第16話 ダン

「…シルバーブレットには1週間の雑用を命じる。皆の者もよいな?」

偉そうなおっさんが途中から、ニヤニヤしながら言った

「「「異論なし!」」」

「「……」」

「「「くっ…」」」


周囲もおっさんに同調するように、賛成の意を示す。悔し顔をして俯いているのは、ジェシカたち3人と、ちらほら居る女性の方々ぐらいか…

「じゃ、じゃあ俺らも雑用言いつけていいんで?」

「…あぁ好きにしろっ。これは罰だからな」


「「うひょーっ!」」

「よーし…」

「俺、何をさせようかな」

「夜の相手とか、いいよなっ」

「全員参加でやるか?」

男共の目付きが変わり、騒がしくなる


「マスター、それはあんまりです。今回は見間違いということで…責任は無いと思います」

ギルドのカウンターに座っている女の人から声があがる

「そうですよ。罰はありえません。それに前々からシルバーブレットに対して、嫌がらせが目につきます」

どっかのパーティーの女性からも、声があがった

「黙れっ、ワシが決めたんだ。拒否も逃走もできんぞっ! それにこれは妥当な罰だ。いいか、ギルドの受付……」

おっさんは受付のスタッフさんにガミガミと説教を言い出した。頭に血が昇ったのか、自分の世界に入ったのか…周りが見えなくなったようだ。


……

「ちょっといいかな?」

全員が一斉に僕を見る

「なんだ小僧、質問か?」

1番近くのおっさんが答えてくれた


「うん、質問。というか疑問?」

「何なんだそれは?言ってみろよ。今俺たち気分がいいから、誰か答えてくれるかもしれんぞ?」


「シルバーブレットていうのは?」

「イッキ、それウチらのパーティー名だ」

ジェシカが答えてくれた

なるほど。ギルドに登録しているパーティー名ね

「あの偉そうなおっさんが、ギルドマスターなの?」

ゆびを指して聞いてみる

「こっ、小僧?! 聞こえたら拙いぞっ。その通りだが、言葉に気をつけろ」

王都のギルドでマスターか…

じゃあ1番偉いんだな


「あと、1番の疑問なんだけど。誤報でペナルティー? それは適切なの??」

「………」

急に黙るおっさん

「黙ってないで、答えてくれるかな?」

つぶらな瞳で相手を見る僕


「そ、そんな腐った魚の目で見つめんじゃねぇ?!

気持ち悪い小僧だっ…分かった、話そう」

瞳が腐った魚の目だと?!

それに気持ち悪いは言い過ぎじゃない?


「あそこのパーティーの子が言ったが、確かにペナルティーはありえない。誤報したとはいえ、実害が出た訳じゃないし、王宮に知らせるどころか…まったく動かなかったからな」

彼女たちに悪意はない。僕がクイーンの件を伏せたからといって、話を聞く限り過失があったとは思わなかった

しかし、だとすると…

これから先の会話は危険か?人のいない所…あった。あそこなら良さそうだね

おっちゃんついて来てと隅に連れて行く僕


……

「暴走…? いや、善人ではないということか」

「?! …こ、小僧、何者だっ?」

「おっちゃん、知ってることを話してもらうよ?」

エリザを真似て、ピンポイントで邪なオーラをぶち当てる

「あっ、あぁ…ここだけの話だが…」


………

……

なるほどね。ギルドの本店なのに、女性のパーティーが…いや、そもそも女性が少ないのは、マスターが絡んでいたからか。

「シルバーブレットが今回のタゲにあがったと?」

「あぁ、そうかもしれん。前からマスターがアイツらにちょっかい出してたからな…」

「ちょっかい?」

「3人とも可愛いし、綺麗だろ?…特にジェシカなんて、シスターで気が強い。マスターがセクハラしても不思議じゃねぇぜ」


「セクハラ?」

「あぁ、何度か胸を触られたとか、ジェシカが言ってたらしいぞ。あとの2人もそれなりに被害を受けてたんじゃねーか?

さっきも言ったけどよ、俺が知ってる限りでは、女性だけのパーティーが3つ、個別でも数人やられたらしいぞ?」

落ち着けー…落ち着けよ僕っ

……

ふぅ…


「その人たちはどこに? 本人たちから詳しく聞きたいな」

おっさんにこれ以上聞いても、詳しくは分からないだろうと考えたよ

「それがな…分からねーんだ。…みんな行方不明になっちまった…

みんな、結構いい子たちだったのによ…

…何人かは、俺とも仲が良かったんだぜ?」

おっさんは、しんみりしてポツリポツリと話した


「おっちゃんもういい。理解したよ、ありがと」

苦しそうに話すおっちゃんにストップをかけた。顔色もすぐれない

そうか。最悪、生きて地獄にいるかもしれないな…

「おっちゃん、最後に1つだけ聞くよ?…その彼女たちが行方不明になってギルドは動いたの?」

「いや。動かなかった…。

…違うっ、動けなかったんだ俺たちはっ!!

マスターが禁令を出したからだ」

おっちゃんはいつのまにか泣いていた

うん、もう黒だな。間違いなく


「それじゃ、例えばギルドで1番偉い人が行方不明になっても、ギルドは動いたらダメだよね?」

「お、お前いったい何を言って…

「ストップ! それ以上はいけないよ?

おっちゃんはコレに関して関係ないからね。

あ、そうそう。ジェシカたちの味方になってよ。おっちゃん、頼むね」

おっちゃんにお願いしてから、エリザの方へ歩き出す僕

……

「俺はダンだ覚えとけっ」


後ろから声が聞こえたから1度足を止めた。

(ダンか…覚えておくよ)

僕は振り返らずに、右手をあげてまた歩き出す

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る