第7話 元旦に初詣②

 とりあえず、大須おおす観音かんのんに向かうのに地下鉄のホームから地上に上がり。


 美兎みう火坑かきょうと、沓木くつき隆輝りゅうきと。それぞれ振袖なので恋人達にエスコートしてもらいながら、ゆっくりと階段を上がる。


 大学の卒業式はドレスだったので、成人式以来の草履には少し注意しなくてはいけない。あとで火坑の足を踏まないようにも。


 ちなみに、火坑の容姿は元の香取かとり響也きょうやに戻っている。あの変貌ぶりは美兎にとっては目の毒過ぎるし、目立って逆ナンされるだなんてもっと嫌だった。


 沓木にも頷かれたので、火坑は元の響也に戻ったわけである。妖の姿が本来の姿なのに、戻ると言う言い方は語弊かもしれないが。



「さて、もうすぐ地上です」



 火坑に言われて、期待が膨らんでくると。地上の階段を出た途端に、喧騒が耳に届いてくる。エレベーターを使わなかったのは、元旦で混み合ってたせいもあるが。


 とにかく、祭りの喧騒に期待が高まらないわけがない。しかも、元旦でデート。


 一番混み合っている時間帯だろうに、隆輝と火坑のお陰か美兎と沓木は振袖ででも人混みで苦しむことはなかった。



「ああ、美兎さん」



 火坑が進む前に、美兎の耳元に顔を寄せてきた。



「?」

「その振袖、よくお似合いですよ? 本当なら見せびらかしたくないくらいに」

「き、響也さん!?」

「ふふ」



 相変わらず、不意打ちが凄い。


 思わず、籠を持っている手をその耳に当てたが。少し熱く感じた。なのに、火坑は涼しい笑みで前を向くだけだった。



湖沼こぬまちゃん達、行くよー?」

「あ、はい!」

「行きましょうか?」



 腕を組むと動きにくい日なので、手をしっかり握っていくスタイル。しかも、火坑となので安心の恋人繋ぎで。


 嫌ではないのだが、少々気恥ずかしい。初彼でもここまで羞恥心を感じたことがないのに。やっぱり、将来を約束した彼氏だからだろうか。妖とかは関係ないだろうから。



「湖沼ちゃん、聞いてなかったけど。お腹の空き具合とかは?」



 少し前を隆輝と歩いている沓木が振り返ってきたのだ。



「あ、いえ。お雑煮とかのおもち……たくさん食べたのでまだ」

「はは! 私もだね? 実家帰っちゃうと異常に食べちゃう!」

「先輩はご実家も八事やごとなんですか?」

「そ。他の区に住んでも良かったけど。大学も全部八事で済んだし? けど、たか君と結婚したら多分この近くに住むと思うわ」

「はは? 俺頑張んないといけない?」

「私も頑張るけど、当然でしょ?」



 微笑ましい光景だ。隆輝も見た目だけなら、爽やか風兄貴イケメンでしか見えない。沓木はサバサバしたお姉さんだからか、とてもお似合いだ。振袖も美兎のピンクとは違って、大人っぽい青。


 わずか二年だけなのに、それだけ雰囲気が違うのは。


 隆輝と出会えたからなのだろう。会社で、田城たしろがいない時に聞いた、二人の出会いはとてもときめくから。


 美兎と火坑とは大違いだった。



「あ! たこ焼きだけは食べれるんじゃない!?」

「隆君、私達の話聞いてた?」

「けどさ? 屋台って聞くとたこ焼きじゃん!? 俺がほとんど食うし、買うから食べようよ!!」

「はあ……」



 妖なのに、屋台の料理は目移りしてしまうのだろう。隆輝の方がはるかに年上であるのに、火坑以上に沓木や美兎よりも年下に見えたのだった。



「あの、僕から提案が」



 火坑が挙手をすると、ちょっと重そうだと思ってた肩掛け鞄を軽く持ち上げたのだ。




「提案、ですか?」

「軽く、ですが。雛握りのおにぎりを作ってきたんです」

「え、マジ!?」

「香取さんの手料理!?」



 なら、大須の商店街の手前にある、寺の空いてそうなスペースまで移動して。


 火坑が小さめの重箱を開けてくれたら、美兎と沓木は声をあげたのだった。



「可愛い!!」

「綺麗です!! それにいくら!?」

「ふふ。僭越ながらいくらは手製です」

『凄い!!?』

「きょーくん、器用?」

「隆輝さんほどではないですよ?」



 おそらく、白い酢飯を丸く整えて。薄切りの蒲鉾を花のように見立てて海苔の代わりにぐるっと巻いて。仕上げに、いくらを花の中心にと載せてあり。


 目にも楽しい、いくらと花蒲鉾のおにぎりが詰められていたのだった。

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