第2話『薔薇のチョコクッキー』①

 薔薇のチョコクッキー。


 なんと言うか女心をくすぐるワードではあるが。



「……先輩。初心者に難しくないですか?」



 渡されたレシピの写真を見てから、美兎みう沓木くつきに聞いたのだった。



「大丈夫よー? 生地さえしっかりしてれば、あとは粘土細工のようなものだし」

「いえ、粘土って」

「可愛いらしいじゃなあい? あたし作るわ〜!」

盧翔ろしょう……さんのためにも」

「みほ、こう言うの好きかしら?」



 などと、美兎以外はやる気満々だ。なので、美兎も火坑かきょうのために、と作ろうと決めたのだった。


 まずはチョコを湯煎とレンチンで溶かす作業をすることに。


 全員でチョコを刻んでは湯煎と、レンチンにかけて溶かしていく。



花菜はななちゃん、早いわねえ?」

「一応……料理人の端くれなので」



 専用の手袋で調理している花菜の手元がブレてよく見えにくい。けれど、怪我する事もなく綺麗に刻めているのだ。



「はぁ〜い? 粉類はふるっておいたわ〜」



 宗睦むねちかこと、チカは途中から粉類を振るう係になってもらったので。部屋中にチョコの香りが充満している中で、次の作業に移ることに。



「じゃ、溶かしたチョコが熱いうちに砂糖を入れて混ぜて」



 その後に、卵。


 その後に、振るった粉類。


 まとまってきたら、手で生地の中身が均一になるようにひとまとめしていく。



「ひとりにつき……この大きさならだいたい三つ分ね? 芯、花びら……と分けていくんだけど。花びらの方は外側に行くにつれて生地の分量を多くして丸めてね?」

「は〜い、ケイちゃん先生!」

「はい、チカさん」

「なんで、外側につれて大きくするのん?」

「いい質問。外に行くにつれて、花びらって大きいでしょ? そのためなの」

「へ〜〜?」

「わ、わかりました!」



 そこからは、沓木のアドバイスも加えながらまずは丸めていき。だいたい三組分出来上がったら、軽く紅茶を飲んでひと息。


 けれど、ゆっくりは出来ないので、すぐに作業再開だ。



「芯に沿って、まず一番小さい丸を。少し平たく伸ばして、芯に巻きつけていくの」



 そして、何個かを潰して貼って。を繰り返したら、たしかに花の形になっていた。



「先輩すごいです!」

「ありがと。けど、このレシピ。たか君から教わったの」

「? 相楽さがらさんから?」

「インパクト大の、バレンタインプレゼントならこれがいいんじゃないかって」

「あいつらしいわねぇ?」

「え。先輩。相楽さんにもこれ渡すんですか?」

「本職には敵わないけど、一応そのつもり。これじゃなくて、もっとビターにするけど」

「なるほど……!」



 ただ、だんだんと底が長くなっていくので大丈夫かと思ったが、ここでもケイちゃん先生のアドバイスが。



「だんだん底が長くなっていくでしょ? ゴムベラなどで削ぎ落として。また花びらだったり、葉っぱを作るのもいいわ」



 と言われたので、美兎は葉っぱにしたのだった。出来上がった花は、本当に綺麗な薔薇そのものになったのだ。



「綺麗……!」



 少しいびつだが、きちんと薔薇の形になっている。


 火坑は喜んでくれるだろうかと、少し期待してしまうのだった。



「あとは、170℃ののオーブンで二十分くらい焼いたら完成ね? 二台もあるから、全員分焼けるわ」



 なので、片付けをしてからコーヒーブレイクすることになったが。花菜がうっかり手袋を外してしまったので、彼女の分だけカチカチのアイスコーヒーになったのを笑ってしまったのだ。

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