第6話 元旦に初詣①

 一月一日、元旦。


 新社会人となって一年目の、美兎みうとしては喜ばしい吉日。


 先輩の沓木くつき達もいるが。それぞれの妖の彼氏と一緒に初詣に行く予定である。だから、美兎は実家で年を越してから軽く仮眠を取り。


 まだ成人してから三年程度しか経っていないので、母にお願いしていた振袖に袖を通すことにした。


 これは、沓木と決めたので。おそらく男性陣にはバレていない。着付けは全部自分では出来なかったので、そこは母もだが兄の海峰斗みほとにも手伝ってもらった。


 何故兄を加わらせたのは、最終的な帯締めのため。本職でもないのに、きつくなくけれど崩れにくい結び目を作れるからだ。


 昔、母が親戚の結婚式の時に留め袖を着るのに、遊び半分で高校生の海峰斗が締めたのだが。これが好評過ぎて、以来お駄賃を菓子などでもらう代わりに請け負うことになったのだ。


 社会人になってからは、さすがにほとんど断っているらしいが。久しぶりでも、海峰斗の腕は衰えていなかった。



「じゃ、行ってきまーす!」

「おう、楽しんで来いよ?」

香取かとりさんによろしく言ってよー?」

「うん!」



 メイクも髪もバッチリ。最高の状態で大須おおす観音かんのんに行くべく、昼前に地下鉄に乗ろうとしたのだが。


 メインで使う、水色の線が特徴の鶴舞線もやはり利用者が多く。途中で乗ってくる沓木と合流しにくい感じだった。なので、個人のLIMEですし詰めになりそうだから車両合流が難しいと告げると。


 ちょっと待て、とすぐに返事が返ってきたら。



「お待たせ」

「はえ!? 先輩!!?」

「はーい、驚き過ぎ。とりあえず、明けましておめでとう?」

「あ、あけましておめでとう……ございます」



 何故、八事やごとにいるはずの沓木は逆方向の平針ひらばりに。しかも、反対の路線はまだ来ていないのだ。


 疑問に思っていると、彼女は親指で後ろを指した。



「明けましておめでとう、湖沼こぬまさん」

相楽さがらさん!? あ……けまして、おめでとうございます」



 今は人化している、赤鬼の隆輝りゅうきも一緒と言うことは。十中八九、妖独自の魔法。妖術を使ったのだろうと、美兎にも見当がついた。


 だったら、守護についてもらってる座敷童子の真穂まほを呼べばよかったかもしれないが。真穂は真穂で新年の祝いを最強の一角として界隈で忙しく動いているらしい。


 ので、三が日以降までは美兎とも会えないのだ。



「んふふ。あんまりおおっぴらに使えないけど。たか君の瞬間移動。ちょっとだけなら使えるから」

「お、お気遣いありがとうございます」

「まー? 私服ならともかく、振袖って言ったのは私だし? 平針もこの時間結構混むもの。使えるとこは使いましょ?」

「さあさあ、お嬢さん方。とりあえず、端に移動しよう」



 外のバスターミナルだと人目があり過ぎるので、最後尾の車両が止まるホームまで移動して。


 隆輝が軽く手を振った途端に。


 景色は、同じようで違うホーム。大須観音の地下鉄ホームに到着していたのだった。



「わお!」

「時間よりも早く来ちゃったけど。火坑かきょうさんはどうなのかしら?」

「あ! 聞いてみます!」



 隆輝の妖術を使ったまでの経緯等々を火坑にLIMEで伝えれば。『では、僕も』と返事が返ってきたと同時に、三人の目の前に誰かが現れたのだった。



「皆さん、明けましておめでとうございます」



 人化して、香取響也きょうやとなっていた火坑が出てきたのだ。



「あら、かきょ……香取さんって間近で見るとフツメンじゃないわね?」

「そうですとも、先輩!!」

「ふふ、ありがとうございます」

「けどさー? きょーくんはあっちの方がイケメンなのにもったいないよ?」

「いえ、実は」



 と、火坑が咳払いすると美兎達は揃って首を傾げた。



「何かあったんですか?」

「はい。僕が現世に転生して……師匠のもとで人化を学んだんですが。僕らしく変化すると……良過ぎて師匠に空手チョップをやられたもので」

「え、もっとかっこいいきょーくんが見れたかもしれないのに!?」

「はい。それでこの顔に落ち着いたわけです」

「……見てみたいわねえ?」

「……ちょっと、だけ」



 人間の姿で、美形な火坑。


 興味がないわけじゃないので、美兎も正直に言うと。


 火坑が軽く手を振った後に、美兎はその美形過ぎる顔に霊夢れむがやめろと言った意味がよくわかったのだった。


 何せ、烏天狗の翠雨すいうが霞むほどのイケメンだったからだ。

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