火車 弐

第1話 女子?の集まり

 ここは、錦町にしきまちに接する妖との境界。


 ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。


 たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。


 元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵らくあん』に辿りつけれるかもしれない。










 空木うつぎ夫妻と再会してすぐの休日。


 今日、美兎みうは錦の界隈で初の場所にいたのだった。



「ひっろ!? エレベーター直ぅ!?」

「やっぱり兄妹ね? 反応一緒」

「褒めてる?」

「もちろん」



 今日は界隈にある、守護兼将来の義姉になる予定の座敷童子である真穂まほの自宅に来ているのだ。


 理由はひとつ。美兎の家やこれから来る予定の人達の家でも手狭だからだ。


 美兎は先に来て、今日来る予定の人に言われた調理道具を真穂と確認するため。ひと通り揃ってはいるらしいが、ほとんど自炊しない真穂なのでその確認は重要だ。



「じゃ、探そう!」

「そうねー? まだみほはそんな来てないから、いじってないはずよ」

「相変わらずラブラブ?」

「ふふーん」



 本来の意味ではまだ結ばれていないにしても、心を通わせるのはいいことだ。美兎も、恋人で猫人の火坑かきょうによくてほっぺにチューだけだと、まだまだお子ちゃまなのだろう。


 とにかく、調理道具をあらかた探して。業務用のミキサーボウルを見つけた時にエレベーターの音が聞こえてきたのだった。



「うっわ、広!?」

「お、お、お邪魔……します!!」

「真穂さまぁ〜? お邪魔するわよん?」



 沓木くつき桂那けいな。雪女の花菜はなな、狐狸の宗睦むねちかことチカ。


 ひとりだけ男性だが、今日は女子だけのバレンタインプレゼント作りだ。チカはこの前、楽養らくようで花菜がうっかり口を滑らせた時に行きたいと豪語したからだそうだ。


 とは言え、ある意味ゲイ、のようなチカがいてくれれば力仕事は任せられるだろうと、真穂が言ったらしく許可したそうだ。



「参加条件の材料、買ってきたかしら? チカ」

「仰せのままにー! たっぷり買ってきましたわー!!」



 あと、半分以上の材料調達と購入も。


 さすが身体は男だからか、割れやすい卵以外はしっかりマイバックに入れてきたのだ。



「さて。今日はバレンタインのプレゼント作りだけど。私はある意味ほとんど初対面だし、改めて自己紹介しましょうか?」



 と、沓木が言うので。要冷蔵の食品を冷蔵庫に仕舞ってから簡単に自己紹介をすることになった。



「ゆ、雪女……の花菜と言います。火坑兄さんの妹弟子で、普段は楽養と言う店で働いて……ます」

「狐狸のチカよ〜ん? 一応宗睦って言うんだけど、チカでいいわ〜! 『wish』って界隈のBARで働いてるわ〜。出張バーテンダーもしてるわよ?」

「座敷童子の真穂。美兎の守護であり、将来のお姉ちゃんにもなる予定」

「あ! 真穂様、あの噂本当なの!?」

「わ、私もちょっとしか!」

「え、なに? 湖沼こぬまちゃんのお兄さんと真穂ちゃんが付き合ってるの??」

「せいかーい」

「まだ、半月らしいですけど」

「あらそう? えーっと、私は赤鬼の隆輝りゅうきの連れで。湖沼ちゃんとは会社で先輩後輩です。沓木桂那よ」

「あら〜? りゅーちゃんの彼女〜?」



 話に華が咲いたが、今日は単純な女子会ではないので。


 早速、バレンタインプレゼント作りに取り掛かることになったのだ。



「先輩、何を作るんですか?」



 材料はチカに。レシピは完全に沓木に頼んでいたので、美兎は今日初めて知るのだ。


 美兎が聞くと、沓木は持って来ていたカバンから数枚の紙を出して、全員に行き渡らせたのだった。



「今日は、薔薇のチョコクッキー作りよ!」



 なんとも、壮絶な作業を思い描けるレシピだった。

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