第4話 着物デート②

 少し、びっくりした。


 また知らない妖と出会ったこともだが、火坑かきょうが怒っていたことも。


 注意することはあっても、一度も怒ることはなかったのに。そんな彼が、一人の妖に対して怒っていた。


 たしかに、相手も相手で。尾行しかけていたとは、犯罪の一歩手前ではあったが。新聞記者だったから、職業柄仕方がないと言うべきか。


 けれど、美兎みうをスクープにしたところでなんの意味もないと思うが。


 とりあえず、『かごめ』を出てから。火坑は電車で移動しようと言い、名古屋駅に移動したのだった。



「さて、どこからいきましょうか?」



 響也きょうやとして人間の姿になってる火坑は、猫人のような涼しい笑顔で美兎に聞いてきた。



「? 響也さんのオススメなんですよね?」

「それもですが。美兎さんのリクエストも聞きたかったもので」

「リクエスト?」

「まだ早いですが、お腹が空いているのなら柳橋やなぎばしから行こうかと」

「ん〜……お腹はまだそんなに」

「でしたら、ウィンドウショッピングといきましょうか?」

「はい!」



 ただ、百貨店に行くと。



「あ、美兎ちゃーん!」



 エレベーターで適当に降りた先で、久しぶりに栗栖くるす紗凪さなと遭遇した。烏天狗の翠雨すいうも当然一緒だったが。



「久しいな?」

「その節は、食材を届けてくださってありがとうございました」

「大したことはしてない。……今日は揃って着物か?」

「ふふ。四月以降に京都へ行く予定なので。その予行練習です」

「なるほど」



 去年のようにダブルデートになるかと思いきや、二人は映画を観に行くようで。すぐに別れることになった。



「驚きました」

「ええ、本当に。他にも出会うかもと思ってしまいそうです」

「ふふ」



 それが本当になるかと思いきや、意外にもそんなことはなく。百貨店などでウィンドウショッピングを楽しんでから、柳橋に移動する。


 少し裏通りに面していたので、道で転けないように気をつけた。


 最も、火坑が転けないようにエスコートしてくれたお陰もあるが。



「ここですよ?」

「わぁ……」



 テレビなどで、東京の築地などは見たことはあるが。


 海から遠い名古屋での生鮮市場は初めて見る。とは言っても、今日は休日なので火坑が普段利用する市場は閉まっている。


 代わりに、食べ歩きや小さな食堂のような店があちこちに並んでいた。


 築地でもあるような玉子焼き屋から漂う匂いに、美兎も流石に小腹が空いてきたが。



「ふふ。買いましょうか?」

「うう……」



 腹の虫の音が聞こえてしまったのが、正直言って恥ずかしかった。


 とりあえず、火坑に買ってもらった玉子焼きは。


 少ししょっぱいが、甘くてとても美味しかった。そんな感じに食べ歩きしながら柳橋を回り。


 お茶屋さんでひと息つくまで、美兎達はたくさん食べに食べて。


 着物デートとは言え、服装以外は普通のデートだと思えるくらい、楽しむことが出来たのだった。

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