第4話 楽養では

 狐狸こり宗睦むねちかから聞かされた内容は、黒豹の霊夢れむもだが、弟子の狗神だった蘭霊らんりょうの度肝を突くくらい、驚かされた。



「あの、小僧! 気があるない風態してて、うちの花菜はななをか!?」

「……だな? 生意気面は火坑と変わんねーが、まさかあいつまでとは」

「そうよん? あたしも、まっさかあいつがね〜とは思ったわ〜?」

「だな? ところで、チカ。おめー平気か?」

「早く受け取ってぇええええ!?」

「ちょっと待て。手袋してくる」



 雪女の花菜の冷気を吸った物体は、しばらくその冷気が溶けることがないので。それが狐狸であれ、辛いことにかわりない。とりあえず、店の席に適当に置いてもらった。



「んもぉ〜〜、盧翔あいつの生意気っぷりは、火坑きょーちゃんより上だと思うわ〜? あたしが花菜と歩いていただけで、すっごい形相できたんだものぉ」

「くく。ちぃっと拝んでみたかったな?」

「だな?」

「とりあえず〜、話するって言ってたから遅れるそうよん? 花菜を無闇に襲いはしないだろうけどぉ?」

「無理だろ」

「無理だ」

「同時に言う〜?」

「雪女や雪男の冷感をちぃっとでもわかっただろ?」



 今は霊夢と蘭霊が専用の手袋をはめて、手分けして冷蔵庫や冷凍庫に入れているが。わずかに冷気を感じる程度。


 直に触ったに等しい、宗睦も理解したのか。蘭霊に手渡されたホットおしぼりで勢いよく手を温めていた。



「なるほどなるほどぉおおお!? あれを直にハグするだなんて無理ね!? 手袋越しじゃなきゃ難しいのぉ!?」

「俺ぁ、あいつの親父さんとかが挨拶した時に聞いた程度だが」

「服の上からでも、冷感はあんま防げないっつってたな?」

「な?」

「え〜〜? 盧翔、今頃大丈夫かしらん? あいつ、結構オープンな性格だからぁ?」

「身を持ってしれ」

「としか言えない」

「だよね〜〜?」



 とりあえず、本日霊夢達がすべきことは彼らを祝うのではない。


 元弟子であり、界隈に店を構えている猫人の火坑かきょうとその恋仲になった人間、湖沼こぬま美兎みうの祝賀会。


 その猫人に頼まれて、予約が一件入っているのだ。宗睦は界隈随一のバーテンダーとして、楽養ここに出張しているわけだ。


 花菜も当然、美兎の友人として祝う予定ではあったが。今日はどうなるやら。


 霊夢達も祝い酒を飲みたいところだが、仕事前なのでそれは出来ない。


 仕込みのだいたいは終わってはいるので、後は二人が来店してから仕上げるだけ。


 だいたい、19時前には来るとは言っていたので、まだ時間に余裕はあるが。飲み過ぎると面倒な奴がいるので、開けるのは許さないつもりだ。



「とにかくぅ〜? 大神おおかみが縁繋ぎにわざわざ関わっていたくらいなのよん? あいつら、神の縁繋ぎの候補にとっくに入ってたらしいわん」

「あいつに?」

「ってことは、10月神無月からストーカー紛い……」

「怖いこと言わないでよ、蘭!?」

「いや、可能性を言っただけ」

「つか。それなら、今日来るメインゲストの方も、関わってたんだろうなあ?」



 蘭霊と同種繋がりで神になったあれは、蘭霊と同じく結構お節介焼きだ。出会ったえにしを蔑ろにはしないだろう。


 目を合わせれば、奴も苦笑いした。



「だな?」

「花菜にちょこ〜っと聞いたけどぉ。盧翔が気に入るくらいのいい子だってぇ?」

「ああ。食べる反応がいちいち面白いお嬢さんだな? と言っても、俺は一回しか会ってねーが」

「俺もビール飲みに行った時に会ったのが二回目」

「じゃ、圧倒的に会ってるのはこん中だと花菜?」

「っつっても、あいつも携帯でのやり取りばっかだそうだ。お嬢さんの好みは、やっぱ楽庵らくあんだからなぁ?」

「元地獄の補佐官様の心を鷲掴みしちゃうほどの子ねぇ? 顔? 霊力? 他は? うぇ?!」

真穂まほが守護についている子の情報、根掘り葉掘り聞かない!!」

「……おっと」



 そう言えば、もう一人来ると連絡があった妖を忘れていた。


 姿はいつもと違って、人間の成人くらいにまで化けている、座敷童子の真穂。美兎の守護についている最強の妖の一端だ。


 今、宗睦の脳天をかち割る勢いでチョップしたわけである。



「んもぉ〜。皆真穂のこと忘れ過ぎ!」

「いや、家妖怪が建物の中で本領発揮されちゃ」

「手出ししにくいだろう?」

「ちょっとぉ!? あたしの心配はぁ!?」

「ねーな?」

「ない」

「うん!」

「んもぉ〜〜!?」



 とにかく、まだ時間はあるとは言え有限ではないので。宗睦にはバーテンダーの服に着替えてもらっている間に、真穂にも花菜と同じサイズの制服を貸したのだが。


 胸の部分がガバガバで、さすがに霊夢や蘭霊を爆笑させたのだった。

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