの証…黒い塗り潰されたハートが中央に逆位置で、左右には羽と呼ぶには凶々しいが、羽のようなモノが三対…6枚あった


「パンジー、あまりじっくりと見ないでください…」

エリザは赤くなる

「おねーちゃん達いいよねー。あたしも証が欲しーんだよ…」

マルーンが2人の証を羨ましそうに見る

「マルーンちゃんは証が無いんですか?」

パンジーが聞いた

「うん。だって配下じゃないから…。パンジーさんと同じだよ。あたし達も欲しいよね」

マルーンは悲しそうな顔をしたが、パンジーを気遣って答えた



〜〜〜



「「「………」」」

「ま、まぁ…姦しいというか…何というか…」

ロベルト以下略は、女風呂の生の声を聞いて元気になった。特定の一部分だけだが…


「しかしイッキ、お前の事だ。別にこんな覗きをしなくても、いつでも見れるんだろ?」

「何、馬鹿なことを兄さんは言ってるんですか? いつでも見れる?配下の彼女たちじゃあるまいし」

「ん?」

「え??」

兄弟の会話は食い違っていたようだ


「まさか兄さん、僕が配下の裸を見るために、わざわざ覗きをしていると?」

「え?!違うのっ?」

「この…クソ馬鹿っ! 違うっ。いいですか?領民や騎士・兵士、それに冒険者の女性が、沢山いるじゃないですかっ!

さっきから黙ってるザジさんっ、オークからの危機を逃れて浮かれている今が…まさに好機だとは思いませんかっ?!」

ゲスは熱く…とっても熱く熱弁した


「俺っ?! …まぁ、そっちの話で進めるなら、確かに今がチャンスだな」

まさか自分に矛先が向けられる事など、予想もしてなかったザジが真面目に答えた


「だったら、それを踏まえてもう一度聞いてみなさい」

イッキが、『もう一度やれよ』と言った



〜〜〜


『イッキ様、お変わりなくて良かったですわ』

『そうね。あのお方…可愛いくて、私好き』

『えっ?!やっぱりあなたも?』

『あの方を好きだって言う娘、騎士団所属なら殆どじゃない?』

『だよねー』

……

………お手付きになりたいわ』

騎士団所属の騎士・兵士に絶大な人気を誇るイッキ。塀に耳をつけて聞いてる本人は、ニヤリといやらしい笑みを浮かべている

……

『なになに?何の話??』

『どうしたのー?』

新しく女の子が会話に加わった

『え? あぁ、イッキ様が素敵だねって話してたのよ私達』

『イッキ様? あのいやらしいお方?』

『そうそう、あの小僧、目つきもエロいけど…もう雰囲気がスケベなオーラを出して、冒険者の仲間も嫌がってるわ』

冒険者と思われる女性がイッキを嫌いだと言った


『あら、冒険者の方もですか?私達も領主様の御子息にしては、ちょっとどうかな…と、思っているんですよ』

領民と思わしき女性たちも参加した

『なぜ騎士団の方々が、あの小僧…失礼、あのイッキ様を、敬愛されているのか分かりませんわ』

騎士団と違い、領民はイッキを知らない人が殆どだ。こんな評価でも仕方ない


『あなた方はイッキ様を知らないから、そんなこと言えるのよ。本当のあの方を知れば、好きになっちゃうわよ?』

騎士団の1人が言った

『『いやいや、それはないでしょ』』

『あの方といえば、ロベルト様…カッコ良かったわね』

『『はぁ?!』』

『あなた何を言ってるの?頭大丈夫??』

冒険者の1人がロベルトをカッコいいと言った。騎士団と領民がそれに猛反発をする


『あのロリベルトがカッコいい訳ないでしょ』

『そうそう、脳筋で考えることをしないお方ですよ?』

ひどい言われようだ

『えっ?オーク戦知らないの??』

『そうよっ。あの方、一部の冒険者たちを助ける為に、オーク陣営に1人で突っ込んだのよ』

『『嘘だぁ』』

……

……なんだってば』

いくら冒険者仲間からの又聞きとはいえ、かなり事実と異なっていた。少しは本当のこともあるのだが。

『ふーん、あの方が…ねえ…』

『私たちも、少し見直しましたわ』

『でしょ?それにロベルト様、結構体つきが逞しくてステキだよ』


塀に耳をつけて聞いてる本人が、顔を赤らめていた


〜〜〜


「ちょっとそこのロリっ!少しばかり株が上がったからといって、調子に乗らないっ!」

嫉妬したイッキが、プンプン怒って言った

「べ、別に調子に乗ってなどないっ」

言い掛かりは止めろよな、と言わんばかりに反論するロベルト

「鼻血を出してるのに、そんなことを言うのですか?頭がおかしいんじゃないですか?」

?!

「え?マジっ?!」

ロベルトは腕で拭った…が、

「嘘じゃんっ! 鼻血なんか出てねーし!」

ロベルトは騙された事に腹を立てた


「ふっふっふ…。甘いですね兄さん。今とった行動が全てを物語ってますよ」

「え?? …どういうこと?」

ロベルトは頭を捻る

「ロベルト様…、残念ながらロベルト様の負けです。イッキ殿の口車に、まんまとハマってしまったのですよ」


「なぬ?!ザジ、それは誠かっ?」

ロベルトは、『しまったー、コイツにやられたー』と言わんばかりの顔をする


「そんな兄さんには、罰ゲームですね」

お怒り中のイッキが罰ゲームを宣告した

「なんでそんなことしないといけねーんだよっ!」

「シスに鼻の下を伸ばし…いや、竿をおっ勃てたと伝えて…

「分かったよっ!やるよっ。やりゃいーんだろっ?」

ロベルトは連敗した


〜〜〜


「…なぁ。なんで俺がピラミッドの頂点にいるんだ??」

「分かりません。ただ、罰ゲームで…としか言いようがないですな」

頂上と2段目の、ロベルトとザジが会話する

「それはですね、ロベルト様が頂上にふさわしいお方だからですよ」

と、2人の会話に隊長が割り込んだ

「「そうだよねっ」」

ロベルトとザジは仲良く納得する


「おや?ザジ殿、足がプルプルしてますよ?」

2段目隣の隊長がニヤッと笑う

「くそっ! なんのこれしき…」

ザジは踏ん張り、結果頂上のロベルトの位置が高くなった


「ザジやめっ…俺が塀から出てしまうっ!」

ザジの頑張りで、もう殆ど塀から出ているロベルト

女風呂からもロベルトが丸見えである


「兄さーん。パースっ!」


"スコンっ"


「ふぐぁぁあーーっ!」


イッキは間抜けな声と共に、石鹸を投げた。

全然パスじゃない…全力投球だ

それが狙ったかの様に、ロベルトの金玉に当たる。いくら非力なイッキとはいえ、当たった場所が悪かった

ロベルトは断末魔の様な声をあげて、女風呂に落ちていった



『『『キャァァァーー?!』』』

『脳筋のロベルト様に犯されるっ!』

『いやぁぁーっ!こっちに来ないでよっ』

女風呂から悲鳴があがる



「イッキ殿っ、何を?!」

ザジが下にいるイッキに問う

「え?イッキ様なら裸で、風呂場から出て行かれましたよ?」

副隊長がイッキの代わりに答えた


「裸で…出て行った??」

ザジはイッキの不思議な行動に、理解が及ばない

と、直後…

『おのれ兄さんめっ! 全裸で堂々と女風呂にお邪魔するとはっ。やっていい事と悪い…ぐへへっ。おっと、涎が…

兄さんを追ってきたら、女風呂だったよ…どうしよう?

…うわーい、おっぱいがいっぱーい

ねぇ、吸ってもいい??』

女風呂から、馬鹿の声が聞こえてくる


『キャァァァーーっ!イッキ様がいらしたわよっ❤️』

『あんたも全裸じゃないっ!』

『うわっ、この兄弟…最悪ね』

『イッキ様〜、私たちの中で誰が好みですか?』

『ちょっ?!やめなさいよっ』

『小僧っ、アニキを連れて出ていけっ!』

女性たちのイッキに対する感情は三者三様だ


「出ていけと言われて、出ていくものですかっ! 早く逃げないと…吸われちゃうよ?僕にっ」

もはやイッキの頭の中には、ロベルトのロの字も無かった



「「「…………」」」

「女風呂…大惨事だな」

「やはりイッキ様は、とんでもないお方だ」

事を知る男たちは殆どが絶句した

……

(な、なるほど…。策を巡らすというのは、こういうことかっ! ロベルト様の為に、イッキ殿をよく観察せねばっ)

ザジは観察対象をガッツリと間違えるが…

のちにこれが彼の得意分野となる。

"はかりごと"を彼が学ぶ始まりであった

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